(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版

 
8 治療

3 治癒可能なEDの発見と治療
心因性EDには,精神療法,PDE5阻害薬が治療に用いられ,予後は良好である。
〔推奨グレードB〕
テストステロン低下によるEDには,テストステロン補充療法が有効であり,わが国では筋肉注射が用いられている。
〔推奨グレードB〕
若年者の外傷後の動脈性EDは,経験豊富な外科医が治療をすれば予後は良好である。
〔推奨グレードB〕

1)心因性EDとそれに対する精神療法

心因性EDとは「主たる原因が,精神的な要素あるいはパートナーとの関係にあるED」と定義される1)
その臨床的特徴は,
  • ・突然の発症
  • ・特別な状況で発生する
  • ・夜間(早朝)勃起は正常
  • ・パートナーとの関係に問題がある
  • ・性の発育段階に問題がある
とされる2)

その診断にあたっては,以下の3点を念頭に置いておく1)
器質的な原因が発見できないからという理由で,除外診断として心因性EDとしてはならない。
確実な(あるいは主な)心因を確定しなければならない。器質性と心因性が合併していると考えられたら,両者の混合性EDと診断する。
心因性EDは他の性機能障害(性欲低下など)や精神疾患(うつや不安障害)を合併することが多い。
精神性科学はEDの原因究明,診断に重要な役割を果たしたが,精神療法の効果を示すには大規模なRCT に欠けている3,4)。精神療法や行動療法に関する結果のデータは定量化されておらず,これらの治療の効果に対する評価は十分に論文化されていない5)
EDに対する精神療法は,脱感作療法,感覚焦点法,カップル療法,行動療法,性教育,コミュニケーションと性的な技術の訓練や,マスターベーション訓練などのさまざまな介入が含まれる。単独の介入や組み合わせた方法を含め,これらの方法のどれが最も有効であるかは明らかでない。しかし,これらの介入が患者や患者とパートナーの関係や性生活を改善するのに役立つことは臨床経験が示している(委員のコンセンサス)。
Hedon はEDの精神療法による治療に関して,以下の3つの点が重要であるとしている6)
知識不足からくる不安を軽減するために,EDについて患者に十分説明する。
問題となっていること(ED)が珍しいものではなく,克服できるものであることを患者に説明し安心させる。
患者がパートナーにネガティブな感情をもっているためにEDになったのではないことを保証する。パートナーと問題を話し合うことを勧める。挿入がすべてではなく,キスや抱擁といった親密さを示すことが大事であることを理解させる。
Wylie は,23組のカップルを対象にした前向き試験の結果を報告している7)。改良型セックス療法と行動療法の組み合わせを利用したカップル治療では,87% の男性において6回の治療セッションが終わるまでに性的な症状に改善が認められた。6カ月後の追跡調査でも効果は持続していた。日本では,阿部がノン・エレクト法という逆説的心理療法を125カップルに行い,主治医の判定で84% の改善率を報告している8)
精神療法と,PDE5阻害薬,陰茎海綿体注射,陰圧式勃起補助具とを比較した研究のメタアナリシスがある9)。11件のRCT が抽出され,対象患者(心因性EDと混合性ED)は総計398名で,複数の精神的な治療技術が用いられていた。グループ療法群と無治療群を“EDの存続”をエンドポイントとして比較すると,相対リスクは0.40(95% 信頼区間:0.17〜0.98)でグループ療法群において勃起機能が有意に改善していた。この治療効果は6カ月後も持続していた。また,精神療法とシルデナフィルとの併用群とシルデナフィル単独群を性交可能性と脱落率で比較したRCTにおいて,併用群はシルデナフィル単独群と比較して,成功率でも(相対リスク:0.46,95% 信頼区間:0.24〜0.88),脱落率でも(相対リスク:0.29,95% 信頼区間:0.09〜0.93)有意に有効性が高かった。しかし,心理的介入と陰茎海綿体注射との比較では,“EDの存続”,満足度,脱落率のいずれでも両群間で差がなかった。同じく,陰圧式勃起補助具と精神療法との併用群と陰圧式勃起補助具単独群との比較でも,両群間で治療効果に差はなかった。
インターネットによるED男性のパートナー293名の調査によると,男性がEDになる前と比較して性欲,興奮,オルガズムの頻度,満足感の低下が示され,EDがパートナーの性生活へ多大な影響を与えることが明らかになった10)。男性単独ではなく,カップルとして治療に参加するならば,勃起機能の回復を確実にするだけではなく,カップル2人の性的なQOL を改善する11)
中東地域12-14)やわが国15)では,新婚EDあるいはハネムーンEDと呼ばれる,その原因の多くが心因性である一群の患者群が存在することが知られている。新婚EDの患者中の心因性EDの割合に関しては,ICI,カラードプラ,リジスキャンプラス® 等で診断した結果,191名中74.4%12)と100名中74%13)が心因性だったとされている(残りは器質性もしくは女性側の要因)。
その定義は,中東地域からの論文によると13,14)「結婚初期(特に最初の数夜)に性交渉が満足に行えない」状態とされ,日本では高波が「結婚以来一度も性交がうまくいったことがない」状態としている15)。その頻度に関しては,高波は東邦大学リプロダクションセンターの15年間の統計で,EDを主訴として受診した患者3,523名中919名(26.1%)で,平均年齢は32.6歳,見合い結婚率が53.2%,結婚までに性体験がないものが30% であったとしている15)
治療に関しては,まず性教育が施される13,15)。高波は,行動療法として前述のノン・エレクト法8)を用いて67% に有効であったとしている15)。PDE5阻害薬の有効率は高く,45名中41名(91%)がタダラフィルで膣挿入が可能となり,そのうち34名(全体の76%)が1カ月以内にタダラフィルが不要になったと報告されている14)

