5.露髄の可能性の高い深在性う蝕への対応(歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈するう蝕) CQ13 歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。

CQ/目次項目
5.露髄の可能性の高い深在性う蝕への対応(歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈するう蝕) CQ13 歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。
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推奨/回答

歯髄に到達するような深在性う蝕で、歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈する場合、水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントで歯髄温存療法を行うことによって、3 ~ 12 カ月でう蝕象牙質の硬化が認められた(水酸化カルシウム製剤:エビデンスレベル「Ⅱ」、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント:エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、歯髄温存療法に水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを使用した場合、3 カ月経過後にリエントリーし、残置した感染象牙質を除去するよう推奨される。

推奨の強さ

B:科学的根拠があり、行うよう勧められる

エビデンスの確実性

エビデンスレベルII:1 つ以上のランダム化比較試験、III:非ランダム化比較試験

文献の抽出
CQ13
英語論文検索 :MEDLINE(Dialog)
検索対象年 :1970 ~ 2013 年
検 索 日 :2013 年 9 月 13 日
日本語論文検索 :医学中央雑誌
検索対象年 :1983 ~ 2013 年
検 索 日 :2013 年 11 月 13 日

以上のデータベース検索より、MEDLINE および医学中央雑誌からそれぞれ 311 と 106 文献が抽出された。それらの抄録より、永久歯の深在性う蝕に対する間接覆髄に関するヒト臨床研究のうち、システマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、およびケースシリーズを選択した結果、エビデンスとして採用する可能性のある 52 論文(英語 35、日本語 17)に絞られた。これらの 52 論文を精読して、研究デザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定し、間接覆髄の CQ10 ~ 13 に対するエビデンスとして採用した。そして、それぞれの CQ の「推奨」の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的
CQ10 および CQ11 で述べたとおり、歯髄温存療法の臨床での有用性が認められているものの、どの材料を覆髄剤として用いればよいか、あるいは、覆髄からどれくらいの期間をあけて残置した感染象牙質を除去すればよいかなど、臨床適応に際して明らかにすべき点が多く残されている。

