(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン
第3章 褥瘡の治療
慢性期褥瘡の局所治療
1.「浅い褥瘡」と「深い褥瘡」
急性期褥瘡と同様に、慢性期褥瘡の局所治療を進める際にも、褥瘡の発生原因を徹底して除去することはきわめて重要である。このことを怠ると、いくら適切な局所治療を行おうとも、褥瘡の改善は望めない。
慢性期褥瘡の局所治療を始める際、まずその褥瘡の深さが真皮までにとどまる「浅い褥瘡」(d)であるか、それとも真皮を越えて深部組織にまで及ぶ「深い褥瘡」(D)であるかを考えることが重要である。なぜなら、治療前の褥瘡が浅い褥瘡か深い褥瘡かでその治癒形態は大きく異なってくるからである。すなわち、浅い褥瘡の場合は、ほとんどの場合、新たな皮膚が再生することで治癒が可能である。一方、深い褥瘡の場合は、壊死に陥った深部組織(皮下組織や筋組織など)が再生することはなく、壊死組織が取り除かれた創面に肉芽組織が盛り上がり、さらにそれが瘢痕組織に変化することで治癒に至ることができる。
慢性期褥瘡局所治療のガイドラインを策定するに当たっては、原則として2002年に日本褥瘡学会から提唱されたDESIGN重症度分類に基づいて議論・検討を行った。慢性期褥瘡の局所治療を進める場合の基本スキーム(基本的な考え方)を述べる。
慢性期褥瘡の局所治療を始める際、まずその褥瘡の深さが真皮までにとどまる「浅い褥瘡」(d)であるか、それとも真皮を越えて深部組織にまで及ぶ「深い褥瘡」(D)であるかを考えることが重要である。なぜなら、治療前の褥瘡が浅い褥瘡か深い褥瘡かでその治癒形態は大きく異なってくるからである。すなわち、浅い褥瘡の場合は、ほとんどの場合、新たな皮膚が再生することで治癒が可能である。一方、深い褥瘡の場合は、壊死に陥った深部組織(皮下組織や筋組織など)が再生することはなく、壊死組織が取り除かれた創面に肉芽組織が盛り上がり、さらにそれが瘢痕組織に変化することで治癒に至ることができる。
慢性期褥瘡局所治療のガイドラインを策定するに当たっては、原則として2002年に日本褥瘡学会から提唱されたDESIGN重症度分類に基づいて議論・検討を行った。慢性期褥瘡の局所治療を進める場合の基本スキーム(基本的な考え方)を述べる。
2.「浅い褥瘡」治療の基本スキーム
「浅い褥瘡」(d)の治療においては、基本的に創の保護と適度な湿潤環境の保持が重要である。この目的のためには、一般にドレッシング材が有用であるが、代わりに外用薬を用いることもある。今回は、「浅い褥瘡」を、具体的に発赤、水疱、びらん・浅い潰瘍に分けて検討を行った。
発赤の場合、ドレッシング材などで創を保護することが治療の中心となる。
水疱はびらんと同様に損傷が表皮内にとどまることが多く、水疱が破れた場合には後述のびらん・浅い潰瘍の治療に準じる。ただし、水疱が破れていない場合は、むしろ発赤と同様にドレッシング材などで創を保護することが治療の中心となる。なお、水疱が緊満な状態になった場合には、水疱を穿刺し、内容液の排出を図ることがある。
皮膚欠損が表皮内にとどまる場合をびらん、真皮にまで達する場合を浅い潰瘍と呼ぶが、両者とも治療方法は類似するため、ガイドラインでは同様に扱った。治療としては、吸水性のあるドレッシング材や外用薬を用いる。
発赤の場合、ドレッシング材などで創を保護することが治療の中心となる。
水疱はびらんと同様に損傷が表皮内にとどまることが多く、水疱が破れた場合には後述のびらん・浅い潰瘍の治療に準じる。ただし、水疱が破れていない場合は、むしろ発赤と同様にドレッシング材などで創を保護することが治療の中心となる。なお、水疱が緊満な状態になった場合には、水疱を穿刺し、内容液の排出を図ることがある。
皮膚欠損が表皮内にとどまる場合をびらん、真皮にまで達する場合を浅い潰瘍と呼ぶが、両者とも治療方法は類似するため、ガイドラインでは同様に扱った。治療としては、吸水性のあるドレッシング材や外用薬を用いる。
3.「深い褥瘡」治療の基本スキーム
「深い褥瘡」(D)の場合は、治療経過とともに局所病態が大きく変化する。そこで、DESIGN重症度分類の深さ以外の項目の中で特に大文字のものに注目して、それを小文字に変えていくような治療方針を立てる。
1)N→n:壊死組織の除去
深い褥瘡の治療においてはまずN→nを考える。すなわち、壊死組織が存在する場合は、それを積極的に除去することを考える。具体的には、外科的デブリードマンを行ったり、外用薬やドレッシング材を用いて壊死組織の除去を促す。また、創の洗浄や物理療法も行われる。
2)G→g:肉芽形成の促進
壊死組織の除去が進めば、次にG→gを考える。すなわち、創面に良性肉芽組織が見られない、あるいは乏しい場合には、適切な外用薬やドレッシング材を用いて、創の適度な湿潤環境を保持しながら、肉芽形成の促進を図る。
