患者・市民参画の実践

[最終更新日] 2023年12月26日

1. 患者・市民参画の重要性

Mindsでは、診療ガイドライン作成における患者・市民参画の重要性として、「Minds作成マニュアル 2020 Ver3.0」の中で以下の3つをあげています。

診療ガイドラインの本質に根差した重要性
診療ガイドラインが医療利用者と医療提供者の協働意思決定を支援するものである以上、診療ガイドラインは医療利用者(患者さん、ご家族、市民の方)のニーズ・知りたいことに応えるものである必要があります。
そのためには、診療ガイドライン作成過程に患者・市民が参画し、自身の経験や、一般的な患者・市民の価値観・希望、重要視する点などについて情報提供を行うこと、または作成グループがそれらについて情報収集を行うことは欠かすことのできない取り組みといえます。

質の高い診療ガイドライン作成に資する手段としての重要性
診療ガイドラインの作成過程に患者・市民が参画することにより、以下のような点において診療ガイドラインの質向上に寄与することが見込まれます。

  • 患者・市民にとって重要であっても、医療者が澪そしてしまう対処すべき課題・疑問やCQのアウトカムを拾い上げることができる。
  • 当該診療ガイドラインにおいて課題となる治療法が、患者・市民に実際にどのような影響を与えるかについて知り、益と害(副作用、費用、不便、不利益等)の推定をより具体的に行うことができる。
  • 推奨を作成する際、科学的なエビデンスを補完・補強するもの、または疑義を呈するものとして、患者・市民の見解を反映できる。
  • 診療ガイドラインの普及と活用について、示唆が得られる。

診療ガイドラインの社会的信用の基盤となる
患者・市民は、医療利用者(別の言い方では医療消費者)として、医療に社会的な関わりを持つ存在でもあります。そうした人々のニーズや見解が診療ガイドラインに反映されることは、社会からも今後ますます重要視されると考えられます。
診療ガイドラインが、患者・市民を含む多様な関係者(ステークホルダー)によって、民主的で透明性の高いプロセスで作成されることで、社会への説明責任を果たし、広く信頼できる情報として受け入れられることにつながります。

2. 患者・市民参画の実践方法

患者・市民参画とはに記載があるとおり、患者・市民参画への実取り組み方は多様で、「この方法が正解」というものがあるわけではありません。一方で、長年にわたる国内外の患者・市民参画の取り組みの中で、いくつかの主だった実践方法が整理されています。

作成グループ委員としての参加
診療ガイドライン作成の全過程を通して、患者・市民に作成グループのメンバーとしてもらい、意見を取り入れながら診療ガイドラインを作り上げる方法。場合によっては、スコープの作成や推奨作成など、必要な段階で作成グループの議論に参加してもらうことも検討できる。

外部評価委員としての参加
スコープや推奨等、診療ガイドラインの作成の要所でまとめられる文書の草案が出来上がった段階で、患者・市民に作成グループ外の立場として草案をレビューする外部評価委員になってもらい、評価を受ける方法。

インタビュー
1対1の個別インタビューや、複数人が参加するフォーカスグループインタビューなどを実施して、患者・市民にとっての課題・疑問、重要視する点などを情報収集し、スコープや推奨の作成に活用する方法。スコープや推奨の草案ができあがった段階で、それらに対してのフィードバックを得るために実施することも検討できる。

アンケート
郵送や電話、ウェブなどで質問紙調査を実施し、患者・市民にとっての課題・疑問、重要視する点などを情報収集し、スコープや推奨の作成に活用する方法。スコープや推奨の草案ができあがった段階で、それらに対してのフィードバックを得るために実施することも検討できる。

文献調査
患者・市民の価値観・希望、選好やニーズなどを調査した研究論文やその他の文献から、患者・市民にとっての課題・疑問、重要視する点を情報収集し、スコープや推奨の作成に活用する方法。

パブリックコメント
スコープや推奨、診療ガイドライン全体の草案が完成した段階で、草案をウェブ等で公開し、広く意見を募集する際に、医療者だけでなく患者・市民にも周知し、フィードバックを得る方法。

上記はそれぞれ個別に実施されることもあれば、掛け合わせて複数実施されることもあります。
作成グループのマンパワーや資金などのリソース、作成ポリシーに応じて、診療ガイドライン作成過程の最初の段階で、患者・市民参画の実践について方針を検討することが重要です。
なお、実践方法の詳細につきましては、「Minds作成マニュアル 2020 Ver3.0」の「第2章 準備」に記載されていますので、ぜひご覧ください。

3. 「GIN Public Toolkit」のご紹介

「GIN Public Toolkit」とは、診療ガイドライン作成組織の国際的なネットワーク「Guideline International Network(GIN)」の発行する、患者・市民参画の実践方法をまとめた文書です。
Mindsでは、「GIN Public Toolkit」の2015年改訂版をGINの許可のもと日本語に翻訳し、Mindsが独自に作成した「紹介資料」「サマリー版」と合わせて公開しています。
その後、GINでは2021年にさらなる改訂版を公開しています。2021年版については現時点で日本語翻訳版がありませんが、GINのウェブサイトで電子版とPDF版を閲覧することができます。
海外と日本では医療制度や診療ガイドラインの作成主体等も異なり、すべてをそのまま取り入れることは難しいかもしれませんが、国際的な動向としてぜひ参考にしてください。

GIN Public Toolkit(2021年改訂版)

GIN Public Toolkit(2015年改訂版)