診療ガイドライン患者・市民向けQ&A

  • 診療ガイドラインに関する基礎知識や、診療ガイドライン作成に患者・市民が参加する意義や方法などについて、Q&A形式でまとめています。
  • 各Q&Aは、1ページごとにPDF形式でダウンロードしていただくことができます。作成グループの方は、患者さん・市民の方に、必要なページを印刷してお渡しください。
  • ご意見や、新たな疑問などございましたら、 minds.help@jcqhc.or.jp 宛にメールをお送りください。(回答できかねる場合もございますのでご了承ください)
Q

診療ガイドラインとは何ですか?

drop down
A
エビデンス(科学的根拠)などに基づいて最適と考えられる治療法を提示する文書のことで、患者と医療者が治療法などについて意思決定する際の重要な判断材料となります。

体調が悪かったり怪我をしたりするなどして医療機関を受診すると、診察や検査、治療などが行われます。このような一連の診療の流れの中には、複数の選択肢がある場合があります。
たとえば、胃の検査として胃カメラかX線検査か、あるいは治療法として外科手術か薬物療法か、を選べる場合などです。その際に、複数の検査法や治療法のエビデンス(科学的根拠)、検査や治療に伴う益(利益)と害(弊害)のバランス、患者の価値観と希望、経済的視点(コストや負担)などを考慮して、最適と考えられる方法を「推奨」という形で示す文書が診療ガイドラインです。
エビデンスとは科学的根拠のことで、一般的には信頼性の高い手法で実施された研究から得られた結果です。
推奨とは、比べている検査法や治療法の選択肢について、実施することを推奨するか、あるいは実施しないことを推奨するか、を示した文章です。
診療ガイドラインは、書籍として出版されたり、学会のホームページなどで公開されたりして、実際の診療場面で活用できるようになっています。
Q

診療ガイドラインはどのように作られるのですか?

drop down
A
良質で信頼できる診療ガイドラインを作成するためには、以下のようなプロセスを経ることが望ましいと考えられています。

  • 作成方針決定…作成に携わる委員や委員会の構成などを検討し、組織作りをするとともに、診療ガイドラインの目的などについても検討し、共有します。
  • スコープ作成…診療ガイドライン作成の企画書にあたる「スコープ」を作成します。取り上げる疾患の検査や治療における重要なトピック(重要臨床課題)を決定し、それを基にしてクリニカルクエスチョンを設定します。クリニカルクエスチョンとは、重要臨床課題に基づいて、診療ガイドラインで答えるべき疑問の構成要素を抽出し、ひとつの疑問文で表現したものです。
    例)虫垂炎(盲腸)の治療方法に関するクリニカルクエスチョン
    「穿孔、腹膜炎を起こしていない成人の虫垂炎において、外科手術と抗菌薬治療ではどちらが推奨されるか?」
    参考)「Q.クリニカルクエスチョンとは何ですか?」
  • システマティックレビュー…クリニカルクエスチョンを決定したら、それを基に関連する研究論文を網羅的に検索・収集します。得られた研究論文を一定の基準で選択、評価し、複数ある研究論文のエビデンス(科学的根拠)をまとめます。
  • 推奨作成…クリニカルクエスチョンに対する回答の形式で推奨文の草案を作成します。推奨の内容を検討する際には、複数の治療法や検査法のエビデンス(科学的根拠)のまとめ、治療や検査に伴う益(利益)と害(弊害)のバランス、患者の価値観と希望、コストや負担などを考慮します。
  • 最終化…クリニカルクエスチョンと、それに対応する推奨、その解説や文献リストなども加えて、診療ガイドラインの草案を作成します。その後、作成に携わった委員以外の評価や意見などを加味した上で、診療ガイドラインを完成させます。
  • 公開・普及・改訂準備…完成した診療ガイドラインは、多くの人が利用できるよう書籍、ウェブサイトなどで公開します。あわせて実用版、簡易版など活用促進に向けた文書も作成します。また、患者・市民に向けた解説を作成することも普及に向けた重要な作業です。
Q

なぜ診療ガイドライン作りに患者・市民が参加するのですか?

drop down
A
患者にとっては重要でも、医療者にとっては気づきにくい疑問や観点などを伝えることで、患者と医療者の意思決定に役立つ「診療ガイドライン」を作ることができると期待されるからです。

