(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン
第1章 大腿骨近位部骨折の分類
1.3 大腿骨転子部骨折の分類
解 説
Evans分類(原文では転子間骨折の分類)は、エックス線単純写真正面像で内側骨皮質の損傷の程度、整復操作を行った場合の整復位保持の難易度により分類する。 Type 1は、主骨折線が小転子近傍から大転子の方向へ向かう骨折であり、Type 2 は主骨折線が小転子近傍から外側遠位に向かう骨折である。 Type 1で転位がなく内側皮質の粉砕がない骨折(group 1)と、転位はあるが内側皮質の粉砕が軽度で整復の容易な骨折(group 2)とは安定型骨折とされる。 転位があり内側骨皮質の粉砕で整復位保持が困難な骨折(group 3)と粉砕が高度な骨折(group 4)は内反変形を生じやすい。 Type 1のgroup 3・4とType 2を合わせて不安定型骨折とされる。
大腿骨転子部骨折の分類は、Evans分類のほかにEvans分類を改変したJensen分類や、さらにこれを改変した分類も作成されている。また、AO分類が用いられることもある。 しかし、いずれの分類を用いても、検者間での分類判定の一致率は低い。 安定型と不安定型に分ける場合、検者間の判定の一致率は比較的高くなる。
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図3 大腿骨転子間骨折の分類 |
エビデンス
・ | Evans分類をJensenとMichaelsenが改変し、calcar femoraleあるいは大転子の粉砕に関連して、転子部骨折を5型に分類した方法は、安定した骨折整復を得る可能性についての最も信頼できる情報を含み、二次的な骨折転位の危険性についての最も正確な予知を与えることから他の方法よりも優れていることがわかった(FF07001 , EV level II)。 |
・ | reverse obliquity型の大腿骨転子部骨折はすべての頚部骨折の2%、すべての転子部、転子下骨折の5%の頻度で認められ、不十分な整復や不適切なインプラント位置によって手術成績は不良であった(FF00657 , EV level II)。 |
・ | Evansによる転子部骨折の保存療法例の調査では、calcar femorale部の骨皮質の重なり、あるいは破壊のある例のみにcoxa varaが生じており、整復で骨皮質の重なりが矯正されれば骨折は安定した。Evansはこの調査から骨折型を分類した。 Type 1は骨折線が小転子部から上外方へ走るもので、4亜型(subgroup)がある。group 1は全症例の65%を占め、内側骨皮質の支持性が保たれており、転位がなく、骨折は完全な位置で癒合する。group 2は7%で、内側支持骨皮質の単純な重なりは徒手的に整復されて、骨折は安定になる。group 3と4はそれぞれ14%と6%で、内側支持骨皮質の重なりが整復されないものと、小転子部と大転子部が分離して粉砕したもので、coxa vara変形が生じるであろう。 Type 2骨折は8%を占め、骨折線は逆向きであり、大腿骨骨幹部が内方転位する傾向が著しく、骨折部はcoxa vara変形となる(FF07003 , EV level III)。 |
・ | weighted Kappa statisticsを用いて、Evans分類のinterobserver and intraobserver reliabilityを評価した。6人の観察者全部の型分類が一致したのは18%に過ぎず、安定型と不安定型の分類では57%が一致した。Kw値は0.38〜0.69と、中等度の一致率であった。 Intraobserverでは、Kw値は0.56〜0.67で、安定か不安定かの分類のKw値は0.66〜0.92であった。 なおLandisとKochは中等度(moderate)の一致率とかなり(substantial)の一致率との境はlevel 0.60であろうと述べている(FF05484 , EV level VI)。 |
・ | 転子部骨折52例を4人の観察者でEvans分類に従って分類し、6週後に再び分類すると、4人とも分類が一致したのは23例のみで、安定型か否かのみに分類を絞ると34例で一致した。同一観察者で前後が一致したのは、Evansの5分類では35〜44例、安定型か否かでは45〜47例であった。 安定型か否かのKappa coefficientは各観察者間では0.41〜0.77で、同一観察者の前後間では0.69〜0.81であった(FF04247 , EV level VI)。 |
・ | 骨折型による術後内反変形について、EvansやJensen分類は術後内反変形を予測できず、新たな分類を提唱する。 すなわち、I型;two-part、II型;three-part、III型;four-part or more comminuted fractureで、この分類を用いて212症例を検討すると、I, II, IIIの順に内反変形が有意に多く発生していた(FJ01070 , EV level III)。 |
文 献
1) | FF07001 | Jensen JS:Classification of trochanteric fractures. Acta Orthop Scand 1980;51:803-810 |
2) | FF00657 | Haidukewych GJ, Israel TA, Berry DJ:Reverse obliquity fractures of the intertrochanteric region of the femur. J Bone Joint Surg 2001;83-A:643-650 |
3) | FF07003 | Evans EM:The Treatment of Trochanteric Fractures of the Femur. J Bone Joint Surg 1949;31-B:190-203 |
4) | FF05484 | Andersen E, Jorgensen LG, Hededam LT:Evans' classification of trochanteric fractures:an assessment of the interobserver and intraobserver reliability. Injury 1990;21:377-378 |
5) | FF04247 | Gehrchen PM, ielsen JO, Olesen B:Poor reproducibility of Evans' classification of the trochanteric fracture. Assessment of 4 observers in 52 cases. Acta Orthop Scand 1993;64:71-72 |
6) | FJ01070 | 案浦聖凡,徳永純一,吉本隆昌:60歳以上の大腿骨転子部骨折の分類試案.骨折 1995;17:476-480 |