(旧版)前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン

 
第5章 治療

 
ACL再建術
ACL再建術の一般的成績およびBTBおよびSTGを用いた再建術

はじめに


ACL損傷に対する手術療法として,移植腱を用いた靱帯再建術が最も安定した成績が得られ,現在広く行われている.なかでも自家移植腱としてBTB,または内側ハムストリング腱(半腱様筋腱+薄筋腱,STG)を使用する術式が,最も広く用いられている.
BTBの移植腱としての特徴はその両端に腱付着部を連続して有することで,移植腱の両端で骨孔と骨片間で強固な初期固定力が得られ,骨同士の癒合により移植腱が確実に安定化することにある.移植腱自体の初期強度も高く,これらの点から,従来はいわゆるgold standardとして第一選択とされてきたが,移植腱採取に関わる愁訴などの問題点も指摘され,その評価も近年変化してきている.一方,STG再建術の移植腱としての特徴は遊離移植腱として多重折りで用いることにより,その形状を調節できるところにある.ACLの解剖学的形状を再現する術式にも応用が容易である.しかし骨への固定や移植腱・骨間の癒合については問題点も指摘されている.
BTB再建法とSTG再建法両者を比較した報告は数多い.RCTの形でのevidence levelの高いものも多く,それらの検討においてはおおむね一致した結果が得られている.

本項のまとめ

再建術の成績には様々な因子が影響を与える.しかし男女差,術前の前方不安定性の程度,関節切開法と関節鏡視下手術,そして関節鏡視下の一皮切法と二皮切法,移植腱固定時の初期張力などを含め,現在行われている術式間での成績の違いは一般に有意なものではない.
次に再建術の成績評価に関わる問題では,MRI,関節固有知覚評価,動作解析など様々な手法が用いられているが,手術によりどの程度膝機能を正常化し得るか,という問題については未だ結論は得られていない.長期成績における関節症変化に与える影響は,未だ明らかでないが,再建術が関節症変化の進行を予防し得る,というエビデンスは得られていない.
BTBを使用した再建術式としては,interference screwを用いて骨孔内での固定を行う方法が一般的である.術後成績については,良好な安定性の再獲得が65〜90%の患者に得られる.また腱採取に伴う手術侵襲の術後成績への影響としては,感覚障害を伴う不快感や伸展制限,膝前部痛などが報告されている.これら腱採取部の愁訴出現の予防のための術式,後療法の工夫についても報告がある.
STG法については,まず移植腱としては半腱様筋腱単独使用と薄筋腱との併用の両者がある.この点について,直径が8mm以上であれば安定性に差がなく,半腱様筋腱単独で用いたほうが術後屈曲筋力の回復が優れるという報告がある.対側膝からの移植腱採取については,健側に侵襲を加えることを支持するまでのエビデンスは得られていない.固定法については,いろいろな方法が工夫されており,初期強度の差は認められているが,現状では固定法の違いによる術後成績の差は明らかではない.術後のリハビリテーションについては,BTB使用例におけるような加速化したプログラムを採用しても安定性は損なわれないと報告されている.術後成績に関わる問題では,移植腱採取の影響としてSTGでは最大膝屈曲筋力は回復するが,深屈曲位での屈曲筋力低下は回復しないことが報告されている.
BTB法,STG法の両者の成績比較において,まず関節安定性では両者間に差がない,とするものと,BTB法がやや勝るとする報告とがある.筋力的にはいずれの術式でも採取側(BTBでは伸筋,STGでは屈筋)の回復遅延や低下といった影響がある.術後の運動機能においては,いずれの術式でも改善が得られ,両者間の差は認められていない.移植腱採取に関わる愁訴の発生率は,BTB法で有意に高いことが示されている.一方,長期成績における成績比較については未だ十分な症例数,evidence levelをもった結論は出ていない.

今後の課題

術後成績において,KT-1000による前方安定性の評価ではほぼ良好な成績が得られているが,ACL損傷膝の不安性は動的な回旋不安性である.再建術によってどの程度膝関節機能が正常化し得るかについて,関節固有知覚や動作解析の検討では,現行の再建術の限界も示されている.これらの点に関しての対策は今後の課題である.また,移植腱採取に伴う愁訴の軽減を図るための術式やリハビリテーションプログラムの改善についても,今後検討を要する.また長期成績での経過は必ずしも明らかではなく,正常膝や保存療法例との比較も十分に行われてはいない.ただ長期成績での関節症変化に対するACL再建術の影響については,RCTは行い難く,今後,大規模なcohort studyの結果が待たれる.
BTB法とSTG法の比較において,腱採取部の痛みは前者でより高頻度であるということは示されているが,安定性や膝機能の回復といった観点からは,今のところ明らかな差はなく,両者間での優劣はつけ難い.今後これらの成績比較が,性差・スポーツ活動内容などに基づくグループ別に解析されれば,両者間の差,すなわち術式の選択につながる情報が得られる可能性がある.また,長期成績に関する報告は少なく,今後,安定性・腱採取部の愁訴・X線評価などの面に関する長期例での更なる検討が必要である.

【参照】
第5章 治療 ACL再建術 ACL再建術の評価法
第5章 治療 ACL再建術後後療法

 

 
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