従来の診療ガイドラインでは、「ある治療法による生存期間の延長」のように、客観性の高いエビデンス(科学的根拠)により健康状態の改善が期待される場合、その治療法を「強い推奨」として提示していました。その結果、個々の診療現場で医療者は診療ガイドラインの「強い推奨」を最良の選択肢と捉え、ともするとその方法のみを患者に提示することもありました。
しかし、「生存期間の延長」などの「益」ばかりが示されるだけでは、その方法が患者にとって最善の方法であると判断するには情報が足りない場合があります。
たとえば、生存期間が3か月延びることが十分なエビデンス(科学的根拠)から期待されていても、その期間に生じるかもしれない薬の副作用といった「害」や金銭的負担などと「3か月長く生きられるかもしれない」という「益」を比較して、患者はその治療方法が本当に自分自身にとって最善か悩むかもしれません。
患者の価値観は多様です。診療ガイドラインには、臨床現場において、患者と医療者が協働して問題に向き合い、より良い解決策を見つけ出していくことを支援するために、患者の価値観や希望を考慮したクリニカルクエスチョンの設定や推奨の提示が求められています。そのためには、診療ガイドラインの作成過程における患者・市民の参加が欠かせません。
さらに、診療ガイドラインが、医療者と患者・市民がお互いの立場を尊重した真摯な議論を経て作成されれば、その信頼性・公平性はより高くなるでしょう。
Q

診療ガイドライン作成に参加するにはどのような方法がありますか?

drop down
A
診療ガイドライン作成への関わり方は様々です。患者・市民の立場で、あなたの意見を伝えてください。

患者・市民の診療ガイドライン作成への関わり方として、以下のような方法が考えられます。
  • 作成委員としての参加…診療ガイドライン作成のために開催される委員会に、委員の一人として加わります。会議は、診療ガイドラインの完成まで複数回開催されますが、その一部、または全部に参加します。会議の中では、一委員として、患者・市民の視点から意見を述べることで、医療者だけでは気づかない点について、議論を深めることができます。また、クリニカルクエスチョンの設定、推奨作成において、作成グループとしての決定を行う投票に参加することもあります。
  • 外部評価委員としての参加…作成委員(作成委員会のメンバー)以外の人が、診療ガイドラインの内容について評価することを外部評価といいます。外部評価委員は、診療ガイドラインの企画書であるスコープの草案や、推奨を含んだ診療ガイドラインの草案ができた時点で、作成委員会から意見を求められます。その際は、患者・市民の立場から草案に対して考えたことをまとめ、作成グループに伝えます。
  • インタビュー…作成委員会から依頼され、対面や電話などを通じて、インタビューを受けることもあります。複数の人が参加して、対話しながら意見を出し合うインタビューや、1対1のインタビューなどがあります。
  • アンケート…作成委員会からアンケートを依頼されることもあります。郵送で調査票が送られてくることもあれば、インターネット上で回答することもあります。
  • パブリックコメント…作成委員会は、スコープの草案や、診療ガイドラインの草案ができあがった時点で、それを公開し、広く意見を募集することがあります。これをパブリックコメントといいます。パブリックコメントでは、作成委員会から特別な役割を依頼されていなくても、誰でも意見を表明することができます。
Q

診療ガイドライン作成に参加するにあたって気をつけなければいけないことはありますか?

drop down
A
”利益相反”や”守秘義務”について留意することが求められます。

科学者・専門家としての活動と、個人としての社会経済的な利益(利害)が衝突・相反している状態のことを、「利益相反(Conflict of Interest:COI)」といいます。利益相反があることで、研究の独立性が損なわれる可能性があります。
診療ガイドラインの作成においても、患者・市民の立場として、診療ガイドライン作成以外の活動に伴う社会的、経済的、あるいは知的な利害関係から、診療ガイドラインの作成において公正な判断ができない、または、そのように疑われる事態をできる限り避けることが望まれます。
そこで、診療ガイドライン作成の際には、各委員が自身の利益相反について申告し、ガイドライン作成委員会の中での役割を制限したりするなどして、公正な判断が損なわれないよう管理することが重要になります。(利益相反)
また、診療ガイドライン作成委員会での議論の内容や、他の委員のプライバシーに関することについては、外部に漏らさないよう注意することが必要です。(守秘義務)
Q

エビデンス(科学的根拠)とは何ですか?