解説
歯髄温存療法に水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを用いることによって、う蝕関連細菌数は減少し、残置した感染象牙質が硬化することが複数の臨床研究で示されている。
Leung らは、臨床症状がなく、う蝕を完全に除去すると露髄しそうな深在性う蝕を有する永久歯 40 歯に歯髄温存療法を適用し、初回のう蝕除去時と 4 週間後のう窩の再開拡時にう蝕象牙質から採取し培養した細菌数を比較した。具体的には、初回にう蝕象牙質を部分的に除去した後、水酸化カルシウム製剤(Dycal,Dentsply/Caulk)またはコントロールとしてワックスを貼付し、仮封した後、4 週間後にう窩を再開拡した。その結果、水酸化カルシウム製剤を貼付した群の細菌数は 1.4 × 105 CFU から 1.0 × 104 CFU に有意に減少していたのに対し、ワックスで封鎖した群の細菌数は 1.1 × 105 CFU から 2.3 × 105 CFU 有意に増加していた。よって、水酸化カルシウム製剤は、う蝕象牙質に生息する細菌に対して抗菌性を発揮することが確認された(エビデンスレベル「Ⅲ」)。
また、Corralo らのランダム化比較試験(RCT)(エビデンスレベル「Ⅱ」)および Bjørndal らの一連のケースシリーズ(エビデンスレベル「Ⅴ」)でも、歯髄温存療法に水酸化カルシウム製剤(Dycal)を用いることで、う蝕関連細菌の減少と残置した感染象牙質が硬化することが示されている。
一方、永峰は、深在性う蝕に貼付したタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント(HY-Bond Temporary Cement Soft,松風)がう蝕象牙質に生息する細菌に及ぼす影響およびう蝕象牙質の再石灰化に及ぼす影響を検討した。岡山大学歯学部附属病院において、15 ~ 46 歳までの 20 人の患者の、深在性う蝕を有するが歯髄が健全と診断された上下顎臼歯 23 本に対して、う蝕象牙質を部分的に除去した後、18 歯にはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを、5 歯には水硬性仮封材を貼付し、3 カ月後にう窩を再開拡した。そして、再開拡前後の生息細菌の測定、および規格エックス線撮影による再石灰化を評価した結果、生息細菌は、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント貼付では、再開拡時にすべての症例で log102 ~ 7 CFU/mg dentin から log100 ~ 3 CFU/mg dentin に細菌数が減少したのに対し、水硬性仮封材では変化が認められなかった。また、エックス線不透過度は、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントでは 16 例中 14 例で増加していたのに対し、水硬性仮封材の 4 歯では変化が認められなかった。よって、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントは、う蝕象牙質に生息する細菌に対して抗菌性を発揮するとともに、残存う蝕象牙質の再石灰化を促進することが確認された(エビデンスレベル「Ⅲ」)。
なお、残置した感染象牙質の硬化は、水酸化カルシウム製剤では 3 ~ 12 カ月経過時に認めたとの報告があり(エビデンスレベル「Ⅱ」)、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントでは 3 カ月経過時に 16 例中 14 例(87.5%)で効果を認めている(エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、歯髄温存療法の後のリエントリーは 3 カ月以降が適切と考えられる。
また、歯髄温存療法の際の修復(第三)象牙質の添加に関しては、水酸化カルシウム製剤を貼付後、12 週経過時に 6 症例中 2 症例(33%)、あるいは 6 カ月経過時に 28 症例中 2 症例(7%)にエックス線検査にて修復象牙質の添加を認めたとの報告にとどまっており、現在のところ明らかなエビデンスが得られなかった。
水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントは、従来より歯科治療に広く使用されてきた比較的安価な材料であり、一般診療への導入は容易であると考えられる。また、歯髄に近接する深在性う蝕に用いた場合、術直後の軽度な不快症状の発現のほかには、全身への副作用といった有害事象は報告されていない。
以上により、歯髄温存療法に際しては、水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを使用し、残置した感染象牙質を覆髄 3 カ月以降にリエントリーして除去することが推奨される(推奨の強さ「B」)。
ところで、3 Mix を用いた材料に関しては、現時点ではランダム化比較試験および非ランダム化比較試験といった高いレベルの根拠が得られていない。そのような根拠が示された場合には、本ガイドラインでも推奨を検討する予定である。
なお、日本歯科保存学会の示す保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療指針を参考資料として付した。

参考資料
保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療指針
はじめに
平成 20 年度より、新規医療技術として非侵襲性歯髄覆罩(AIPC)が 1 歯につき 150 点で保険導入された。その後、本技術は、平成 22 年度の診療報酬改定で歯髄温存療法と名称を変更し、今日に至っている。歯科の診療録および診療報酬明細書に使用できる略記は「AIPC」である。これは、Atraumatic(非侵襲性)Indirect Pulp Capping(間接覆髄)を語源としている。本法は、教科書などの成書が示す暫間的間接覆髄法(通称 IPC)である。本法の保険収載に際し懸念されるのは、本技術が既存の間接歯髄保護処置(間保護、間覆または間 PCap)と異なる点や、使用できる覆髄剤に関して、臨床家の間に情報が不足していることである。そこで、日本歯科保存学会として、この治療法が正しく応用されるよう以下に治療指針を示す。

歯髄温存療法とは
う蝕が歯髄に近接する深部象牙質まで進行した症例において、感染象牙質を徹底して除去すると、露髄が生じるために抜髄を選択せざるをえない場合がある。このような場合に、感染象牙質を意図的に残しそこに覆髄剤を貼付することで、残置した感染象牙質の無菌化や再石灰化、さらには第三(修復)象牙質の形成を促進して治癒を図る治療法である。本法は、1 回の処置で感染象牙質の徹底除去を行って歯髄保護を図る既存の間接歯髄保護処置と、この点で異なる。

歯髄温存療法の科学的根拠
1)露髄を回避することができる。
2)水酸化カルシウム製剤やタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを貼付することによって、う窩の細菌数が減少する。
3)水酸化カルシウム製剤やタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを貼付することによって、う蝕象牙質が再石灰化する。
4)水酸化カルシウム製剤やタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを貼付することによって、3 ~ 6 カ月で第三象牙質(修復象牙質)の形成が認められる。

