(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

6-2-2.小児の運動誘発性発作

前文

従来,アレルギー疾患,特に気管支喘息患者の中には,運動によって発作を起こす運動誘発性喘息(exercise induced asthma=EIA)のため,生活制限の一因となる。しかし,近年,EIAの予防法の研究が進歩した結果,気管支喘息患者の生活水準の改善が認められるようになった。EIAは運動後直ちに起こる発作とそれに続いて運動後4-10時間後におきる反応とがある。後者は発症の誘因として気づかれないことが多く,喘息日誌などの情報が大切である。運動誘発性喘息発作の機序として乾燥した空気の吸入にAよって,ヒスタミンや好中球遊走因子(Neutrophil chemotactic factor,NCF)の関与などが報告されている1)。また最近の研究においてはロイコトリエンの関与が報告されている2)

推奨:小児運動誘発性喘息の治療には鍛錬療法の1つである運動療法や各種薬物療法が有用である。また,運動誘発喘息があっても,運動はうまく行えば呼吸機能の回復につながり,中でも水泳は運動誘発喘息がおきにくいので最も推奨される運動である。

科学的根拠
A:物理療法

運動の質によって,EIAの起こり方は様々なパターンを呈し,一般的には,自由走行,トレッドミル,自転車エルゴメーター,水泳,歩行の順でEIAは起こりにくくなる3)

a)ウォーミングアップ
激しい運動の15-30分前に軽度の運動で体を慣らしておくことは,EIAを予防または軽減する効果がある4)

b)インターバルトレーニング
EIAを起こした場合でも,適度な休息をおいて運動を再開するとEIAを起こしにくくなる,また,運動を反復するとEIAからの回復やEIAを起こしにくくする5)

c)マスクの着用
マスクを着用すると気道の乾燥を防ぎ,湿気を与えるので,喘息児が運動をしても有意にEIAを予防する6)


B:薬物療法

a)軽症例
クロモリン(DSCG)を運動開始15〜60分前に吸入すると,有意にEIAを抑制するとの報告がある(p<0.01)7)。学校などの行事の前に行うとEIAを予防するので体育ができるし,重症の患児ではβ2刺激剤の吸入も効果がある。

Pearlman DSらはザフィルルカスト(zafirlukast)を5,10,20,40mg内服した結果,どの量でもEIAを抑制すると報告している8)

Jonathan ALらは12週間のモンテルカスト10mgを経口投与した結果,一秒量(FEV1.0)で評価したとき,改善率は47.4%と著明な改善を呈すると報告し,また,運動後のFEV1の最大減少(p=0.003)及びFEV1.0の最大減少から運動前の値の5%以内に肺機能が回復する時間(p=0.04)を有意に改善したと報告した。以上より12週間のモンテルカストによる1日1回の治療は運動誘発性喘息に対して有益であり,投薬による耐性及び中止後の肺機能のリバウンド的悪化は認められなかったと報告している9)

Iikuraらは11例の小児の気管支喘息に対しPlalunkastをオープン試験で投与しEIAの抑制効果が認められたと報告している10)

b)中等度〜重症例
Freezer NJらは,14人の小児喘息患者にベクロメタゾン200μg吸入を3ヶ月投与し,プラセボ群とメサコリン試験,%FEV1.0 fallを検討した報告で,メサコリン試験では,開始1ヶ月,2ヶ月,3ヶ月ともに改善したが,一方,%FEV1.0の低下では,3ヶ月目でプラセボ群と有意差がなくなったと報告している。中等症以上の喘息患者においてベクロメタゾン(BDP)は気道の過敏性や肺機能の改善をもたらし,患児のQOLを上昇させたが,3ヶ月以上の使用で耐性ができたこと,さらに長期投与において副腎抑制や成長のチェックも重要な問題であると報告している11)

Waalkens HJらは,22人の小児喘息患者にサルブタモール吸入200μg+プラセボ,33人にブデソニド600μg吸入+サルブタモール吸入200μgを2ヶ月,8ヶ月投与し症状の改善を検討している。33人のブデソニド600μg吸入+サルブタモール吸入200μg群はピークフローを2ヶ月,8ヶ月ともに改善したが,一方では,22人のサルブタモール吸入200μg+プラセボ群を2ヶ月,8ヶ月投与してもピークフローに変化はなかったと報告している12)