3)S→s:創の縮小
肉芽形成が進めば、さらにS→sを考える。DESIGN重症度分類ではSは創の大きさ(長径cm×長径と直交する最大径cm)が100を越えるものを指し、それ以下のものをsとするが、このガイドラインにおけるS→sは創の相対的な縮小を図るという意味で用いられている。創の縮小は、具体的には肉芽組織の収縮反応と新たな上皮形成によって実現される。この2つの生体反応は、N→n、G→gが進んだ結果として生じるものであるが、適切な外用薬やドレッシング材を用いることによってこれらの反応を促進させることが可能である。その他、外科的治療や物理療法も創の縮小を図る目的で行われる。
その他、滲出液、炎症/感染、ポケットの項目についても、DESIGN重症度分類で大文字のものがあれば、それを小文字にする(E→e、I→i)、あるいはそれをなくす(P→(-))ための方策を適宜考える。上述の治療と併せて行う場合もある。これらの項目は経過途中にDESIGN重症度分類が小文字から大文字に変化することもあるので注意が必要である。
その他、滲出液、炎症/感染、ポケットの項目についても、DESIGN重症度分類で大文字のものがあれば、それを小文字にする(E→e、I→i)、あるいはそれをなくす(P→(-))ための方策を適宜考える。上述の治療と併せて行う場合もある。これらの項目は経過途中にDESIGN重症度分類が小文字から大文字に変化することもあるので注意が必要である。
4)I→i:感染・炎症の制御
感染(I)を合併する場合は、どのようなときでもその制御を最優先に行う。まず、感染の温床となる壊死組織を外科的デブリードマンなどで速やかに除去すること(N→n)が重要である。深部膿瘍が疑われる場合は、ただちに切開・排膿を行う必要がある。
感染創は十分に洗浄する必要があるが、創の消毒については賛否両論がある。感染を合併する場合には、用いる外用薬やドレッシング材の選択にも注意が必要である。その他、物理療法が用いられることがある。
感染創は十分に洗浄する必要があるが、創の消毒については賛否両論がある。感染を合併する場合には、用いる外用薬やドレッシング材の選択にも注意が必要である。その他、物理療法が用いられることがある。
5)E→e:滲出液の制御
大量の滲出液(E)は、全身浮腫や創感染に伴って見られることが多いので、まずこれらを改善することが重要である。次に、用いる外用薬やドレッシング材の選択が重要である。なお、滲出液が少なすぎても創の乾燥を来たし、かえって創傷治癒の妨げになることがあるので注意が必要である。
6)P→(-):ポケットの解消
ポケット(P)がある場合は、まずこれを解消することを優先する。なぜなら、褥瘡のポケット以外の部分の治療が進んで創口が小さくなればなるほど、かえってポケット内の治療が難しくなるからである。ポケットを解消する方法についてはいまだ確立されたものはない。ポケット内部に外用薬を注入したり、ドレナージのためにドレッシング材を軽く充填する方法や、外科的治療(切開など)、物理療法が試みられている。
これまで述べてきた「慢性期の深い褥瘡における局所治療の基本スキーム(図参照)」を実際の臨床に適用する際には、さまざまな疑問が出てくるものと思われる。今回のガイドライン策定において最も重要な作業は、想定される具体的な疑問をCQとして列挙すること、次に各作業チームが分野別に個々のCQに関するエビデンスを収集・評価すること、そして最後にCQに対する推奨を決めることであった。
ポケットに関しては、これを独立して取り上げた論文がきわめて少ないため、エキスパートオピニオンが中心となった。またポケットにはDESIGNの他の項目が多く関与してくる。ポケット内腔に壊死組織が存在したり、感染を合併したりする。この場合は、それぞれN→nやI→iの項を参照してほしい。
これまで述べてきた「慢性期の深い褥瘡における局所治療の基本スキーム(図参照)」を実際の臨床に適用する際には、さまざまな疑問が出てくるものと思われる。今回のガイドライン策定において最も重要な作業は、想定される具体的な疑問をCQとして列挙すること、次に各作業チームが分野別に個々のCQに関するエビデンスを収集・評価すること、そして最後にCQに対する推奨を決めることであった。
ポケットに関しては、これを独立して取り上げた論文がきわめて少ないため、エキスパートオピニオンが中心となった。またポケットにはDESIGNの他の項目が多く関与してくる。ポケット内腔に壊死組織が存在したり、感染を合併したりする。この場合は、それぞれN→nやI→iの項を参照してほしい。
図 慢性期の深い褥瘡における局所治療の基本スキーム |
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