適応症
本指針の科学的根拠となった臨床研究が対象とした年齢層は、学童期、青年期、壮年期に及ぶものであったが、中年期や高齢期における臨床的有用性を否定するものではない。感染象牙質の徹底除去を行った場合に、露髄をまねき抜髄に至る可能性の高い深在性う蝕を対象とする。下記の要件を満たすことにより AIPC の成功率は高くなる。
1)歯髄の状態は電気歯髄検査で生活反応を示し、臨床的に健康または可逆性の歯髄炎であること。自発痛またはその既往がある場合は非適応とする。
2)エックス線写真によって、う窩と歯髄の間に、象牙質の介在が確認可能であること。
3)ラバーダム防湿(不可能な場合は簡易防湿)下で清潔な操作が可能であること。
4)覆髄後に辺縁漏洩がないよう窩洞が封鎖可能であること。

術式
1 回目
① 術野の防湿
② う窩の開拡
③ 感染象牙質の除去
ⅰ.痛みが生じない範囲での感染象牙質除去が推奨されるので、原則的に無麻酔下での施術が望ましい。
ⅱ.滅菌した鋭利なスプーンエキスカベータ、またはラウンドバーを低回転(回転が視認できる)で用いて行う。
ⅲ.エナメル象牙境に沿って側壁から感染象牙質を除去する。窩洞周囲側壁の感染象牙質は、う蝕検知液を使用して完全に除去する。
ⅳ.う蝕検知液で染色しながら、痛みのない範囲で濃染される感染象牙質を除去する。
ⅴ.感染象牙質の除去中に痛みが生じたら、その部分の除去は中止し、露髄させないよう注意する。
④ う窩の水洗と乾燥:痛みを与えないよう水洗し、弱圧エアーで乾燥する。検知液の色は残っていても、そのまま次のステップに進んでよい。
⑤ 覆髄剤の貼付:水酸化カルシウム製剤またはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを用いる。残した感染象牙質面はすべて覆髄剤で覆う。その時、覆髄剤が窩縁に付着してはならない。
⑥ 暫間修復(仮封):暫間修復中の辺縁漏洩を避けるため、暫間修復材(仮封材)にはグラスアイオノマー系セメントまたは接着性コンポジットレジンを用いる。
⑦ 術直後は、一過性の冷水痛や不快感(ズキズキではないがジーンとした感じ)が生じる場合もあることを、患者に説明しておく。必要に応じて鎮痛薬を処方する。
2 回目
経過の確認:約 1 週間後に、歯髄の生死を含めた術後の経過を確認する。強い歯髄症状が持続している場合は、歯内療法に移行する。
3 回目
① 3 カ月以上経過後に、自発痛、冷水痛、打診痛、根尖部に圧痛がないこと、また、電気歯髄検査により歯髄が生活していること、エックス線写真上で根尖部に透過像が認められないことなどを確認する。
② エックス線写真で、根尖部に透過像を認めなければ、暫間修復材を注意深く除去後、覆髄剤をスプーンエキスカベータなどで除去し、残置させた感染象牙質を露出させる。
③ 露出させた感染象牙質が乾燥していて、スプーンエキスカベータや探針で硬化が確認できれば最終修復に移行する。
④ 露出した感染象牙質が乾燥・硬化していない場合、1 回目の ③ ~ ⑦ を行う。
⑤ 上記の操作を 4 回まで繰り返して効果がなければ歯内療法に移行する。
最終修復
直接修復(充填、成形修復)を選択する場合は、接着性コンポジットレジン修復またはグラスアイオノマーセメント修復とする。間接修復(インレー・アンレー)を選択する場合は、ベース材(グラスアイオノマーセメントや接着性コンポジットレジン)で歯髄に近接した象牙質を接着補強してから、窩洞形成や印象など一連の修復操作に移る。

付記
う蝕検知液:カリエスディテクター(クラレノリタケデンタル)とカリエスチェック(日本歯科薬品)の有効性に根拠が示されている。
覆髄剤:水酸化カルシウム製剤として Dycal(Dentsply/Caulk)、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントとしてハイ-ボンドテンポラリーセメントソフト(松風)の有効性に科学的根拠が示されている。

(本文、図表の引用等については、う蝕治療ガイドライン 第2版 詳細版の本文をご参照ください。)

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