尿路結石症診療ガイドライン 2013年版
3 再発予防
CQ 29
シュウ酸はどのような食物に多く含まれるか?
また,シュウ酸の摂取について工夫すべきことはあるか?
シュウ酸はどのような食物に多く含まれるか?
また,シュウ酸の摂取について工夫すべきことはあるか?
推奨グレード C1 |
シュウ酸を多く含む食物として,葉菜類の野菜やお茶類などがある。尿路結石症予防の観点からは,シュウ酸の摂取を減らすことが重要である。その工夫として,ゆでることやカルシウムと一緒に摂取することがある。 |
解説
シュウ酸はジカルボン酸(COOH-COOH)という非常に簡単な構造式の物質で,ヒトでは代謝の最終産物である。植物では液胞にシュウ酸を貯蔵し,カルシウムと結合することで,体内のカルシウムバランスを保つことが知られている。尿中に排泄されるシュウ酸は尿路結石症のリスクファクターであり,その約70%は外因性,つまり食事由来のシュウ酸とされている1)。したがって,尿路結石症予防のためにはシュウ酸を多く含む食品を知り,その摂取については工夫が必要である。
野菜類100 g あたりのシュウ酸含有量(mg)を表1に示す2,3)。しかし,これらの食品は毎日摂取されるものではない。一方,お茶や紅茶,コーヒーは多くの日本人が毎日飲んでいる。東欧からの報告でシュウ酸カルシウム結石の患者の食事由来のシュウ酸について,その80〜85%は紅茶やコーヒーであったとされ4),嗜好品としてのお茶類の摂取には,注意をする必要がある。お茶類100 g あたりのシュウ酸含有量(mg)を表2 に示す。緑茶でも種類によって含有するシュウ酸量は異なり、可溶性シュウ酸は玉露に多く、次いで、抹茶、煎茶に多く、番茶は比較的少なく、ほうじ茶が最も少量であった。浸出回数が多くなると溶出する量が減り,最初の2 回で全含有量の76%が溶出するとされている5)。
逆に脂肪成分を多く含む食品の摂取により,脂質のうち吸収されずに腸内に残った脂肪酸とカルシウムが結合し,シュウ酸と結合すべきカルシウムが減少してしまうため,腸管からのシュウ酸の吸収が増加すると考えられ,注意をする必要がある。また,ラットでの検討だが,高カルシウム低脂肪ミルクは消化管からのシュウ酸の吸収を減少させ,結果的に尿中シュウ酸排泄を低下させたと報告されている12)。その一方で,魚油に多く含まれる多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は,健常人の尿中シュウ酸の排泄を低下させたとの報告もある13)。
以上より,シュウ酸を多く含む食品やその前駆体の大量摂取は控えたほうがよいと考えられる。その一方で,特にシュウ酸を最も多く含むとされる食品は,ホウレンソウなど栄養価の高いものも多いので6),尿路結石症患者はこの点にも注意しつつ,再発予防の観点で食習慣や調理法を見直し,励行すべきであると考えられる。
シュウ酸はジカルボン酸(COOH-COOH)という非常に簡単な構造式の物質で,ヒトでは代謝の最終産物である。植物では液胞にシュウ酸を貯蔵し,カルシウムと結合することで,体内のカルシウムバランスを保つことが知られている。尿中に排泄されるシュウ酸は尿路結石症のリスクファクターであり,その約70%は外因性,つまり食事由来のシュウ酸とされている1)。したがって,尿路結石症予防のためにはシュウ酸を多く含む食品を知り,その摂取については工夫が必要である。
シュウ酸を多く含む食品と含有量
シュウ酸を多く含む食品として,葉菜類の野菜,タケノコ,紅茶,コーヒー,お茶(とくに玉露・抹茶),バナナ,チョコレート,ココア,ピーナッツ,アーモンドなどがある。カタバミ(oxalis)より単離されたため,シュウ酸と命名された。「シュウ酸=蓚酸」の「蓚」という漢字は,タデ科のスイバ(ギシギシ,イタドリ)を意味している。タデ科,カタバミ科,アカザ科(ホウレンソウなど)の植物には水溶性シュウ酸塩(シュウ酸水素ナトリウムなど)が,サトイモなどには不溶性シュウ酸塩(シュウ酸カルシウムなど)が含まれる。
野菜類100 g あたりのシュウ酸含有量(mg)を表1に示す2,3)。しかし,これらの食品は毎日摂取されるものではない。一方,お茶や紅茶,コーヒーは多くの日本人が毎日飲んでいる。東欧からの報告でシュウ酸カルシウム結石の患者の食事由来のシュウ酸について,その80〜85%は紅茶やコーヒーであったとされ4),嗜好品としてのお茶類の摂取には,注意をする必要がある。お茶類100 g あたりのシュウ酸含有量(mg)を表2 に示す。緑茶でも種類によって含有するシュウ酸量は異なり、可溶性シュウ酸は玉露に多く、次いで、抹茶、煎茶に多く、番茶は比較的少なく、ほうじ茶が最も少量であった。浸出回数が多くなると溶出する量が減り,最初の2 回で全含有量の76%が溶出するとされている5)。


シュウ酸を多く摂取しないための工夫
ゆでることと食べ合わせが重要である。シュウ酸は水溶性なので,ゆでることによって減らすことができる。ホウレンソウについては詳細に検討され,3 分間ゆでることでシュウ酸の除去量は37〜51%になること6),おひたしにすると絞り汁の中に含まれるシュウ酸の約半分が喪失すること7)が報告されている。また,食べ合わせについては,カルシウムと一緒に摂ることでシュウ酸の吸収を減らすことが報告されている8,9)。腸内でシュウ酸とカルシウムが結合し,吸収されずに便として排出される。また,特発性高カルシウム尿症に伴う再発性尿路結石患者でも,通常量のカルシウム摂取に加え,動物性蛋白質と塩分を控えることで結石の再発リスクを下げることができるとの報告がある10,11)。
逆に脂肪成分を多く含む食品の摂取により,脂質のうち吸収されずに腸内に残った脂肪酸とカルシウムが結合し,シュウ酸と結合すべきカルシウムが減少してしまうため,腸管からのシュウ酸の吸収が増加すると考えられ,注意をする必要がある。また,ラットでの検討だが,高カルシウム低脂肪ミルクは消化管からのシュウ酸の吸収を減少させ,結果的に尿中シュウ酸排泄を低下させたと報告されている12)。その一方で,魚油に多く含まれる多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は,健常人の尿中シュウ酸の排泄を低下させたとの報告もある13)。
