Ⅳ 妊婦管理 3.非薬物療法 CQ3 妊娠高血圧症候群に対する食事療法:食塩,水分,カロリー摂取は?(妊娠高血圧症候群の診療指針)

CQ/目次項目
Ⅳ 妊婦管理 3.非薬物療法 CQ3 妊娠高血圧症候群に対する食事療法:食塩,水分,カロリー摂取は?(妊娠高血圧症候群の診療指針)
1
推奨/回答

妊娠高血圧症候群では食塩の極端な制限は行わないが,過剰な食塩摂取は避ける。

推奨の強さ

B:タイプⅡ,ⅢまたはⅣのエビデンスがあり,調査結果は概して一貫している。

2
推奨/回答

高血圧合併妊娠では,妊娠前からの食事指導を継続する。

推奨の強さ

B:タイプⅡ,ⅢまたはⅣのエビデンスがあり,調査結果は概して一貫している。

3
推奨/回答

極端なカロリー制限は行わない。

推奨の強さ

B:タイプⅡ,ⅢまたはⅣのエビデンスがあり,調査結果は概して一貫している。

1 塩分・水分摂取について
1998年の日本産科婦人科学会周産期委員会で策定された妊娠中毒症の生活指導および栄養指導(表1)によれば,食事療法は妊娠高血圧症候群の発症予防や妊娠高血圧症候群軽症には有用な治療法であるが,妊娠高血圧症候群重症の治療は妊娠の終結や薬物療法が治療の主体であるとされた。妊娠が継続される場合,軽症・重症に関係なく生活指導と食事指導を行うこととした。
日本人の食事摂取基準2010年版では,食事摂取基準の成人女性の塩分摂取の「目標量」は7.5g未満であり,妊娠した場合にも負荷量は設定されていない。前述の日本産科婦人科学会による基準では塩分摂取を7~8g/日に制限するとしているが,近年の欧米のガイドラインでは,発症後の妊娠高血圧症候群に対して塩分制限は推奨されていない。病態生理としても,高血圧患者では塩分制限により循環血液量が減少して血圧が下降するが,妊娠高血圧症候群の患者ではすでに循環血液量が減少しているため,極端な塩分制限により循環血液量のさらなる減少をきたして病態が悪化する可能性があると指摘されている。実際,わが国の報告でも,妊娠中毒症(旧)症例で7g/日の減塩は,軽症例では降圧を認めたが尿量減少があり,重症例ではヘマトクリット値,血清尿酸値の上昇や,腎機能低下などの病態悪化を示唆する変化が高頻度にみられている。また,妊娠高血圧軽症の患者における妊娠高血圧腎症への進展予防に関する361例を対象としたランダム化比較試験(RCT)でも,塩分制限には効果が認められなかった(相対リスク:0.96,95% CI:0.37~2.51)。しかしながら,塩分摂取の国際比較をみると,欧米での1日平均の食塩摂取量が10g未満なのに対し,わが国では11gを超えている。よって,基本的な塩分摂取量が多いことを考えると,明らかなエビデンスは存在しないが,7~8g/日の軽度の塩分制限指導は妥当と考える。
また,高血圧合併妊娠で妊娠前から塩分制限を指導されている場合は妊娠中も継続する。
水分制限は循環血液量の減少をきたすため,1日尿量500ml以下となった症例や肺水腫症例では,前日尿量に500mlを加える程度に制限を考慮するが,それ以外では口渇を感じない程度の摂取とし,特別に制限しない。

2 摂取カロリーについて
妊娠高血圧腎症を対象とした摂取カロリー制限の有効性を明らかにしたエビデンスは存在していない。先述の日本産科婦人科学会の基準による妊娠中毒症(旧)妊婦の摂取カロリーは,非妊娠時のBMI(body mass index)に応じて算出され,BMIが24以下の妊婦では30kcal×理想体重(kg)+200kcal/日,BMIが24以上の妊婦では30kcal×理想体重(kg)としている。ここで日本人女性の平均身長(約159cm)より推算すると標準体型で約1,870kcal/日となり,比較的穏やかなカロリー制限が行われることとなるが,BMIが24以上の妊婦では約1,670kcal/日の摂取量であり,比較的厳しいカロリー制限となる。
日本人の食事摂取基準2010年版では,推算エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベルと設定している。妊娠可能年齢女性における1日の摂取カロリーを推算すると,18~29歳の基礎代謝は1,120kcal/日,30~49歳の基礎代謝量は1,150kcal/日であり,ここで身体活動レベルを“低い”(レベルI)とした場合では係数が1.5(“ふつう”では1.75)となり,1日の摂取カロリーはおおよそ1,700kcalと設定される。妊婦ではそこに付加分,初期50kcal/日,中期250kcal/日,末期450kcal/日が加わり,妊娠中期以降の推奨摂取カロリーは1,950~2,150kcal/日ということになる。
妊娠中の低栄養および過剰栄養は,胎児のプログラミング仮説より将来に影響を及ぼす可能性が示唆されている。カロリー制限を行う場合には,極端な低栄養をきたさないように注意する。


(本文,図表の引用等については,妊娠高血圧症候群の診療指針 2015 -Best Practice Guide-の本文をご参照ください。)

もどる もどる
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す