2)テストステロンの低下

テストステロンの分泌には日内変動があるので,午前中に採血する。その基準値は,健康な日本人男性1,143名(20〜77歳)のデータ16)から総テストステロン値として,2.01〜7.50 ng/mL とされている。遊離テストステロンの基準値は年齢によって設定されており,20代8.5〜27.9 pg/mL,30代7.6〜23.1 pg/mL,40代7.7〜21.6 pg/mL,50代6.9〜18.4 pg/mL,60代5.4〜16.7 pg/mL,70代4.5〜13.8 pg/mL となっている。
テストステロンの男性性機能に与える影響を調べたメタアナリシスによれば17),テストステロン補充療法は,低テストステロンで血管性のED患者には有効な治療法である。ただし,効果は時間が経過するにつれて低下する傾向にある。テストステロン補充療法は前立腺癌の患者には禁忌である。実施前には,直腸診と前立腺特異抗原(PSA)値の測定が必須である。補充療法を受ける患者は,定期的に効果の確認と血算,肝機能,PSA のチェックを受ける必要がある。このメタアナリシスで検討されたRCT は17件あり,総計656名(テストステロン群284名,プラセボ群284名,クロスオーバー法のため両者の投与を受けた群88名)が対象であり,人数が少ないこと,追跡期間〔中央値3カ月(1〜36カ月)〕も短いことから,長期間の安全性に疑問を呈している。また,出版バイアスの可能性も指摘されている。
わが国におけるテストステロン製剤は,内服薬(メチルテストステロン),注射薬(プロピオン酸テストステロン,エナント酸テストステロン)と軟膏(OTC 薬)がある。ただし,内服薬は肝機能障害が問題で18),軟膏に関しては血中濃度などのデータが乏しいことが問題であり19),筋肉注射が一般的である。

3)若年者の外傷後の動脈性ED

外傷性の動脈障害を有する若年患者において,動脈バイパス手術を行い,動脈血の流入を増大させることによりEDが治癒あるいは改善する可能性がある(長期の成功率:60〜70%)20)。わが国における51名の患者の5年間の追跡調査によれば,自覚症状による評価で67.5% が有効とされている21)。これらの患者は,特殊な検査で評価する必要があり,かつ経験豊富な外科医による治療を受けるべきである。
 この章の参考文献一覧

 


 
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