Vathenen ASらも成人喘息患者にブデソニド800μg吸入を6週間投与したところ、運動負荷後の%FEV1.0低下率の低下を認めなかった。また,気道の過敏性を改善させたと報告している。このことは,吸入ステロイドは運動負荷による気道からの化学伝達物質Chemical mediatorsの放出を局所にて直接抑制すると推測される13)

Iikura Yらは14),25人の重症小児喘息患者を対象とし,EIAの即時型,遅発型反応の検討を行い次のような結果を報告している。すなわち,サルブタモールは即時相のみ%FEV1.0低下率の改善を認め,DSCGは即時相及び遅発相の%FEV1.0 fallの改善を認め,ベクロメタゾン100μg1回吸入は即時相及び遅発相の%FEV1.0低下率の改善をみたが,即時型の抑制はみられなかった。プレドニン内服療法では,遅発相の%FEV1.0 fallの改善をみた。

c)キサンチン製剤
EIAを頻回に起こす患児には,通常徐放製剤による,RTC(round the clock)療法がおこなわれているが,最近の研究によれば,血中濃度が5μg/mL以上に保てば,即時相反応だけでなく遅発相も抑制する報告15)があり,キサンチン製剤の抗炎症効も臨床的に報告されている。


結論

近年,運動誘発性喘息の予防の著しい進歩が認められ,各種薬物療法や物理療法の新しい研究が行われている。軽症例ではクロモリン(DSCG)の運動前15〜30分の吸入にて即時相及び遅発相EIAが抑制されるが,一方で近年,抗ロイコトリエン製剤の研究結果が良好である。重症例では吸入ステロイドの使用によって著明にEIAが抑制できることが報告されているが,小児の場合,使用に当たって,副作用に注意すべきである。キサンチン製剤の少量投与は,EIAを抑えるばかりではなく,ステロイド吸入療法の減量効果も期待できるとの報告がある16)。その上で実際に運動を行う時には,また非発作時には発作を起こさない程度の運動をウォーミングアップをしてゆっくりと段階的に毎日行う。その際,マスクの使用が勧められる。このように上手にEIAを予防することで基礎体力や肺機能の向上を作っていくことが大切である。

参考文献
  1. LeeTH, Nagakura T, Papageorgiou N, Iikura Y, Kay AB. Exercise-induced late asthmatic reactions with neutrophil chemotactic activity. N Engl J Med 1983; 308: 1502-5. (評価 II-1B)
  2. Patrick JM, Richard MW, Dorothy JM, Vanessa CW, Jules IS, Obyrne PM. Inhibition of exercise-induced bronchoconstriction by MK-571, a potent leukotriene D4-receptor antagonist. N Engl J Med 1990; 323: 1736-9. (評価 I B)
  3. Godfrey S. Problems of interptoceting exercise-induced asthma. J Allergy Clin Immunol 1973; 52: 199-209. (評価 III B)
  4. 飯倉洋治.新小児医学大系21B.小児アレルギー学II.中山書店,東京 1981; 93-98. (評価 III B)
  5. 杉本日出雄,白井康二,飯倉洋治,小幡俊彦,正木拓朗.運動負荷をくり返した場合のEIB(exercise-induced bronchospasm)の変化.アレルギー 1984;33:970-7. (評価 II-2 B)
  6. Masaki T, Nagakura T, Iikura Y. Exercise-induced pathophysiological changes in asthmatic children. V. The protective effect of wearing a mask during outdoor ergometer exercise. Arerugi 1982; 31: 941-7. (評価 II-1 A)
  7. Poppius H, Muttari A, Kreus KE, Korhonen O, Vilianen A. Exercise asthma and disodium cromoglycate. BMJ 1970; 4: 337-9. (評価 I A)
  8. Pearlman DS, Ostrom NK, Bronsky EA, Bonuccelli CM, Hanby LA. The leukotriene D4-receptor antagonist zafirlukast attenuats exercise-induced bronchoconstriction in children. J Pediatr 1999;134:273-9. (評価 I A)
  9. Jonathan AL, Busse WW, Pearlman D, Bronsky EA, Kemp J, Hendeles L, Dockhorn R, Kundu S, Zhang J, Seidenberg BC, Reiss TF. Montelukast, a leukotriene-receptor antagonist, for treatment of mild asthma and exercise-induced bronchoconstriction. N Engl J Med 1998; 339: 147-152. (評価 I A)
  10. Iikura Y,Miura K,Odajima Y,Sugimoto H,Ebisawa M.Efficacy of pranlukast in childhood asthma.Allergy 2001(in press). (評価 II-1 B)
  11. Freezer NJ, Croasdell H, Doull IJM, Holgate ST. Effect of regular inhaled beclomethasone on exercise and methacholine airway response in school with recurrent wheeze. Eur Respir J 1995; 8: 1488-9. (評価 I B)
  12. Waalkens HJ, Van Essen-Zandvliet, Gerritsen J, Duiverman EJ, Kerrebijin KF, Knol K and the Dutch CNSLD Study Group. The effect of an inhaled corticosteroids on exercise-induced asthma in children. Eur Respir J 1993; 6: 652-6. (評価 I A)
  13. Vathenen AS, Knox AJ, Wisniewski A, Tattersfield AE. The effect of inhaled budesonide on bronchial reactivity to histamine, exercise, and eucapnic dry air hyperventilation in patients with asthma. Throx 1991; 46:811-6. (評価 I A)
  14. Iikura Y, Inui H, Obata T, Nagakura T, Sugimoto H, Lee TH, Kay AB. Drug effect on exercise-induced late asthmatic response. NER Allergy Proc 1988; 9: 203-7. (評価 II-2 A)
  15. Iikura Y, Hashimoto K, Akasawa A, Katsunuma T, Ebisawa M, Saito H, Sakaguchi N, Matsumoto K, Nonomura K, Soda A, Koya N. Serum theophylline concentration levels and prevention effects exercise-induced asthma. Clin Exp Allergy 1996; 26: 38-41. (評価 II-2 A)
  16. Evans DJ, Taylor DA, Zetterstrom O, Chung KF, O`Connor BJ, Barnes PJ. A comparison of loe- dose inhaled budesonide plus theophylline and high-dose inhaled budesonide for moderate asthma. N Engl J Med 1997;337:1-7. (評価 I A)

