(旧版)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2011

 
 
第2章 診断

■ Clinical Question 3
腰部脊柱管狭窄症を診断するために有用な病歴および診察所見は何か

推奨

【Grade I】
患者が中高齢で,座位により改善あるいは緩和する下肢痛がある場合は腰部脊柱管狭窄症の可能性が高い.また診察所見では,「開脚歩行」,「伸展位での殿部痛や下肢痛の増強」,および「神経症状」が腰部脊柱管狭窄症を強く示唆する.歩行時に下肢痛が増強しなければ,腰部脊柱管狭窄症の可能性は低い.

【Grade B】
「腰部脊柱管狭窄診断サポートツール」は,患者をスクリーニングするために用いられるツールとして簡便で有用である.


解説

腰部脊柱管狭窄症を診断する有用な病歴や診察所見を明らかにするためには,本症における感度や特異度の高い臨床症状や徴候,他覚的所見を明確にする必要がある.それらの診察所見の包括的尺度として尤度比(likelihood ratio:LR)が用いられる.ただし,診断における根本的な問題は腰部脊柱管狭窄症の診断基準がなかったことである.そのため術前診断においては,専門家の見解に依らざるを得ないことが多い.
腰痛を有し脊椎専門医を受診した40歳以上の93例(平均年齢65.3歳,女性69%)について,病歴および診察所見の意義を検討した報告では,腰部脊柱管狭窄症と関連性が高い尤度比(LR)2以上の病歴は,「中高齢(LR 2.5)」,「下肢痛(LR 2.0)」,「座位時の疼痛消失(LR 6.6)」,「座位による疼痛緩和(LR 3.1)」であった2).一方,「歩行時の症状増悪」のLRは意外にも1.0と低かった.また診察所見では,「開脚歩行(wide-based gait)(LR 14.3)」,「神経症状(LR 2.1)」などの関連性が強かった.なかでは,「中高齢」,「座位時の疼痛消失」,「開脚歩行」,「30秒間の腰部伸展に伴う殿部痛や下肢痛の増強」はいずれも本症の独立した関連因子になっていた.本症の診断において一般的には腰部伸展に伴う殿部痛や下肢痛,Kempテストなどを参考にすることが多いが,この論文に述べられている開脚歩行は異常な歩行状態を意味していると思われる.本論文では画像検査が88%にしか施行されておらず,症例数も少なく,対照群の詳細が不明であることなどからEV level IVとした.
腰部脊柱管狭窄症の特徴である間欠跛行については末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)などの血管性間欠跛行と鑑別する必要がある.後者は姿勢と関係せず,立ち止まるだけで下肢痛が軽減するなどの特徴がある4).足背動脈の拍動の有無や,足関節上腕血圧比 (ankle brachial pressure index:ABI)を参考にするなど,診察所見と合わせて診断することが重要である.ただし,両者が合併することもあることには注意をはらうべきである.
わが国の多施設研究から,問診と診察所見を記入する調査票など日常診療の場で入手できる情報を用いて,治療の必要な腰部脊柱管狭窄症の患者を選び出すツールが開発された(表13).下肢の疼痛またはしびれのため受診した20歳以上の新患患者469例,平均年齢64.2歳(男性45.9%)のうちから専門医の診断が一致した468例について解析された.その結果,腰部脊柱管狭窄症は222例(47.3%)であり,他は腰椎椎間板ヘルニア83例(17.7%),末梢動脈疾患39例(8.3%),糖尿病性神経障害13例(2.8%)などであった.多変量解析により最終的なスコアリングシステムには,病歴2項目,問診3項目,身体所見5項目が採用され,スコアの合計は-2点から16点までとなっている.合計点数が高いほど腰部脊柱管狭窄症の確率が高くなることが示された(EV level II).本サポートツールは診断基準ではなく,あくまでもスクリーニングとして使用されるべきものであり,確定診断には専門医による画像検査も含めた精査が必要である.
他の臨床検査では,トレッドミルや自転車エルゴメータ試験を用いて,姿勢が運動耐容能に及ぼす影響を評価する試みが報告されている1).しかし,中高齢患者には検査自体が完遂できない場合があること,少ない対象患者数,不適切な患者選択,検査プロトコールにおける内容の不均一性などの問題がある.
今後の研究の方向性としては,わが国で開発された「腰部脊柱管狭窄診断サポートツール」の有用性を検討するため,妥当性が実証された至適基準を用いた確定診断との対比や,同じく妥当性が実証された評価方法を活用して診断の確定した患者を対象とした長期予後研究の実施が推奨される.

表1 腰部脊柱管狭窄診断サポートツール
エビデンスレベル(EV level)分類
該当するものをチェックし,割りあてられたスコアを合計する(マイナス数値は減算).
合計点数が7点以上の場合は,腰部脊柱管狭窄症である可能性が高い.
ABI: ankle brachial pressure index,足関節上腕血圧比
研究開始後に被験者登録が開始されているもの.
ATR: Achilles tendon reflex,アキレス腱反射
SLRテスト:straight leg raising test,下肢伸展挙上テスト


文献

1) Fritz JM, Erhard RE, Delitto A et al:Preliminary results of the use of a two-stage treadmill test as a clinical diagnosis tool in the differential diagnosis of lumbar spinal stenosis. J Spinal Disord 1997;10(5):410-416
2) Katz JN, Dalgas M, Stucki G et al:Degenerative lumbar spinal stenosis. Diagnostic value of the history and physical examination. Arthritis Rheum 1995;38(9):1236-1241
3) Konno S, Hayashino Y, Fukuhara S et al:Development of a clinical diagnosis support tool to identify patients with lumbar spinal stenosis. Eur Spine J 2007;16(11):1951-1957
4) Markmann JD, Gaud KG:Lumbar spinal stenosis in older adults:current understanding and future directions. Clin Geriatr Med 2008;24(2):369-388



 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す