シュウ酸の直接の前駆体を多く含む食品
さらに直接シュウ酸を含む食品ではないが,摂取された後,代謝されることで内因性にシュウ酸が生じる場合も念頭に置く必要がある。シュウ酸の直接の前駆体であるグリオキシル酸は,植物に多く含まれるグリコール酸から細胞内小器官のペルオキシゾームで産生され,また,総タンパク質の30%を占めるコラーゲンの13%を構成するヒドロキシプロリン14)から,ミトコンドリアで産生される15)。産生されたグリオキシル酸の一部は,細胞質内の乳酸脱水素酵素(LDH)によりシュウ酸に代謝されるので16),野菜17)やコラーゲン18)を含む食品の大量の摂取は,シュウ酸の過剰産生をまねく可能性があり,注意すべき点である。
以上より,シュウ酸を多く含む食品やその前駆体の大量摂取は控えたほうがよいと考えられる。その一方で,特にシュウ酸を最も多く含むとされる食品は,ホウレンソウなど栄養価の高いものも多いので6),尿路結石症患者はこの点にも注意しつつ,再発予防の観点で食習慣や調理法を見直し,励行すべきであると考えられる。
参考文献 |
1) | Holmes RP, Goodman HO, Assimos DG. Dietary oxalate and its intestinal absorption. Scanning Microsc. 1995;9:1109-18;discussion 1118-20. |
2) | 中原経子.緑茶の蓚酸含量ならびに緑茶浸出液中の蓚酸.栄養と食糧.1974;27:36-8. |
3) | Haytowitz DB, Matthews RH. Composition of Foods:Vegetables and Vegetable Products. In: Agriculture handbook. No. 8-11. Edited by Nutrition Monitoring Division, Human Nutrition Information Service, USDA, Washington DC, pp 502, 1984. |
4) | Gasińska A, Gajewska D. Tea and coffee as the main sources of oxalate in diets of patients with kidney oxalate stones. Rocz Panstw Zakl Hig. 2007;58:61-7. |
5) | 中原経子.緑茶の蓚酸含量ならびに緑茶浸出液中の蓚酸.栄養と食糧.1974;27:33-6. |
6) | 草間正夫,村上ハルヨ,城所八千代.野菜類の調理に関する生化学的研究(第1 報).ホウレン草 のシュウ酸について.栄養誌.1963;21:41-5. |
7) | 細見裕太郎.野菜の中の有害成分.食の科学.1979;46:78-86. |
8) | Nishiura JL, Martini LA, Mendonca CO, et al. Effect of calcium intake on urinary oxalate excretion in calcium stone-forming patients. Braz J Med Biol Res. 2002;35:669-75. |
9) | Penniston KL, Nakada SY. Effect of dietary changes on urinary oxalate excretion and calcium oxalate supersaturation in patients with hyperoxaluric stone formation. Urology. 2009;73:484-9. |
10) | Borghi L, Schianchi T, Meschi T, et al. Comparison of two diets for the prevention of recurrent stones in idiopathic hypercalciuria. N Engl J Med. 2002;346:77-84. |
11) | Nouvenne A, Meschi T, Guerra A, et al. Diet to reduce mild hyperoxaluria in patients with idiopathic calcium oxalate stone formation:a pilot study. Urology. 2009;73:725-30, 730. e1. |
12) | Hossain RZ, Ogawa Y, Morozumi M, et al. Milk and calcium prevent gastrointestinal absorption and urinary excretion of oxalate in rats. Front Biosci. 2003;8:a117-25. |
13) | Siener R, Jansen B, Watzer B, et al. Effect of n-3 fatty acid supplementation on urinary risk factors for calcium oxalate stone formation. J Urol. 2011;185:719-24. |
14) | Newman Re, Logan Ma. The determination of hydroxyproline. J Biol Chem. 1950;184:299-306. |
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18) | Knight J, Jiang J, Assimos DG, et al. Hydroxyproline ingestion and urinary oxalate and glycolate excretion. Kidney Int. 2006;70:1929-34. |