(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

 
 
第4章 高尿酸血症・痛風の生活指導


1.生活指導

●ステートメント
高尿酸血症・痛風は代表的な生活習慣病であり,生活習慣の是正を目的とした非薬物療法としての生活指導は,薬物療法の有無にかかわらず重要な役割を有する。
エビデンス2aコンセンサス1推奨度B
高尿酸血症・痛風に対する生活指導は,食事療法,飲酒制限,運動の推奨が中心となり,肥満の解消は血清尿酸値を低下させる効果が期待される。
エビデンス2bコンセンサス1推奨度B
食事療法としては適正なエネルギー摂取,プリン体・果糖の過剰摂取制限,十分な飲水が勧められる。
エビデンス2aコンセンサス1推奨度B

身体活動(運動)は,メタボリックシンドロームの種々の病態を改善するため奨励できる。
エビデンス3コンセンサス2推奨度C



優れた尿酸降下薬の出現によって高尿酸血症・痛風の治療における血清尿酸値の管理が容易になったとはいえ,高尿酸血症・痛風が代表的な生活習慣病であることを認識するならば,生活習慣の是正を目的とした非薬物療法としての生活指導の役割は大きい。医師と患者が日頃から良好なコミュニケーションを保ち,高尿酸血症をきたす生活習慣の問題点とその解消策を相互に共有して,その是正のために患者自らが取り組む意欲を長期にわたり高められるような生活指導が望まれる。

1 生活習慣と高尿酸血症・痛風
肥満,特に内臓脂肪の蓄積と血清尿酸値との間には正の相関関係が認められ1),肥満者をエネルギー制限食で治療すると,体重減少に伴って血清尿酸値が低下することが多い2)。健常者に,プリン体として酵母由来のリボ核酸(RNA)を1日に4g,数日間摂取させると,血清尿酸値は2〜3mg/dL上昇し,高尿酸血症を呈する3)。一方,厳格なプリン体摂取の制限を行っても血清尿酸値の低下はわずかであるとの報告もあるが4),症例によっては食事のプリン体を制限することで血清尿酸値の著明な低下が認められることもある5)。また,『尿路結石症診療ガイドライン(改訂版)』(2004年)では,「動物性蛋白質の過剰摂取は尿酸結石などの形成を促進させる。日本人の成人蛋白質所要量は1.01g/kg/日であり,動物性/植物性蛋白質比を1とすること」が目標とされている。
アルコール摂取は,肝臓での代謝系の亢進に伴う肝エネルギー消費の上昇に由来する内因性プリン体分解の亢進6),7),血中乳酸濃度の上昇による腎臓での尿酸排泄の低下8),さらにはアルコール飲料中に含まれるプリン体の負荷9),などの機序によって血清尿酸値を上昇させる。このうちプリン体負荷はビールにおいて最も顕著であり10),また同じビールでも地ビール,ラガービール,発泡酒で,それぞれプリン体含有量は異なる11)
また,酸素供給が断たれるような過激な運動を行うと,プリンヌクレオチド分解が亢進して尿酸産生が増加し,血清尿酸値は上昇するが12),マラソンのような過酷な運動でも,よくトレーニングされた選手が有酸素運動として実行できる場合には,血清尿酸値はさほど上昇しない13)

