4)生活・食事指導の注意 CQ11 たんぱく質摂取制限は推奨されるか?(IgA腎症)

CQ/目次項目
4)生活・食事指導の注意 CQ11 たんぱく質摂取制限は推奨されるか?(IgA腎症)
1
推奨/回答

IgA 腎症患者では画一的にたんぱく質摂取制限を行うべきではなく,個々の患者の病態や腎障害進行リスク,アドヒアランスなどを総合的に判断して,たんぱく質摂取制限を指導することを推奨する.

推奨の強さ

推奨グレード C1:科学的根拠はない(あるいは,弱い)が,行うよう勧められる.

○要約
IgA 腎症患者において,たんぱく質摂取制限の有効性を示す直接的なエビデンスは存在しない.しかし CKD 患者を対象としたメタ解析において,たんぱく質摂取制限は末期腎不全と死亡のリスクを軽減させると報告されている.一方,たんぱく質摂取制限による GFR 低下速度の抑制効果は明らかでない.さらに,高度のたんぱく質摂取制限は透析導入後を含めた死亡のリスクを高める可能性が報告されている.
IgA 腎症患者は,個々の症例で年齢や病態などが大きく異なるため,画一的にたんぱく質摂取制限の是非を決定するのではなく,腎障害進行リスクやアドヒアランスなどを含めて総合的にその適応を判断すべきである.また,たんぱく質摂取制限を指導する場合には,栄養障害をきたさないよう十分に注意する必要がある.

○背景・目的
腎機能が低下した CKD 患者において,たんぱく質摂取制限による腎機能障害進展の抑制が多く報告されている.しかし最近の研究では,低たんぱく食の有効性が否定されるなど,その効果が疑問視されている.そこで,IgA 腎症患者において,たんぱく質摂取制限による腎機能障害抑制効果や尿蛋白減少効果,ならびにその適応を検討した.

○解説
腎機能が低下した CKD 患者において,たんぱく質摂取制限による腎機能障害の抑制が多く報告されている.これらの研究では少なからず IgA 腎症患者も含まれるが,IgA 腎症患者を対象とした,たんぱく質摂取制限の有効性を示すエビデンスは見出せなかった.
たんぱく質摂取制限により,末期腎不全と死亡のリスクを軽減できる可能性がある.Pedrini らによるメタ解析では,非糖尿病性腎臓病患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)5 件,1,413 例において,たんぱく質摂取制限群は末期腎不全と死亡の複合エンドポイントに対する相対リスクを 0.67(95%CI,0.50-0.89)と有意に抑制したと報告した.Fouque らのメタ解析でも,中等度以上に腎機能が低下した非糖尿病 CKD 患者を対象とする RCT 10 件,1,002 例において,末期腎不全と死亡の複合エンドポイントに対する相対リスクは,コントロール群に比して低たんぱく食群全体で 0.68(95%CI,0.55-0.84)と,有意に優れると報告された.しかし本研究における低たんぱく食群の相対リスクは,0.6 g/kg 体重/日の中等度の低たんぱく食群では 0.76(95%CI,0.54-1.05),0.3~0.6 g/kg 体重/日の超低たんぱく食群では 0.63(95%CI,0.48-0.83)とその効果に差がある.後述するが,0.3~0.6 g/kg 体重/日の超低たんぱく食治療では低栄養の危険があり,その効果は慎重に評価されなければならない.さらに各研究間の偏りが示唆され,低たんぱく食の治療効果は,一部の研究に影響されて過大評価されている懸念もある.
一方で,たんぱく質摂取制限による GFR 低下速度の抑制効果は限定的である.Kasiske らは RCT のメタ解析を行い,GFR 低下速度について解析している.その結果,低たんぱく食による GFR 低下速度抑制効果は年間 0.53(95%CI,0.08-0.98)mL/ 分/1.73 m2 にすぎず,非糖尿病 CKD 患者ではその効果が低いと報告された.さらに各研究間の偏りが示唆され,低たんぱく食の治療効果は,一部の研究に影響されて過大評価されている懸念もある.これらのメタ解析より,たんぱく質摂取制限は,末期腎不全や死亡のリスクは抑制するが,腎機能低下速度を抑制する効果には乏しいと考えられる.たんぱく質摂取制限は,尿毒素蓄積,代謝性アシドーシス,リン(P)摂取量などにも関連しており,腎機能低下速度を抑制しなくても,尿毒症に陥らないことなどにより透析導入や腎移植,死亡リスクを軽減できる可能性がある.過去の低たんぱく食による末期腎不全や死亡のリスク抑制効果とその機序については,慎重に評価する必要がある.
また,たんぱく質摂取制限は実施が容易ではない.Koya らは,日本人の 2 型糖尿病性腎症患者を対象とした RCT において,たんぱく質摂取制限は腎機能低下速度を抑制しなかったと報告した.しかしこの研究では,実際のたんぱく質摂取量は低たんぱく食群とコントロール群で有意差がなかったことが明らかとなり,低たんぱく食群では食事療法が遵守できていなかった.Cianciaruso らは,ステージ G4~G5 の CKD 患者における RCT で高度たんぱく質制限群(0.55 g/kg 体重/日)と通常たんぱく質制限群(0.8 g/kg 体重/日)において,4 年間の観察期間で GFR 低下速度,末期腎不全,死亡ないしこれらの複合アウトカムのいずれに対しても高度たんぱく質制限の有効性が認められなかったと報告した.本研究では,実際に摂取したと推定されるたんぱく質量は,高度たんぱく質制限群で 0.73 g/kg 体重/日,通常たんぱく質制限群で 0.9 g/kg 体重/日と両群間で有意差はあるものの,介入の目標となるたんぱく質摂取量は達成できていなかった.これらの研究において,たんぱく質摂取制限の有効性が示せなかった原因の 1 つとして,たんぱく質摂取制限の実施が困難であったことが影響した可能性がある.症例報告としては,たんぱく質制限が的確になされて,臨床上有用という報告があるが,たんぱく質摂取制限を遵守できないという事実は,たんぱく質摂取制限の有効性を介入研究で明らかにすることが困難であることを示唆している.
一方で,高度なたんぱく質摂取制限は長期において死亡のリスクを増大させる可能性が報告されている.MDRD 研究は 0.48 g/kg 体重/日の超低たんぱく質食群と 0.73 g/kg 体重/日の低たんぱく質食群間の RCT であるが,試験終了 7 年後の生存解析により,超低たんぱく質食群は末期腎不全のリスクは低下せず,逆に死亡のリスクが上昇(ハザード比 1.92,95%CI,1.15-3.20)したと報告された.従来の研究では透析導入と死亡を複合アウトカムとした場合,透析導入後の死亡リスクは評価されていない.たんぱく質摂取制限の安全性は,透析導入後を含む長期の死亡リスクも含め慎重に検討される必要がある.
IgA 腎症患者のみを対象としたたんぱく質摂取制限のエビデンスは乏しく,本ガイドラインでは,IgA 腎症患者では画一的にたんぱく質摂取制限を行うべきではなく,個々の患者の病態や腎障害進行リスク,アドヒアランスなどを総合的に判断して,たんぱく質摂取制限を指導することを推奨する,とした.

(本文,図表の引用等については,エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン 2014 の本文をご参照ください.)

もどる もどる
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す