(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第4章 治療
■ Clinical Question 4
腰椎椎間板ヘルニアに対する牽引療法は有効か
要約
【Grade I】
腰痛に対する牽引療法が有効であるとする報告はあるが,腰椎椎間板ヘルニア症例に限定すると,牽引療法単独による治療効果について十分に示した研究はない.画像と臨床所見から腰椎椎間板ヘルニアと明らかに診断された症例に対して,腰椎牽引療法のみを行うprospective studyがその有効性検討のうえで必要である.
背景・目的
腰痛疾患に対して腰椎牽引療法が広く行われており,腰痛を生じる疾患である腰椎椎間板ヘルニアにおいても同様である.しかし,この牽引療法単独がヘルニアによる腰痛,下肢症状の改善に有効であるかについては明らかでなく,保存的治療の一環としての牽引療法選択の是非を検討する必要がある.
解説
牽引療法と他の治療法を比較したRCT21論文の検討のなかで,腰椎牽引に関しては14編があげられている.このうち急性腰痛に対しては有効1編,無効4編,慢性腰痛に関しては有効2 編,無効1編,原因が特定されない腰痛では無効2編,腰椎椎間板ヘルニアでは無効4編であった.したがって腰痛に関して牽引療法が有効とする報告はあるが,腰椎椎間板ヘルニアに対して有効性を明らかにした論文はないとしている(DF10004,EV level 1).49例の腰椎椎間板ヘルニア手術適応例に対する検討では,機械による腰椎牽引と徒手的腰椎牽引療法によってその1/4の症例が手術を回避でき,その後2年目の経過観察でも良好な結果であることを報告した.また,2つの牽引療法間の結果に有意差はみられないことを報告した(DF03948, EV level 4).1椎間以上の腰椎椎間板ヘルニアを有し,下肢症状のない腰痛患者44例に対するautotraction(上肢筋力を用いた間欠的腰椎牽引)とpassive traction(体重の35%で持続的腰椎牽引)の比較では,3ヵ月後のvisual analogue scale,McGill pain questionnaire,Oswestry low back pain disability scoreによる評価で,autotractionがすべての評価においてpassive tractionよりも優っていることが指摘された(DF01959,EV level 4).腰痛や下肢痛の既往のない10例(18〜55歳)の初回腰痛患者(SLRテストが片側で45°以下で陽性となり,全例L5,S1あるいはS2神経根由来の運動障害を有する)に対する牽引療法の検討では,患者の体重の30%,あるいは60%で牽引した際に,10%で牽引したときに比べてSLRテストの有意な改善がみられた(DF00399,EV level 5).牽引による椎間板の突出の減少,椎間板内圧の減少などの証拠は明らかでなく,過敏となった神経組織への直接的な圧迫を取り去ることにその作用機序があると述べている.慢性や亜急性期の患者には無効であり,発症後6週以内の急性期の患者に適応があり,牽引の力は小さいほうが効果的であると述べている(DF00420,EV level 11).急性腰椎椎間板ヘルニア102例の検討では,牽引療法(体重の35〜50%)とSham牽引(体重の20%以下)に分けて4週後にOswestry scoreで評価され,NSAIDs,背筋の運動療法と温熱療法などの保存的治療はともに併用された.結果として両群ともにスコアの改善を認めるが群間での有意差はなく,牽引療法の有効性は明らかでないと報告している(D2F00954,EV level 4).一方reviewの1つでは,非手術的治療の評価について腰椎椎間板ヘルニアの自然経過のデータが不足していること,manipulationや牽引療法についてはその研究が不十分であり対立する意見がきわめて多いことを指摘している.年齢,職業,椎間板ヘルニアのタイプ,随伴する脊柱の病態解剖,脊椎高位,神経所見などの要素,影響を加味したprospective studyの必要性が,この疾患では特に重要であることを指摘している(DF01341,EV level 11).
文献