2 生活指導の適応と実際
1 食事療法
100gあたりプリン体を200mg以上含むものを高プリン食品と呼び,動物の内臓,魚の干物などが挙げられる。表1には代表的な食品のプリン体含有量を,さらに付録にはプリン体含有量の詳細を示すが,入院患者を除くと厳密な低プリン食を毎日摂ることはまず不可能に近いため,高プリン食を極力控えるという指導が望ましい。プリン体として1日の摂取量が400mgを超えないようにするのが実際的と思われる。プリン体含有量の低い食品が多く,また尿の中性化に有効であるアルカリ性食品は,尿酸の尿中での溶解度を高める効果からも大いに勧められる。さらに,尿酸の尿中飽和度を減少させるためには十分な水分摂取が推奨され,尿量を2,000mL/日以上確保することが目標とされる。
さらに,高尿酸血症・痛風患者の食事療法の主眼は,プリン体の制限からむしろ総エネルギーの制限に移行している。そのため,肥満傾向にある高尿酸血症・痛風患者に対しては,糖尿病治療に準じた摂取エネルギーの適正化が食事療法の第一に挙げられる。肥満の解消は内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性の改善につながり,患者の長期予後を改善する。かつて痛風患者の食事療法としてはプリン体の過剰摂取を避けるために,低蛋白・高炭水化物食が勧められてきたが,高尿酸血症・痛風患者で高頻度にみられるインスリン抵抗性の面からは,高炭水化物食はインスリン抵抗性を増悪させるため好ましくない。また高蛋白食でも,肉類・魚介類などの動物性蛋白は血清尿酸値を上昇させるが,乳製品はむしろ血清尿酸値を低下させ,痛風のリスクも増加させないため14),15),積極的に摂ることが望ましい。ショ糖や果糖の摂取量の増加と比例してメタボリックシンドロームの有病率が増加してきているといわれ,またショ糖・果糖の摂取量と比例して血清尿酸値は上昇し,痛風のリスクも増加する16),17)。さらに,果糖の過剰摂取は尿路結石の形成を促進するとの疫学的研究もあり,ショ糖や果糖の過剰摂取は避けたほうがよい18),19)

表1 食品のプリン体含有量(100gあたり)
表1 食品のプリン体含有量

2 飲酒制限
最近の疫学調査によると,アルコール摂取量の増加に伴って,血清尿酸値の上昇や痛風の頻度が増加することが報告されており,特にビールが痛風のリスクと最も強く関連している20),21)
アルコール飲料は,プリン体の有無にかかわらず,それ自体の代謝に関連して血清尿酸値を上昇させるため,種類を問わず過剰摂取は厳に慎むべきである。特にビールはプリン体を多く含むばかりでなく,エタノール等量で比較すると他の酒類よりも高エネルギー飲料であるため,肥満を助長する可能性があり,注意すべきである。血清尿酸値への影響を最低限に保つ目安量としては1日,日本酒1合,ビール500mL,またはウィスキー60mL程度であろう。

3 運動の推奨
肥満例では,食事療法に加えて運動療法の指導が必要であるが,心機能の評価は事前に実施すべきである。過度な運動,無酸素運動は血清尿酸値の上昇を招くため避け,適正な体重(BMI<25)を目標にして,週3回程度の軽い運動を継続して行うことが好ましい。有酸素運動は血清尿酸値に影響せず,体脂肪の減少に伴ってインスリン抵抗性が改善し,血圧値の低下,トリグリセリド値の低下,HDL-コレステロールの上昇,耐糖能の改善など高尿酸血症・痛風患者に合併しやすいメタボリックシンドロームの種々の病態を改善させる。

3 生活指導における注意点
高尿酸血症・痛風患者に対して,厳格なエネルギー制限,プリン体制限,飲酒制限などを行うと,一定期間はそれに従うが,多くの例で反動を招きやすい。肥満,高プリン食嗜好,飲酒習慣が高尿酸血症にとってなぜ悪いのかを理解できるまで繰り返し説明し,患者が自発的に食事療法を守り,飲酒量の制限が行えるようにする指導が好ましい。運動についても同様であり,最初は運動をする習慣をつけるための指導を優先させ,運動がストレスなく習慣づいた場合に,運動の内容を議論していけばよい。

