第 2 部 一般療法 第 3 章 運動制限(ネフローゼ)

CQ/目次項目
第 2 部 一般療法 第 3 章 運動制限(ネフローゼ)
1
推奨/回答

1.寛解導入,再発予防に対して,運動制限が有用とはいえない。

推奨の強さ

C2:科学的根拠がなく,行わないよう勧められる

2
推奨/回答

2.急性期に血圧異常,肺水腫を有する重症患者では運動制限を推奨する。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

3
推奨/回答

3.急性期における血栓症の予防,ステロイド等による治療に伴う骨粗鬆症,肥満の予防に対して,過度な運動制限を避けることを推奨する。

推奨の強さ

C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる

ネフローゼ症候群での運動制限の是非を考えるときには,運動がネフローゼ症候群そのものに与える影響,急性期に起こりうる血栓症の合併に与える影響,ステロイドを長期間かつ大量に使用したときに生ずる副作用に与える影響が問題になる。また,一般的に極端な運動制限は小児の QOL を落とす要因となることが指摘されており,多くの欧米の教科書には心理的・情緒的問題を考慮して安静は避けるべきであると記載されている。以下,学校生活管理指導表を用いた具体的な運動指導を含め順次解説していく。

1 寛解導入,再発予防に対する運動制限
運動負荷が腎機能や尿蛋白に及ぼす短期的な影響に関しては,古くから多くの報告がある。運動は腎血漿流量と糸球体濾過量を低下させる一方で,濾過比を 2 倍程度まで上昇させ,蛋白尿を増加させるといわれている。しかし,実際に運動負荷が小児ネフローゼ症候群の寛解導入期間や再発回数に影響を与えるかという問いに対して明確な回答を示してくれる論文は皆無である。エビデンスレベルの低い報告からではあるが,学校授業の運動強度の水泳参加程度では,授業前後の短期的な腎機能の低下はみられず,再発頻度やステロイド総投与量に有意差はなかった。以前から一般小児科医が患者指導の拠り所としている,日本腎臓学会の「腎疾患患者の生活指導・食事療法ガイドライン」では,病期ごとに推奨される運動制限が提示されている。そこでは学校保健会が示していた表 1 のように,ネフローゼ症候群の治療導入期には安静,寛解に入って病状が安定していてもステロイドが投与されていると強度の強い運動は一切できないことになっていた。運動が蛋白尿の増悪や腎機能低下をきたす可能性を考慮したためではあるが,一方で,運動時の一時的な変化がどの程度長期予後に関与するかは不明であり,運動や生活上の活動制限がネフローゼ症候群に与える負の影響が明らかでない以上,特別な問題がない限り運動制限は行うべきでないと考える。ガイドライン作成委員会のコンセンサスとして推奨グレードを C2 とした。

2 急性期および不安定時期の運動制限
学校検尿で発見されていたが本人にはそれが知らされていなかった初発ネフローゼ症候群で,過度な運動負荷後に急性腎不全を合併した症例報告があり,急性期の過度な運動負荷が悪影響を及ぼす危険性を示唆するものである。「1 寛解導入,再発予防に対する運動制限」 で述べたように寛解導入や再発予防に運動制限が有用であるとはいえないが,膠質浸透圧の低下によって循環動態が不安定な場合,溢水による高血圧や肺水腫がみられる場合には,病状に応じた運動制限は必要であり,エビデンスはないもののガイドライン作成委員会のコンセンサスにより推奨グレードを C1 とした。

3 過度な運動制限の回避
①血栓症と運動制限
ネフローゼ症候群で大量の蛋白尿が持続的に排出される状況で,動脈血栓症,深部静脈血栓症のリスクが増大することは大きな問題である。その理由として,高コレステロール血症と低アルブミン血症に伴う有効循環血漿量の低下による血液の濃縮に加えて,線溶に関係する蛋白の尿中への喪失などから血栓形成リスクが高まることが知られている。文献的には,小児ネフローゼ症候群の 2~5% が深部静脈血栓症を合併しており,ステロイド抵抗性のものでの危険性が指摘されている。その他のリスク因子として,血液濃縮,高度蛋白尿,長期臥床や中心静脈カテーテルの留置などがあげられている。リスクを回避するためには,適切な水分補給とアルブミンの輸注が重要で,過度の運動制限は慎まなければならない。抗凝固薬の予防投薬に関しては,成人のガイドラインでは,ネフローゼ症候群患者へのルーチン使用は勧められておらず,血栓塞栓症発症時や偶然に深部静脈血栓が発見されたときに投薬を勧められている。小児領域でも,その有効性のエビデンスはない。

②ステロイドの副作用に与える影響
ステロイド抵抗性,依存性や頻回再発型ネフローゼ症候群の小児患者に対してのステロイド長期使用に伴い,骨塩減少,肥満のリスクが高まることが知られている。したがって,寛解期の患者に対しては,過度な運動制限は避け,適度な運動を推奨する。成人領域では,日本腎臓学会の「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2009」において示される CKD 患者における指標に準じ,安定したネフローゼ患者に対しては軽度の運動(5.0~6.0 METs 程度)を定期的に行うことが勧められている。小児に対する生活指導については,下記の「③具体的な運動指導」で具体的に述べる。
肥満については,ステロイドの副作用としてばかりでなく,メタボリックシンドロームの一環として肥満に伴う高血圧患者の増加が問題となっている。小児の肥満は高率に成人肥満に移行するため,高血圧がなくても肥満を解消することは重要である。運動は,高血圧の原因ともなる肥満解消ばかりでなく,インスリン抵抗性や脂質異常症の改善効果さらにこれを維持する効果があり,腎機能が正常な小児で肥満がみられる場合には,適度な運動を勧めるべきである。

③具体的な運動指導
前述の内容を踏まえて,具体的な運動を中心とした生活指導はどのようにすればよいかを述べる。従来勧められていた指導では,運動制限が過剰になる傾向があった。日本学校保健会では「腎臓病管理指導表」を用いてどのような指導を行うかの目安を「管理区分の目安」(表 1)として示し,これが一般に使用されてきた。しかし,ネフローゼ症候群に罹患した小児が,健常児とは異なった特別な存在であるという固定観念にとらわれず,発育・発達する存在であることも考慮しなければならない。
小児の腎臓病専門医がネフローゼ症候群の患児に対してどのような指導をしているのかについて,後藤らは日本小児腎臓病学会の評議員を対象として各種腎疾患患者への運動制限のアンケート調査を行った。その中でネフローゼ症候群については,5 つの状態をあげて調査しており,その結果を表 2 に記す。表 2 の内容をまとめると,尿蛋白が出ているものに対しては B から D と何らかの制限が加えられている。また,寛解状態を維持しているものに対してはせいぜい D 程度の制限であり,その制限の選択に対して骨密度を参考にして管理指導表では言及できない荷重のかかる運動の制限を付記していた。以上のように,日本腎臓学会による「腎疾患患者の生活指導・食事療法ガイドライン」よりも明らかにゆるやかな運動制限であった。これは小児腎臓病学会評議員で回答のあった 54 名へのアンケート結果に基づくものであり,いわゆる expert opinion と捉えて診療の参考としていただきたい。
この結果を反映して,新しく「指導区分の目安」が作成された(表 3)(「学校検尿のすべて─平成 23 年度改訂─」に掲載)。
最後に,本アンケート調査にはなかったが,入院生活が与える生活活動強度低下による筋力低下,心肺機能低下を考慮して,退院後の就学開始時に短期間の運動制限を加えることはしばしば行われている。




(本文,図表の引用等については,小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2013の本文をご参照ください。)

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