特別寄稿5   診断に関する診療ガイドライン(CPG)の作成

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森實敏夫1、河合富士美2、小島原典子3
1日本医療機能評価機構、2聖路加国際大学学術情報センター図書館、
3東京女子医科大学衛生学公衆衛生学第二講座
2015年12月15日   掲載
本稿はMindsガイドラインセンターが執筆を依頼し、著者が執筆したものであり、著作権は著者に帰属します。Mindsガイドラインセンターの見解を示すものではありません。

0   はじめに

診断法に関する診療ガイドライン作成の手順は治療法に関する診療ガイドライン作成手順と同じである。
  1. 臨床的文脈の中で取り上げるべき臨床課題を決める。
  2. 臨床課題に基づきクリニカルクエスチョンを作成する。
  3. クリニカルクエスチョンごとに:
  4. 益のアウトカムと害のアウトカムをリストアップして重要性を決める。
  5. エビデンスを収集する。
  6. アウトカムごとにエビデンスを評価する。
  7. アウトカムごとにエビデンスを統合し(システマティックレビュー)エビデンス総体の強さを評価する。
  8. エビデンスの強さ(効果の大きさと不確実性)、益、不利益(害、負担、費用)、患者・介護者の価値観や好みを評価して推奨の強さを決める。
しかしながら、臨床的文脈における位置づけ、アウトカムの患者中心性、文献検索法、エビデンス評価の項目、効果指標、メタアナリシスの手法の点で異なっている。以下、主に治療に関する診療ガイドライン作成と異なる点について述べる。

1   診断のCPGの特徴

1.1診断法研究のレベル

診断法に 関しては、システマティックレビュー(SR)、推奨作成の方法において、明示的で透明性の高い枠組みを適用している例は少ない ¹。GRADEワーキンググループでも診断法のSR作成の方法論が検討されているが ², ³, ⁴, ⁵、治療の取り組みと比較しても診断のCPG方法論の確立は遅れていると言えよう ⁶。
診断法研究のレベルとしては以下の6つが考えられている ⁷。
1の5に該当する患者にとって重要なアウトカムに注目した診断研究がもっとも重要と考えられるが、エビデンスを統合できる研究はスクリーニング法などの一部の診断法に限られる。現状では、診断精度 ªに関する横断研究が多く、複数の研究から診断精度の指標である感度・特異度を統合するメタアナリシスが行われている。

1.2診断の種類

方法論としてまとめられている多くの先行研究においては、Diagnostic testと表記され、患者の臨床診断、集団に対するスクリーニング、サーベイランスの3つに大別されている。また、一次的な診断だけでなく、治療応答の評価や、Interventional radiologyの際に用いられる診断法の利用もある。本稿では、臨床面接から得られる症状、身体所見をふくめた臨床診断の、検査、一連の検査、一組の診断手順を参照基準と比較する、臨床診断のCPGの作成方法について記載する。

ª Accuracyは精度または正確度、Diagnostic test accuracy(DTA)は診断精度とする。対象者の事前確率による的中率Predictive valueの変動も含めた診断能Diagnostic performanceは正診率とする。

1.3診断精度の指標

(1)感度sensitivityと特異度specificity
感度・特異度は診断法固有の属性であるが、診断閾値によって変動し、疾患スペクトルの影響を受ける。正診率は 事前確率によって変動するため、プライマリケア、二次・三次ケアで異なり、スクリーニング・サーベイランス・診断などの用途で異なる。
(2)尤度比LR, Likelihood ratio 感度・特異度から導出される指標
(3)診断オッズ比DOR, Diagnostic odds ratio 感度・特異度から導出される指標
これらの指標は真陽性(TP)、偽陰性(FN)、真陰性(TN)、偽陽性(FP)(表4参照)の人数から算出され、
感度=TP/(TP+FN) 、特異度=TN/(TN+FP) 、陽性尤度比=[TP*(TN+FP)]/[(TP+FN)*FP]、
陰性尤度比=[FN*(TN+FP)]/[(TP+FN)*TN]、診断オッズ比=TP*TN/FN*FP で算出される。

