EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

 
III 尿失禁診療ガイドライン
高齢者尿失禁ガイドライン

2. 診断
(1) 分類

正常では、膀胱は300〜400mLの尿を溜め、膀胱に尿を残すことなく排尿することができる。一般に、臨床的にみられる尿失禁の多くは蓄尿障害が原因となっているが、蓄尿障害と尿排出障害が混在する場合や、尿排出障害が主な原因と考えられる症例も存在する。尿失禁の原因となるこれらの下部尿路機能障害は、尿路の解剖学的、病理学的な異常、神経疾患に伴う尿路の生理学異常が原因となって発生すると考えられる。一方、高齢者にみられる尿失禁の多くは複数の要因が関与して発生することが特徴とされ、このため高齢者尿失禁の治療に際しては、いずれの失禁の型が患者にとってより苦痛なのかを見分ける必要がある。
高齢者では、(1) 精神錯乱状態・譫妄(Delirium)、(2) 尿路感染症(Infection-urinary tract)、(3) 萎縮性腟炎または尿道炎( Atrophic vaginitis or urethritis)、(4) 常用薬剤(Pharmaceuticals)、(5) 精神的(Psychological)、(6) 多尿(Excessive urine output)、(7) 運動制限(Restricted mobility)、(8) 便秘(Stool impaction)などにより一過性尿失禁が引き起こされることがある。急性に生じた尿失禁では、原因を取り除くことにより容易に改善しうる。慢性的な尿失禁は、その症状からいくつかのタイプに分類することができる。以下にあげた分類は、介護者が病態を理解するのに極めて有用である。

<1> 切迫性尿失禁
強い尿意とともに尿が漏れ出てしまうのが切迫性尿失禁である。尿流動態検査において、排尿筋の無抑制収縮がみられる場合が多い。神経系に異常がなければ不安定膀胱、神経系統に異常がある場合は排尿筋過反射という(神経因性膀胱のひとつのタイプ)。最近では、これらを総称して過活動膀胱というようになった。仙髄より上位の脊髄疾患では、排尿筋が収縮するとき括約筋も収縮する排尿筋・外尿道括約筋協調不全が生じることがある。この病態では、多量の残尿、膀胱尿管逆流症、尿路感染症が続発し、腎機能に障害を起こす可能性が高い。
高齢者の切迫性尿失禁では、尿流動態検査において蓄尿期の排尿筋過活動と排尿期の排尿筋収縮力減弱の両者がみられることがある。臨床的には、切迫性尿失禁がありながら尿をすべて排出することができない。残尿が多量になると、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁、溢流性尿失禁のすべてがみられることがある。

<2> 腹圧性尿失禁
咳やくしゃみ、笑う、運動など腹圧上昇時に、膀胱が収縮しないのにもかかわらず尿が漏れ出てしまうのが腹圧性尿失禁である。腹圧性尿失禁の原因は、大きく2つに分けられる。1つは膀胱頸部・尿道過可動性(hypermobility)で、骨盤底弛緩に基づく膀胱頸部下垂により腹圧の尿道への伝達が不良となり、腹圧時に膀胱内圧がのみが上昇し尿が漏れるものである。他の1つは、内因性括約筋不全(intrinsic sphincter deficiency  ;  SD)で括約筋機能の低下により、腹圧時に尿が漏れるものである。腹圧性尿失禁を有する女性のうち、約30%に切迫性尿失禁が合併する。
男性では基本的にはこのタイプの尿失禁は生じないが、前立腺癌に対する根治的前立腺摘除術や経尿道的前立腺切除術の後に、このタイプの尿失禁が生じることがある。

<3> 溢流性尿失禁
膀胱に尿が充満し、尿が尿道から漏れ出るのが溢流性尿失禁である。尿の排出障害が原因であり、排尿筋の収縮力減弱か下部尿路閉塞のどちらかあるいは両方による。抗コリン薬や抗ヒスタミン薬などの薬剤、糖尿病による末梢神経障害、骨盤内悪性腫瘍に対する手術による末梢神経損傷は排尿筋の収縮力低下の原因となる。高齢男性では、前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄が下部尿路閉塞の原因となる。高度の膀胱瘤、子宮脱といった骨盤内臓器下垂があると、女性でも下部尿路閉塞がありうる。仙髄より上位の脊髄疾患では、排尿筋括約筋協調不全により閉塞が生じることがある。

<4> 機能性尿失禁
手足が不自由なためトイレに行ったり、衣服を脱ぐのに時間がかかる、尿器がうまく使えない、痴呆があってトイレを認識できないといった理由で、膀胱の機能とは関係なく尿失禁が生じることがある。この状態を、機能性尿失禁と呼ぶ。高齢者では、他のタイプの尿失禁が合併していることも多い。

<5> 反射性尿失禁
下肢の麻痺など明らかな脊髄の神経学的異常のある患者では、なんら兆候も、尿意もなく尿が漏れることがある。これを反射性尿失禁という。排尿筋・外尿道括約筋協調不全があることも多く、膀胱内圧の著明な上昇を伴うため、多量の残尿、膀胱尿管逆流症、尿路感染症が続発し、腎機能に障害を起こす可能性が高い。泌尿器科的管理を要する病態であるが、このガイドラインでは触れない。
 
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