ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

書誌情報
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
5.非除菌治療
4)ステートメントの根拠
H. pylori 除菌治療によらない胃潰瘍治療に関して,今回のガイドライン改訂にあたって再設定された検索式によって検索された文献のうち,一定の基準(表4)を満たすレベルI,II,IIIの文献のみを採択し検討した。
なお,今回は薬剤をPPI,H2RA,選択的ムスカリン受容体拮抗薬,防御因子増強薬などに群分けし,各薬剤群とプラセボとの比較のみならず,同一薬剤群内での比較や各薬剤群間における比較も行った。また,酸分泌抑制薬(PPIおよびH2RA)については防御因子増強薬との併用投与に関する検討も行った(図7

表4 文献採択基準
1 研究デザインは同時対照(Concurrent controls)をおいた無作為化比較試験(Randomized controlled trial:RCT)以上を原則とする
2 胃潰瘍の診断は内視鏡によって行われており,悪性は除外されている
3 65歳以上,術後残胃など対象とした研究や十二指腸潰瘍合併例,NSAID投与例,H. pylori 除菌療法例などを含んだ研究は省く
4 治療開始後6〜12週間での内視鏡的な治癒(S1もしくはS2)をアウトカムとしている
5 脱落例は有効症例数の20%以下,または治療企図試験(Intention-to-treat analysis)で脱落例は無効例として扱っている
6 論文言語は英語と日本語とする(独語,仏語文献は英文抄録があるものに限る)
7 研究エントリー症例数は各群30例以上を目安とする

図7 H. pylori 除菌治療によらない胃潰瘍治療における各薬剤群間の治癒効果比較
図7H. pylori除菌治療によらない胃潰瘍治療における各薬剤群間の治癒効果比較

(1)PPI(オメプラゾール,ランソプラゾール,ラベプラゾールナトリウム)
(1)潰瘍治癒率比較
1 プラセボとの比較
  PPIが有意に潰瘍治癒率が高い1),2),3)
2 PPI間での比較
  オメプラゾールとラベプラゾールナトリウムとの間には潰瘍治癒率に差はみられない4)。ランソプラゾールに関しては他剤と差があるという報告はない。
3 H2RAとの比較
  PPIがH2RAより潰瘍治癒率が高いという報告5),6),7),8),9),10)と,差がみられないという報告11),12),13),14),15),16)とがあるが,メタアナリシスではH2RAよりPPIの方が有意に潰瘍治癒率が高い17),18),19),20)。長期投与では両者の間に差がみられなくなるが,投与初期にはPPIの方が潰瘍治療率が高いという報告21),22),23),24)があり,PPI投与によって速やかに潰瘍治癒が得られるという特性を表している。
4 防御因子増強薬との併用投与
  胃潰瘍治癒効果に関する十分なエビデンスはない。
(2)投与量と投与期間に関する補足
各薬剤とも常用量(保険適用量),8週間投与で高い潰瘍治癒率が得られる。

(2)H2RA(シメチジン,塩酸ラニチジン,ファモチジン,塩酸ロキサチジンアセタート,ニザチジン,ラフチジン)
(1)潰瘍治癒率比較
A)1日2〜4回投与
1 プラセボとの比較
  H2RAが有意に潰瘍治癒率が高い25),26),27),28),29)
2 H2RA間での比較
  H2RA間では潰瘍治癒率に差はみられない30),31),32),33),34),35),36),37)
3 防御因子増強薬との併用投与
  シメチジンとエグアレンナトリウムとの併用38),シメチジンとエカベトナトリウムとの併用39)では防御因子増強薬による潰瘍治癒の上乗せ効果があるが,シメチジンとソファルコンの併用40),塩酸ラニチジンとスクラルファートの併用41),H2RAとレバミピドの併用42)では上乗せ効果はない。H2RA43),44)またはシメチジン45)とテプレノンとの併用では上乗せ効果は相反する報告となっている。
B)1日1回就寝前投与
1 プラセボとの比較
  H2RAが有意に潰瘍治癒率が高い29),46),47),48),49),50),51),52),53),54)
2 H2RA間での比較
  H2RA間では潰瘍治癒率に差はみられない55),56),57),58)
(2)投与量と投与期間に関する補足
各薬剤とも常用量(保険適用量),8週間投与で高い潰瘍治癒率が得られる。

(3)選択的ムスカリン受容体拮抗薬(塩酸ピレンゼピン)
(1)潰瘍治癒率比較
低用量(50mg/日)ではプラセボとの間には潰瘍治癒率に差はみられない59)が,常用量(100mg/日)ではシメチジンやエンプロスチルとほぼ同等の効果を示す60),61)
(2)投与量と投与期間に関する補足
投与量は常用量(保険適用量)。8週間投与と比較して12週間投与でより高い潰瘍治癒率を期待できる。

(4)防御因子増強薬
酸分泌抑制薬との比較では,一部の防御因子増強薬(スクラルファート,ミソプロストール,エンプロスチル)が単剤でH2RAもしくは選択的ムスカリン受容体拮抗薬と同等の効果を有するというエビデンスが示されているのみで,その他の防御因子増強薬に関しては,胃潰瘍治癒効果に関するエビデンス自体は存在するものの,酸分泌抑制薬と同等以上の効果を有するというエビデンスは示されていない。