2   作成方法

2.1作成グループの選出

治療のCPG作成と同様、学際的なメンバーの選出と利益相反の公開が必要であり、特定の利益相反のあるメンバーは、関連する推奨の決定に加わらないなどの配慮が求められる。特に、作成委員長は利益相反が問題にならないメンバーが選出されるべきである。作成グループ全体で、予め、ガイドラインが必要な重要な臨床課題を抽出し、作成方法を決定する。

2.2クリニカルクエスチョンの定型化

診断法に関するクリニカルクエスチョンの類型は以下の5つが考えられる。
(1)いずれの診断法の精度が高いかを問う。
例:疾患Xが疑われる場合どの診断法を選択すべきか?
(2)疾患確率が変わる結果が得られるかを問う。
例:医師の鑑別診断の順序が結果により変化するか?
(3)治療法の選択が変わるかを問う。
例:PETスキャンで転移が検出された場合、化学療法が選択される率は上がるか?
(4)患者関連アウトカムの改善を問う。
例:2年おきの乳房撮影で乳癌の死亡率が下がるか?
(5)費用効果分析。
例:xx癌検診によりxx癌の医療費が減少するか?
診断法に関するクリニカルクエスチョンは介入に関する場合と原則的に同じ形式を用いることができる。対象Pは診断標的が疑われる者、介入Iはインデックス診断法(の実施)、対照Cは比較診断法(の実施)または実施せず、アウトカムOは死亡、QOL、病的状態 ᵇ(診断法の害、治療の害を含む)などの患者中心アウトカムが設定される。また、間接的アウトカムとしては診断法の技術的特性、診断精度、臨床決断への影響、治療選択への影響が設定される。インデックス診断法は診断能を解析する対象である。2つの診断法を直接比較(Head-to-headの比較)する場合には、インデックス診断法と比較診断法が比較される。アウトカムとして、診断標的が設定される場合は、参照基準がその存在の有無を決定する基準として用いられるので、診断標的(参照基準)というように記述する。
例としては「急性虫垂炎が疑われる成人で腹部超音波検査は急性虫垂炎の診断に有用か?」などがあげられる。この例では、診断標的は“急性虫垂炎(切除虫垂の病理診断)”であり、それをアウトカムに設定している。上記のアウトカムの解説の内、病的状態に相当する。

ᵇ 診断法で検出しようとする病的状態という意味で、診断標的のことおよび診断法自体に伴う害とその後実施される治療に伴う害を意味する。

2.3文献を系統的に検索する

検索式は原則として、「インデックス検査(OR参照基準)AND診断標的」から構成され、さらに必要に応じて「AND検索フィルター」が組み合わされる。
それぞれのデータベース毎に多数の診断用検索フィルターが提案されているがシステマティックレビュー作成にはどれも用いるべきでないとのCochrane Reviewも報告されている。しかし、検索結果の論文数が非常に多い場合、Number needed to read(NNR)が非常に大きい場合、フィルターの感度と特異度を認識し漏れのリスクと作業効率のバランスを考慮した上でいずれかのフィルターの使用を検討してもよい。
また、すでに診断精度に関するシステマティックレビュー/メタアナリシスが発表されている場合には、非直接性の評価を含めたクリニカルクエスチョンへの適合度、AMSTARによる妥当性評価結果、に基づいて採用を考える。
PubMedのClinical Queriesでは診断に関する検索のための下記のフィルター(Sensitive/Broad)が用いられている。その感度は98%、特異度は74%と報告されている ⁸。
(sensitiv*[Title/Abstract] OR sensitivity and specificity[MeSH Terms] OR diagnos*[Title/Abstract] OR diagnosis[MeSH:noexp] OR diagnostic * [MeSH:noexp] OR diagnosis,differential[MeSH:noexp] OR diagnosis[Subheading:noexp])
1)データベース
<ガイドライン>
National Guideline Clearinghouse(NGC) http://guideline.gov/
NICE Evidence Search http://www.nice.org.uk/
<文献>
*要契約
EMBASEやJMEDPlus, CINAHL,PsychInfo®なども必要に応じて追加する ⁹。
2)一次スクリーニング
タイトル、アブストラクトから明らかに、主題の異なる研究を振るい落とす一次スクリーニングを行う。2名のレビュアーにより独立して行う。2名の結果を照合し、2次スクリーニング用データセットを作成し、文献を収集する。
3)二次スクリーニング
2名のレビュアーにより独立して作業し、意見が異なる場合は第3者の意見を取り入れ採用論文を決定する。文献の本文より感度・特異度など診断の正確度の指標が数値化されているものを選択する。