drop down
A
あるテーマに関する試験や調査などの研究結果から導かれた、科学的な「根拠」「裏付け」のこと。

エビデンスは、日本語にすると「証拠」「根拠」です。保健医療で用いる場合には、しばしば「根拠」として訳されます。この場合のエビデンスは、試験や調査などの研究結果から導かれた、科学的な裏付けを意味します。たとえば、ある治療法や治療薬に効果があるかどうか研究した場合などに得られた結果は、その効果に関するエビデンスといえます。
一方で、すべての試験や調査が完璧な精度でエビデンスを導き出せるわけではありません。様々な要因によって、一定の偏りを含んでしまうこともあります。また、年齢や人種、医療行為の量や頻度など、診療ガイドラインで取り上げる課題と、エビデンスとして取り上げた研究の課題とにずれが生じていることもあります。診療ガイドラインを作成する際は、研究から得られたエビデンスがどの程度信頼できるものなのか、システマティックレビューの段階からエビデンスの確実性について検討し、推奨を作成する際に考慮します。
参考:ヘルスリテラシー 健康を決める力(https://www.healthliteracy.jp/
「エビデンス:根拠に基づいた保健医療」戸ケ里泰典、中山和弘
Q

スコープとは何ですか?

drop down
A
診療ガイドラインが取り上げる事項や作成方法を明確にするための文書で、診療ガイドラインの企画書にあたるものです。

スコープは、診療ガイドラインの作成にあたり、診療ガイドラインの目的や対象、取り上げる課題、作成から公開に至るまでの方法などを明確にするために、診療ガイドラインの作成の早い段階で作成される文書であり、診療ガイドライン作成の企画書ともいえる文書です。
スコープを作成していく過程で、当該疾患に関する診療上の重要な課題を基にしたクリニカルクエスチョンを設定します。患者・市民には、課題の重要度の判断や、検討する事項に見落としがないかなどについて、意見が求められます。

標準的なスコープへの記載項目は、以下のようなものです。
<診療ガイドラインが扱う内容に関する事項>
・タイトル・目的・トピック ・想定される利用者 ・既存ガイドラインとの関係 ・重要臨床課題 
・ガイドラインが扱う範囲 ・クリニカルクエスチョンのリスト
<システマティックレビューに関する事項>
・実施スケジュール ・エビデンスの検索 ・文献の選択基準、除外基準 ・エビデンスの評価と統合の方法
<推奨作成から最終化、公開までに関する事項>
・推奨作成の基本方針 ・最終化 ・外部評価の具体的方法 ・公開の予定
Q

クリニカルクエスチョンとは何ですか?

drop down
A
診療ガイドラインで答えるべき疑問の構成要素を抽出し、ひとつの疑問文で表現したもの。

クリニカルクエスチョンでは、重要臨床課題(取り上げる疾患の検査や治療における重要なトピック)を取り上げます。たとえば、新たな臨床研究によってよりよい診療の選択肢の可能性が示された場合や、長年の慣行によって複数の診療の選択肢が並存している場合など、選択肢が複数あり、いずれが最適な選択肢となるか判断が求められる場合がこれにあたります。
取り上げる重要臨床課題が決まったら、その内容を4つの構成要素で整理します。
構成要素は、Patients(対象:治療の対象となる患者の特性や範囲)、Interventions(介入:検討したい医療行為)、Comparison, Comparators(対照:比較対照となる医療行為)、Outcomes(アウトカム:医療行為によって患者に生じうる結果)です。これらの頭文字をとって「PICO」、「ピコ)と呼ばれています。アウトカムには、生存期間の延長などの益(効果など)のみでなく、医療行為によってもたらされる害(副作用など)も含まれます。
PICOが決まったら、一つの疑問文で表現します。これをクリニカルクエスチョンと呼びます。「患者Pに対して、医療行為Iと医療行為Cのどちらを行うことが推奨されるか?」という形が一般的です。
このように、診療上の重要な課題(重要臨床課題)に対して立てられたクリニカルクエスチョンに対して、エビデンス(科学的根拠)などに基づいて、回答となる推奨を作成していきます。診療ガイドラインには、このクリニカルクエスチョンと推奨がセットになって示されています。

Q

システマティックレビューとは何ですか?

