エビデンス・エビデンスレベルとは


表1 ガイドラインで用いたevidence水準表―各研究へ付された水準
水準(レベル) それに該当する臨床研究デザインの種類
1 水準1の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタアナリシス
1 十分な症例数(全体で400 例以上)のランダム化比較試験
2 水準2の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタアナリシス
2 小規模(全体で400例未満)のランダム化比較試験
2 さらに小規模(全体で50例未満)のランダム化比較試験,クロスオーバー試験(ランダム化を伴う),オープンラベル試験(ランダム化を伴う)
3 非ランダム化比較試験,コントロールを伴うコホート研究
4 前後比較試験,コントロールを伴わないコホート研究,症例対照研究
5 コントロールを伴わない症例集積(10~50例程度)
610例未満の症例報告
なお,括弧内の例数は目安である.


医学用語解説
エビデンス エビデンスとは科学的な根拠のことです。一般的にエビデンスというと、研究者の主観が入り込まないように実施方法を工夫したランダム化比較試験や、複数のランダム化比較試験の結果を統計学の手法を用いて統合したメタアナリシスなど、信頼性の高いデータから得られた根拠のことを指します。しかし、患者さんの数が少ない特殊な病気や、病態が重い患者さんの場合は、ランダム化比較試験が実施できないこともあるため、その場合は、症例報告や専門医の意見などがエビデンスとして用いられることもあります。
臨床研究デザイン(りんしょうけんきゅうデザイン) 患者さんを対象に治療法の効果を調べたり、地域住民を対象に病気の原因を調べたりする研究を行うときの具体的な実施方法のことです。どのような臨床研究デザインを採用するかによって、その研究から得られた結果の信頼性の高さが変わってきます。例えば、患者さんを2つの治療法にグループ分けするときに、くじ引きや乱数などのランダム化の手法を用いたり、結果を比較する対照群を設定したり、過去の医療記録を調べるのではなく、未来に向かって患者さんの経過を観察するといった研究デザインを採用すれば、その研究の結果は信頼性が高くなります。
ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん) 複数の治療法の効果を比べるときに、患者さんをくじ引きや乱数表など、ランダム化と呼ばれる手法を用いて、グループ分けを行う試験のことです。グループ分けに研究者の主観が入り込まないため、得られた結果は信頼性が高いとされています。Randomized Controlled Trial(ランダマイズド・コントロールド・トライアル)、または無作為化比較試験とも呼ばれます。
システマティックレビュー 系統的レビューと訳されます。ある病気や治療法に関する臨床試験の論文を集め、その内容をまとめて評価することです。最近では、試験の実施計画や実施状況、解析方法など一定の条件を満たした試験の論文を集め、内容を厳しく吟味して、その結果を報告したものを指すのが一般的です。複数の試験のデータを統計学の手法を用いて統合して解析するメタアナリシスもシステマティックレビューの一つです。
メタアナリシス メタ解析と訳されます。過去に行われた複数の臨床試験の結果を、統計学の手法を用いてまとめ、全体としてどのような傾向がみられるかを解析する研究手法です。一つ一つの試験では、はっきりとした結果が得られない場合でも、複数の試験の結果を統合すると、一定の傾向がみえてくることがあります。信頼性が高いランダム化比較試験を選んでメタ解析を行うことで、非常に信頼性の高い結果を得ることができます。
クロスオーバー試験(クロスオーバーしけん) 2つの治療法の効果を比べる試験を行うときに、途中で今の治療法からもう一方の治療法に切り替える試験のことです。試験の対象となる患者さんの数が少なくても、同一の患者さんを対象とするため、比較するグループ間の背景に違いは生じません。しかし、試験期間が長くなると患者さんの病態が変化してしまう可能性もありますから、通常は数ヵ月間で治療法を切り替えます。大規模な試験を行う前の予備的な試験と位置づけることができます。
オープンラベル試験(オープンラベルしけん) どんな治療を受けているかを患者さんや医療スタッフ全員が知った状態で行う試験のことです。2つの治療法の効果を比較するときに、医療スタッフや患者さんが、どちらの治療法を行っているかを知ってしまうと、それが試験の結果に影響を及ぼす可能性があります。そこで、信頼性の高い結果を得るためには、治療法を知らせない、つまり盲検化という手法を採用します。盲検化されていないのがオープンラベル試験で、盲検化された試験に比べて結果の信頼性は低くなります。
非ランダム化比較試験(ひランダムかひかくしけん) 治療法の効果を比較するために患者さんをグループ分けする際、くじ引きや乱数表など、作為性を排除するためのランダム化の手法を採用しない試験のことです。対象者のグループ分けに試験実施者の作為性が入り込む可能性があるため、得られた結果の信頼性はランダム化比較試験よりも低くなります。
コホート研究(コホートけんきゅう) ある病気に罹る危険性の高い集団と、そうではない集団を長期間観察して、病気の発症率や進行の程度、死亡率などを調べ、病気の原因を明らかにするための研究手法です。研究対象である集団のことをコホートと呼ぶことから、コホート研究の名があります。未来に向かって観察してデータをとることがほとんどですが、カルテなどの過去の医療記録などに基づいて実施されることもあります。
前後比較試験(ぜんごひかくしけん) 患者さんの集団にある治療を行い、その前後で病気の様子がどのように変化したかを比較する試験のことです。結果を比較する対照群が設定されていませんので、生じた変化が治療によるものなのか、病気の経過をみたものなのかを判定することはできません。観察研究とも呼ばれます。
症例対照研究(しょうれいたいしょうけんきゅう) ある病気にすでに罹ってしまった患者さんと、その病気に罹っていないが、年齢や性別などの特徴が一致した患者さんとを比較する研究手法です。その病気の原因を調べるために行われます。医療記録を元に行われることが多く、費用や時間はかかりませんが、データの偏りが生じて結果に影響を及ぼす可能性がありますから、得られた結果の信頼性はランダム化比較試験に比べると低くなります。