(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第1章 疫学・自然経過
■ Clinical Question 2
腰椎椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼす環境因子は何か
要約
【Grade C】
環境因子は椎間板変性の発生要因であるといえるが, ヘルニアの発生要因としてその関与は明らかではない.
【Grade C】
スポーツに関しては,今のところ明らかな関係は認められず,ヘルニアの発生を誘発するとも抑制するともいえない.
背景・目的
腰椎椎間板ヘルニアの発生の危険因子として従来,種々の要因が考えられている.過去の報告から,現時点でどのような環境因子が指摘されているかを明らかにする.
解説
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労働の影響について |
腰椎椎間板ヘルニアの発生を職業別に検討した調査では,1)重労働者(ブルーカラー)のほうがホワイトカラーに比べて発生率が高く,特に男性,職業ドライバー,金属・機械業労働者はホワイトカラーに比べて約3倍リスクが高いこと,2)女性においては,主婦はそのリスクが最も低いことが報告されている(DF03318, EV level 1). | |
腰椎椎間板ヘルニア患者287例と対照群とを比較した検討では,膝伸展位,背部屈曲位にて25ポンド(約11kg)以上の物,あるいは子どもを頻回に持ち上げる動作でヘルニア発生の危険性が高く,また持ち上げるときに腰を捻る動作も危険であると報告されている(DF02101,EV level 6).前屈や物を持ち上げたり運んだりすることが多ければ,腰椎椎間板ヘルニア発生頻度は高くなるとの報告(D2F01633,EV level 6)もある一方で,腰椎椎間板ヘルニア120例の検討では,仕事による腰椎への負荷の違いは,腰椎椎間板ヘルニアの発生頻度および椎間高の低下に影響を与えなかったという従来と異なる報告も示されている(D2F00636,EV level 9). | |
車の運転はヘルニア発生の危険因子の一つであるとの報告[(DF03318,EV level 1),(DF03959,EV level 5)]があるが,一卵性双生児のうちいずれかが運転手である45例の調査では,運転手群と非運転手群間で腰椎椎間板ヘルニアの発生頻度と椎間板の変性に有意差は認められなかったとの報告もある(D2F01341, EV level 6). | |
従来,重労働や車の運転は腰椎椎間板ヘルニアの発生要因の一つであるとされてきたが,その関与を否定する論文も出てきており,現時点ではそれらが腰椎椎間板ヘルニアの発生に関与するかどうかについては,いまだに不明であるといわざるを得ない. | |
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喫煙の影響について |
腰椎椎間板ヘルニアに関する疫学調査では,紙巻きたばこを1日に10本吸うと約20%ヘルニアのリスクが上がると報告しており,危険因子の一つになることが指摘されている(DF03959,EV level 5). | |
22組の喫煙者と非喫煙者を含む双生児を対象にして,喫煙による椎間板変性と機能障害への影響を観察した報告では,喫煙者は非喫煙者と比較して18%椎間板変性が進んでおり,その影響は腰椎全体に及んでいた.双生児を対象とすることで厳密な比較が行われており,この結果から喫煙は椎間板変性の進行に影響を及ぼすといえる(DF02561,EV level 5).しかし,ヘルニア発生のリスクが喫煙によって直接的に上がるかどうかは報告されていない. | |
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スポーツの影響について |
主なスポーツ(野球,ソフトボール,ゴルフ,水泳,ダイビング,エアロビクス,ラケットスポーツ)についてヘルニア患者287例と年齢,性別,地域性などを一致させた同数の対照群とで比較検討したところ,ヘルニア発生については2群間に有意差はなかった(DF01948,EV level 6). | |
レスリングや体操,サッカー,テニスなどの競技で,過去トップアスリートであった134例(年齢27〜39歳,平均13年の追跡調査)と対照群28例の比較では,腰痛の頻度は2群間で有意差はなかった.また双方の群ともに椎間高の減少は腰痛と有意に関連していた(DF00224,EV level 5). | |
ハンドボールを2,500日以上,あるいはトライアスロンを10年以上行っている40歳以上の無症状の男性現役スポーツ選手19例(41〜69歳)の腰椎MRIを検討した報告がある.それによると画像上認める変性変化の出現頻度は,無症状の成人と比較して同程度であった(DF01250,EV level 8). | |
以上の報告から,スポーツと腰椎椎間板ヘルニアとの間に明らかな関係は認められず,現時点ではスポーツがヘルニア発生を誘発するとも抑制するともいえない. |
文献