2.5システマティックレビュー

1)個別研究の評価
診断精度研究の論文執筆ガイダンスであるSTARD (Standards for the Reporting of Diagnostic accuracy studies) ¹⁰や診断精度研究の質評価のチェックリストであるQUADAS-2 (Quality Assessment of Diagnostic Accuracy Studies-2) ¹¹【参考資料1】、などを研究評価に用いることができる。コクランのDiagnostic Test Accuracy Working GroupのHandbook for Diagnostic Test Accuracy Reviews ¹²の第9章Assessing methodological qualityも参考になるが、ハンドブックは未完成の状態である。
これらを参考に、個別診断精度研究および診断精度エビデンス総体の評価シートを作成した【テンプレート1】
診断精度研究の研究デザインは横断研究であるが、いわゆる症例対照研究型の研究とコホート研究型の研究がある。前者では、診断しようとする標的疾患を有する集団と、それ以外の集団で診断法を実施し、その感度・特異度を解析する研究手法が用いられたものであり、Two-gate studyと呼ばれる。このタイプの研究では対象者が実際の臨床とは異なっているため、そのまま臨床に適用することが困難となる。一方、後者では、ある一定の症状や検査結果を呈した集団で参照基準となる診断法および解析対象であるインデックス診断法を実施し感度・特異度を解析する研究手法であり、Single-gate studyと呼ばれる。このタイプの研究は対象者が実際の臨床と同じである場合が多いので、そのまま臨床に適用することが可能である。研究デザインの判定時にはRCT、コホート研究、症例対照研究、横断研究などの分類だけでなく、Two-gate studyかSingle-gate studyかを明らかにする必要がある。通常、メタアナリシスによって感度・特異度の統合値を算出する場合にはSingle-gate studyだけを対象とする。
診断法の研究のバイアスリスクのドメインおよび(評価項目)は、選択バイアス(臨床に即したランダム選択)、インデックス検査(盲検化)、参照基準(盲検化、不完全な参照基準)、症例減少バイアス(不完全な検査実施)、フローとタイミング(同時期に実施)、その他(データ欠損など)である。個別研究について、これらは”高(-2)”、”中/疑い(-1)”、”低(0)”の3段階で評価する。
非直接性はクリニカルクエスチョンの対象、インデックス検査、参照基準、アウトカムと各研究のこれら項目との一致性を評価する。上記のように3段階評価を行う。
QUADAS-2とテンプレート1で示す評価シートではいくつかの異なる点があるが、評価項目として同じ概念のものを全て含んでいる。相違点については【参考資料3】にまとめた。
感度・特異度の算出の基になったTP,FP,FN,TNの人数を記述し、研究対象の有病率(事前確率)とその信頼区間、感度・特異度とその信頼区間、正診率とその信頼区間、ROC(Receiver operating characteristic)解析が行われている場合はAUC(Area under the curve)とその信頼区間を抽出し、記述する。TP,FP,FN,TNの人数はメタアナリシスで感度・特異度の統合値を算出する際に用いられる。
2)エビデンス総体の評価
エビデンス総体ではバイアスリスク、不精確、非一貫性、不精確、非直接性、その他(出版バイアスなど)のドメインについて同じく”高(-2)”、”中/疑い(-1)”、”低(0)”の3段階で評価する。バイアスリスクは個別研究の評価結果のまとめの部分から複数の研究の全体としてのまとめとして評価する。非直接性についても同様である【テンプレート2】