1)一部の防御因子増強薬(スクラルファート,ミソプロストール,エンプロスチル)
i)スクラルファート
(1)潰瘍治癒率比較

1 プラセボとの比較
  スクラルファート(3.6g/日)が有意に潰瘍治癒率が高い62)
2 H2RA間での比較
  スクラルファート(3.6〜4g/日)は,シメチジンや塩酸ラニチジンとの間には潰瘍治癒率に差はみられない63),64),65),66),67),68),69),70)
(2)投与量と投与期間に関する補足
保険適用量は3〜3.6g/日である。8週間投与と比較して12週間投与でより高い潰瘍治癒率を期待できる。

ii)ミソプロストール
(1)潰瘍治癒率比較

1 プラセボとの比較
  ミソプロストールの低用量(400µg/日)の長期投与によって潰瘍治癒率に差が現れてくるという報告71)もあるが,差がまったくないという報告72)もあり一定しない。
2 H2RA間での比較
  ミソプロストールは,シメチジンや塩酸ラニチジンとの間には潰瘍治癒率に差はみられない73),74)
(2)投与量と投与期間に関する補足
投与量は常用量(保険適用量)。8週間投与と比較して12週間投与でより高い潰瘍治癒率を期待できる。

iii)エンプロスチル
(1)潰瘍治癒率比較

1 プラセボとの比較
  エンプロスチル(35〜140µg/日)が有意に潰瘍治癒率が高い75),76)
2 H2RA間での比較
  エンプロスチル(70µg/日)は,塩酸ラニチジンとの間には潰瘍治癒率に差はみられない77),78),79)
3 選択的ムスカリン受容体拮抗薬との比較
  エンプロスチルは,塩酸ピレンゼピンとの間には潰瘍治癒率に差はみられない61)
(2)投与量と投与期間に関する補足
保険適用量は50µg/日である。8週間投与と比較して12週間投与でより高い潰瘍治癒率が得られる78)

2)その他の防御因子増強薬
(1)潰瘍治癒率比較
1 プラセボとの比較
  胃潰瘍治癒効果に関するエビデンスに乏しい。
2 H2RA間での比較
  ゲファルナートはシメチジン,ファモチジン,塩酸ラニチジンよりも潰瘍治癒率が低い80),81),82)
3 選択的ムスカリン受容体拮抗薬との比較
  ゲファルナートは,塩酸ピレンゼピンよりも潰瘍治癒率が低い83)
4 防御因子増強薬間での比較
 
a) ゲファルナートはソファルコンやマレイン酸イルソグラジンよりも潰瘍治癒率が低い84),85)
b) 塩酸セトラキサートはレバミピド,ポラプレジンク,ミソプロストール,エンプロスチルよりも潰瘍治癒率は低いが86),87),88),89),塩酸ベネキサートベータデクス,トロキシピド,プラウノトール,エカベトナトリウム,エグアレンナトリウム,オルノプロスチルとの間には潰瘍治癒率に差はみられない90),91),92),93),94),95)
c) テプレノンとプログルミドとの間には潰瘍治癒率に差はみられない96)

以上より,H. pylori 除菌治療によらない胃潰瘍治療において,高い潰瘍治癒率と速やかな潰瘍治癒が期待できるという点でPPI(オメプラゾール,ランソプラゾール,ラベプラゾールナトリウム)のいずれかを第一選択とすることが強く勧められる(グレードA,レベルI(海外)/II(日本))。各薬剤とも投与量は常用量(保険適用量)で,投与期間は保険で制限された8週間投与を原則とするが,未治癒例には投与を継続する。
第一選択薬としてPPIを投与できない場合には,まずH2RA(シメチジン,塩酸ラニチジン,ファモチジン,塩酸ロキサチジンアセタート,ニザチジン,ラフチジン)のいずれかを投与することが強く勧められる(グレードA,レベルII(海外)/II(日本))。各薬剤とも投与量は常用量(保険適用量)で,投与期間は8週間投与を原則とするが,未治癒例には投与を継続する。
次に選択的ムスカリン受容体拮抗薬(塩酸ピレンゼピン)もしくは一部の防御因子増強薬(スクラルファート,ミソプロストール,エンプロスチル)のいずれかを選択することが勧められる(グレードB,レベルII(海外)/なし(日本))。各薬剤とも投与量は常用量(保険適用量)で,投与期間は8〜12週間投与が望ましい。
一部の防御因子増強薬(スクラルファート,ミソプロストール,エンプロスチル)を除くその他の防御因子増強薬には,単剤投与における胃潰瘍治癒効果に関するエビデンスは存在するものの,酸分泌抑制薬と同等の胃潰瘍治癒効果を期待できないので,単剤では第一選択薬として勧められないが,前述のいずれの薬剤も投与できない場合はその限りではない(グレードC1)。
また,PPIと防御因子増強薬との併用療法に関しては,胃潰瘍治癒効果がPPIの単剤投与を上回るというエビデンスはなく,現時点では勧められない(グレードC2)。H2RAと防御因子増強薬との併用療法に関してもエビデンスは十分でなく,エビデンスが示された併用療法以外は現時点では勧められない(グレードC1)。
なお,薬剤の投与にあたっては病態や全身状態を考慮して最も適切な薬剤,投与量,投与方法を選択する。また副作用の出現にも十分な注意をはらう必要があることはいうまでもない。
今回の再検討における問題点は,薬剤に対する評価が内視鏡的な潰瘍治癒率のみで自覚症状や費用対効果などが反映しきれていない点,国内のエビデンスが少ないため外国のエビデンスを日本人に応用してよいのかどうかという点である。また,日本で頻用されている防御因子増強薬に関しては,コンピュータによる文献検索が困難な古い年代の報告が存在する,文献採択基準をみたす質の高い報告が少ない,今後新たに多数のエビデンスが示される可能性は低いなどの理由から,防御因子増強薬に対するさらなる評価は困難と思われる。

*薬剤に過敏症または過敏症の既往歴のある場合や,薬剤による副作用で服用が続けられない場合など

 

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