文献
1) Takahashi S, Yamamoto T, Tsutsumi Z, et al: Close correlation between visceral fat accumulation and uric acid metabolism in healthy men. Metabolism 46: 1162-1165,1997 エビデンス3 [YM追加]
2) Yamashita S, Matsuzawa Y, Tokunaga K, et al: Studies on the impaired metabolism of uric acid in obese subjects; Marked reduction of renal urate excretion and its improvement by a low-calorie diet. Int J Obes 10: 255-264,1986 エビデンス3 [TH追加]
3) Yü TF, Berger L: Impaired renal function gout; Its association with hypertensive vascular disease and intrinsic renal disease. Am J Med 72: 95-100,1982 エビデンス3
4) Seegmiller JE, Grayzel AI, Laster L, et al: Uric acid production in gout. J Clin Invest 40: 1304-1314,1961 エビデンス2b
5) Emmerson BT: Identification of the causes of persistent hyperuricaemia. Lancet 337: 1461-1463,1991 エビデンス3 [YM追加]
6) Faller J, Fox IH: Ethanol-induced hyperuricemia; Evidence for increased urate production by activation of adenine nucleotide turnover. N Engl J Med 307: 1598-1602,1982 エビデンス2b
7) Nishimura T, Shimizu T, Mineo I, et al: Influence of daily drinking habits on ethanol-induced hyperuricemia. Metabolism 43: 745-748,1994 エビデンス3 [TH追加]
8) Lieber CS, Jones DP, Losowsky MS, et al: Interrelation of uric acid and ethanol metabolism in man. J Clin Invest 41: 1863-1870,1962 エビデンス3 [TH追加]
9) Gibson T, Rodgers AV, Simmonds HA, et al: A controlled study of diet in patients with gout. Ann Rheum Dis 42: 123-127,1983 エビデンス2a
10) 藤森新,中山裕子,金子希代子,他:アルコール飲料中のプリン体含有量.尿酸 9:128-133,1985 エビデンス3 [TH追加]
11) 小片絵理,山辺智代,金子希代子,他:ビール中のプリン体含有量.痛風と核酸代謝 24:9-13,2000 エビデンス3 [YM追加]
12) Yamanaka H, Kawagoe Y, Taniguchi A, et al: Accelerated purine nucleotide degradation by anaerobic but not by aerobic ergometer muscle exercise. Metabolism 41: 364-369,1992 エビデンス2b [TH追加]
13) 橋詰直孝,小林修平,井上喜久子,他:長距離・マラソンランナーの血清尿酸値の動態と意義.プリン・ピリミジン代謝16:93-98,1992 エビデンス3 [TH追加]
14) Choi HK, Atkinson K, Karlson EW, et al: Purine-rich foods, dairy and protein intake, and the risk of gout in men. N Engl J Med 350: 1093-1103,2004 エビデンス2b
15) Choi HK, Liu S, Curhan G: Intake of purine-rich foods, protein, and dairy products and relationship to serum levels of uric acid; The Third National Health and Nutrition Examination Survey. Arthritis Rheum 52: 283-289,2005 エビデンス2b
16) Gao X, Qi L, Qiao N, et al: Intake of added sugar and sugar-sweetened drink and serum uric acid concentration in US men and women. Hypertension 50: 306-312,2007 エビデンス2b [YM追加]
17) Choi HK, Curhan G: Soft drinks, fructose consumption, and the risk of gout in men ; Prospective cohort study. BMJ 336: 309-312,2008 エビデンス2a [YM追加]
18) Nguyen NU, Dumoulin G, Henriet MT, et al: Increase in urinary calcium and oxalate after fructose infusion. Horm Metab Res 27: 155-158,1995 エビデンス2b [YM追加]
19) Asselman M, Verkoelen CF: Fructose intake as a risk factor for kidney stone disease. Kidney Int 73: 139-140,2008 エビデンス2b [YM追加]
20) Choi HK, Atkinson K, Karlson EW, et al: Alcohol intake and risk of incident gout in men; A prospective study. Lancet 363: 1277-1281,2004 エビデンス2a
21) Choi HK, Curhan G: Beer, liquor, and wine consumption and serum uric acid level; The Third National Health and Nutrition Examination Survey. Arthritis Rheum 51: 1023-1029,2004 エビデンス2a


 

 
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