ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

書誌情報
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
2.出血性潰瘍診療指針
2-2内科的治療

4)ステートメントの根拠
(1)出血性胃潰瘍の再出血予防には胃酸分泌抑制薬が有効である
(グレード A,レベル I)
出血性胃潰瘍の止血後の短期的な再出血予防に対して胃酸分泌抑制薬が有効であるか否かについては,胃潰瘍のみを対象としたRCTはこれまで行われていない。出血性胃潰瘍について胃酸分泌抑制薬が再出血の防止に有用であることが示されているのは,Collinsらの2,670例の上部消化管出血例を対象とした英国における27施設のランダム化比較試験のメタアナリシスの成績で,792例の出血性胃潰瘍を対象とした解析ではH2受容体拮抗薬(H2RA)であるシメチジンあるいは塩酸ラニチジンの投与により,出血性胃潰瘍の再出血率(H2RA群21% vs 対照群27%),手術施行率(14% vs 21%),死亡率(6% vs 27%)とわずかではあるが統計上は有意に低下していることが示されている2)。一方,775例の上部消化管出血例を対象としたBarerらのシメチジン,トラネキサム酸,プラセボの3群のRCTの成績では,186例の胃潰瘍についての解析の結果,再出血率はシメチジン群とプラセボ群との間に差は認めていない(22% vs 29%)3)。また,Grayらの塩酸ラニチジンを用いた102例(胃潰瘍は41例)の上部消化管出血を対象としたRCTの結果では,プラセボ群と比較して輸血必要患者数,輸血総量,再出血患者数などに明らかな差は認められていない4)
プロトンポンプ阻害薬(PPI)はH2RAより強い胃酸分泌抑制が期待される薬剤であるが,出血性胃潰瘍について単独にその有用性を解析した研究はなく,胃潰瘍を含めた上部消化管出血例をプラセボ5)あるいはH2RA(シメチジン)6)と比較し再出血抑制効果があるとするものもあるが,一方,プラセボ7)あるいはH2RAの1つである塩酸ラニチジン8)と比べ有意な差はないとするものもあり一定の見解は得られていない。上部消化管出血例を対象としたRCTでありながら,このような成績に差異を認める背景には,前述した内視鏡的止血治療の止血成績や対象の差異が関わっていると考えられる。最近のCochrane Libraryのメタアナリシスから胃潰瘍単独の成績ではないが,Leontiadisら9)はPPIは出血性潰瘍の輸血量と入院日数を有意に低下させることを報告している。最近のメタアナリシス10),11),12)の結果では,出血性潰瘍に対するPPIの有効性が明らかにされているが,出血性胃潰瘍単独の成績は示されていない。一方,内視鏡的治療の有無は記載されていないが,Levineらのメタアナリシス13)では,H2RAの静脈内投与は,十二指腸潰瘍では有効性が認められていないが,胃潰瘍においては再出血率と外科手術率を低下させることが示されている。
日本における出血性胃潰瘍の内視鏡的止血率は90%を越えるものであり,確実な内視鏡的止血が行われた場合に,再出血の予防として胃酸分泌抑制薬が必要であるか否かについては日本でのRCTは行われていない。しかしながら,出血性胃潰瘍に対しては出血直後には絶食と輸液が基本であり,潰瘍そのものの治療に胃酸分泌抑制薬が必要であることも考え合わせると,出血直後に絶食下で胃酸分泌抑制薬を投与することは有効な治療と考えられる。

(2)出血性胃潰瘍の絶食期間は3日である(グレード C1,レベル IV)
出血性胃潰瘍に対してどの時期からどのような内容の食事を開始するかについては一定の見解はないし,これを裏付けるエビデンスとなる研究は行われていない。慣例的には3日間の絶食期間の後に再出血の徴候がない場合に流動食より順次常食に戻すことが行われているが,施設によってはより早期に経口摂取を始める施設もある。これには,消化性潰瘍の内視鏡的止血治療後の再出血が3日以内に多いこと14),15),再出血に対して内視鏡的止血治療を再度行う場合に絶食であれば容易に行うことができること,また食事により胃の収縮運動や胃酸分泌が促進され再出血を誘発することなどが裏付けとなっている。フランス語による論文であり出血性胃潰瘍についての検討ではないので参考資料ではあるが(英文抄録あり),26例の出血性消化性潰瘍(総症例26例でうち胃潰瘍は9例)にエピネフリン局注を行った後の絶食期間を検討したフランスでの最近のRCTによる検討では,止血当日よりミルクの内服,2日後に流動食,3日に常食を摂取した群と3日の絶食後に同様の食事内容で開始した2群の比較では再出血率,輸血量に差はなく,入院日数は有意に非絶食群で短縮されたと報告されている(食事群:6.8±2.1日,絶食群:9.9±3.7日,p=0.01)16)。しかしながら,再出血は食事群で1例に認められている。消化管出血に対する止血治療が著しく進歩した現在において,絶食の必要性,絶食期間,食事内容などの検討が必要ではあるが,再出血とその対応を考えると再出血率の高い3日間の絶食は妥当と考えられる。止血後の食事療法については,一般的には流動食より開始するが,その内容については明確なエビデンスのある研究はない。

(3)出血性胃潰瘍の長期的な再出血予防にはH. pylori の除菌治療が有用である(グレード A,レベル I)
出血性胃潰瘍を対象として長期的な経過から,H. pylori 除菌が再出血の予防に有効な治療であるか否かについてはRCTとして行われたものは現在のところない。胃潰瘍を含む消化性潰瘍出血症例についてH. pylori 除菌群とH2RA(塩酸ラニチジン)による維持療法群の2群についてはRCTが行われているが17),除菌群で再出血率が低い傾向にあるものの有意差は認められていない。一方,H. pylori 除菌群と非維持療法群とを比較した他の4つのRCT18),19),20),21)の結果では,いずれもH. pylori 除菌群において有意に再出血率が低下している。Sharmaらはこれらの成績のメタアナリシスから,H. pylori の除菌は出血性消化性潰瘍の再出血を非維持療法群と比べ17%,維持療法群と比較し4%低下させ,経済効果を考えても出血性消化性潰瘍の再出血の予防にはH. pylori の除菌が有効な治療であることを指摘している22)。最近のGisbertらやKhorramiらのCochrane Libraryによるメタアナリシス23)でも,H. pylori 除菌が再出血を有意に低下させることを明らかにしている。出血性胃潰瘍について単独にH. pylori の除菌が有効であるか科学的根拠を裏付ける研究はこれまで行われていないが,出血性胃潰瘍の再出血率が止血後2年で10%,5年で19%,8年で33%に達すること24),出血性胃潰瘍の再出血には潰瘍そのものの再発が問題であり,H. pylori の除菌が潰瘍の再発を明らかに抑制することを考えると,H. pylori の除菌は出血性胃潰瘍の再出血の予防に有用と考えられる。


 

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