drop down
A
研究論文を系統的に検索・収集し、類似した研究を一定の基準で選択・評価したうえで、科学的な手法を用いてまとめること。

「クリニカルクエスチョン」に対する「推奨」を作成していくにあたっては、その時点で存在するエビデンス(科学的根拠)を収集し、偏りがないように慎重に吟味する必要があります。そのために、診療ガイドラインの作成においては、研究論文を網羅的に調査し、複数の研究を選定し、研究ごとに同質の研究をまとめ、バイアス(偏り)を評価しながら、研究結果を分析し、まとめていきます。この過程をシステマティックレビューと呼びます。システマティックレビューは、ひとつのクリニカルクエスチョンに設定されたアウトカムごとに複数の研究の結果をまとめ、その結果にあらわれる効果の大きさや結果の確実性を評価します。
<システマティックレビューの流れ>
①クリニカルクエスチョンに関連する研究論文を系統的に可能な限り検索・収集する
②得られた研究論文を一定の基準で選択、評価する
③複数ある研究論文の結果(エビデンス)を統合する
④エビデンスの確実性(質)を決定する
Q

推奨とは何ですか?

drop down
A
臨床で解決したい問題(クリニカルクエスチョン)に対して、回答の形で作成される文章。

推奨とは、クリニカルクエスチョンに対して、特定の医療行為を「実施することを勧める」かどうかを示す文章で、ガイドラインの最も大切な部分です。
ガイドラインの多くは「どれくらい勧めるか」という尺度を4つのレベル(強さ)で示しています。「実施しないことを勧める」と「実施することを勧める」という方向を示し、それぞれの方向について「強く勧める」か「弱く勧める(条件付きで勧める)」かという2種類の強さを示します。
この4つのレベルを決めるときには、益(利益)と害(弊害)のバランスの大きさとなどを評価します。ふたつの医療行為AとBのうち、Aの方がBよりも益が大きく害がより小さいとき、Aが問題なく推奨されます(強い推奨)。しかし、Aの方がBに比べて益が大きい代わりに害も大きい場合には、より慎重にAとBを比較検討する必要があります(弱い推奨)。また、推奨の作成にあたっては、システマティックレビューで提示された益と害のバランスやエビデンスの確実性に加え、他にも考慮すべき事項があります。
ひとつは、患者さんの価値観と希望の多様性です。益と害のバランスを評価するためには、益と害にどの程度の重きを置くかという価値判断が重要です。したがって、患者さんが一般的にはどのような価値観と希望を持っているかということが、推奨の作成にあたって重要な情報となります。
もう一つは、実施される医療行為にまつわるコストを含んだ経済的な視点です。診療ガイドラインが、介入の費用をまったく考慮しないで高額な検査・治療などを推奨する場合、患者さんや社会全体に大きな経済的負担を強いることになります。したがって、診療ガイドライン作成にあたっては、医療行為の費用等についても考慮することが望ましいといえます。
Q

推奨を作成した後はどうしますか?

drop down
A
診療ガイドライン全体を完成させた後に公開し、普及に取り組みます。また、診療ガイドラインは継続的に改訂していくことが求められます。

推奨を作成した後に、診療ガイドラインとして基本の構造である「クリニカルクエスチョン」と対応する「推奨」に加え、その一覧であるガイドラインサマリー、診療の全体を示したアルゴリズム、および診療ガイドラインの作成の過程などを編集します。また日本の診療ガイドラインでは、利用者の理解を助けるために、診療ガイドラインのテーマに関する疫学的、臨床的な特徴などを含めることもあります。診療ガイドライン全体を完成させるにあたっては、パブリックコメントが広く募集されたり、外部評価が行われたりする場合もあります。〔最終化〕
診療ガイドラインが完成したら、多くの人が利用できるよう書籍、ウェブサイトなどで公開します。実用版、簡易版など診療ガイドラインの活用促進に向けた文書も作成します。また、患者・市民に向けた解説を作成することも普及に向けた重要な作業となります。
診療ガイドラインが世の中で広く普及することによって、実際の診療場面で、患者と医療者がよく話し合い、協働して意思決定をすることができるようになると期待されます。〔公開・活用の促進〕
また、将来的には、診療ガイドラインの導入による医療の質の変化についても評価することが望まれます。〔評価〕
そして、診療ガイドラインは一度作成されればそれで終わりではなく、エビデンス(科学的根拠)や医療制度の変化を踏まえ、継続的に改訂を行っていきます。〔改訂〕
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