文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Pearlmanら8)
1999
  1. 39人
  2. 6〜14歳
  3. EIA
  1. ランダム,二重盲検。交叉プラセボ対照
    トレッドミル
    4〜14日毎に運動負荷
  1. ザフィルルカストはEIAを抑制する
I A
Jonathanら9)
1998
  1. 110人
  2. 15〜45歳
  3. EIA
  1. ランダム,二重盲検,交叉プラセボ対照
    トレッドミルで評価
    モンテルカスト10mg
    12週投与
  1. モンテルカストはEIAを抑制する
I A
Iikuraら10)
2001
  1. 11人
  2. 7〜15歳
  3. EIA
  1. オープン試験,交叉プラセボ対照
    エルゴメーターで評価
  1. プランルカストはEIAを抑制する
II-1 B
Freezerら11)
1995
  1. 27人
  2. 7〜9歳
  3. EIA
  1. 二重盲検
  2. ベクロメタゾン200μg+プラセボ
    3ヶ月
  1. BDPは運動負荷後のメサコリンテストや呼吸機能を改善した
I B
Waalkensら12)
1993
  1. 55人
  2. 7〜18歳
  3. EIA
  1. 二重盲検,プラセボ対照
    トレッドミルで評価
  2. サルブタモール+ブデソニド 600μ,サルブタモール
     +プラセボ
    2.8ヶ月で評価
    トレッドミルで評価 I
  1. ステロイド吸入はEIAを著明に改善する
I A
Vathenenら13)
1991
  1. 34人
  2. 18〜45歳
  3. EIA
  1. 二重盲検、プラセボ対照
    トレッドミル
  2. ブデソニド800μg
    6週間
    トレッドミルで評価
  1. 吸入ステロイドはEIAによるケミカルメディエーターの放出気道の浮腫収縮を抑制する
I A
Iikuraら14)
1988
  1. 25人
  2. 8〜15歳
  3. EIA
  1. 5グループに分け検討
    クロモリン,プラセボ,プレドニゾロン,ベクロメタゾン,サルブタモール
    トレッドミルで評価
  1. salbutasmolは即時型のみ,DSCGは即時型遅発型双方,BDIとプレドニンは遅発型のみ抑制した
II-2
A

 

 
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