疾患があると正しく分類された対象者の人数TP、疾患がないと正しく分類された対象者の人数TN、疾患があると誤って分類された対象者の人数FP、疾患がないと誤って分類された対象者の人数FNを対象者が1000人の場合について算出し、その診断法の実施によってどれくらいの益をどれくらいの人が得ることができるか、どれくらいの害をどれくらいの人が被るのかを評価する際に参考とする。
さらに、診断精度研究における患者にとって重要なアウトカムの重要度を0~9で数値化し、各アウトカムについて患者にとっての重要度を判定する。
3)益と害の評価
診断法の益は疾患に罹患していることが正しく診断された結果、すなわちTP、その疾患に対応した治療を受けることによってもたらされる。また、疾患に罹患していないことが正しく診断された結果、すなわちTN、特に治療を受けないで済むことによる益もある。一方で、診断法の害は診断法の実施に伴って起きる直接的な害、たとえば大腸内視鏡で起きる腸管穿孔のようなものと、正しく診断されなかった結果受ける害がある。正しく診断されなかった場合の内FPの場合は、不必要な治療を受けることが害を構成する。FNの場合は、必要な治療を受ける機会を失うことで、本来治療によってもたらされるはずの益を受けられなくなるという害が生じる。
したがって、診断法の益と害は、診断法の負担や直接の害だけでなく、その後の治療法の益と害とを一緒に考えないと評価できない。治療法の益は疾患のアウトカムと治療効果の大きさによって決まるので、同じ感度・特異度の診断法であっても、対象疾患によってその意義は変わってくる。
多くの場合は、全体としてどれくらいの益をどれくらいの人が受けるか、どれくらいの害をどれくらいの人が受けるかを常識的に評価することで益と害のバランスを判定することが可能であろう。
より定量的に評価するためには以下に述べる決定木Decision treeを用いるのが一つの方法である ¹³。決定木を用いる場合には、それぞれの選択肢の価値を効用という概念で定量化する必要があり、それが容易でないという課題がある。基準的賭け法Standard gambleなどを用いることが可能であるが、詳細は省略する。
疾患に罹患していることをD+、罹患していないことをD-、治療を行うことをA+、行わないことをA-で表し、効用UtilityをUで表すと、疾患に罹患していて治療を受ける効用はU(D+A+)で表される。同様に、U(D-A+)は疾患で無いのに治療を受ける効用、U(D+A-)は疾患なのに治療を受けない効用、U(D-A-)は疾患でなく治療も受けない効用を表す。通常、U(D-A-)>U(D+A+)>U(D-A+)>U(D+A-)の順で効用が大きいと考えられる。
上記の表記を用い、診断法が陽性をT+、陰性をT-で表して決定木を作成すると図2のようになる。
この決定木によって、診断法を実施するという選択肢②の効用は:
[U(D+A+)*P(T+|D+)+U(D+A-)*P(T-|D+)]*P(D+)+[U(D-A+)*P(T+|D-)+U(D-A-)*P(T-|D-)]*(1-P(D+))+U(T)
となる。最後の項U(T)は診断法に伴う害、負担、費用、患者の意向を総合した効用値である。通常は負の値になる。この選択肢②の効用値を、診断法を実施しないで治療する選択肢①および診断法を実施しないで治療をしない選択肢③の効用値と比べて、いずれよりも大きければ診断法を実施すべきであるという結論が得られる。
P(T+|D+)感度Seであり、P(T-|D+)は1-Se、P(T-|D-)は特異度Spであり、P(T+|D-)は1-Spに相当し、P(D+)は疾患確率であり、これをPrで表し、式をこの表記で置き換えると診断法を実施する効用は次のようになる:
[U(D+A+)*Se+U(D+A-)*(1-Se)]*Pr+[U(D-A+)*(1-Sp)+U(D-A-)*Sp*(1-Pr)+U(T)
感度Se、特異度Spは診断法固有の属性であるが、その実施の効用は有病率、適用される治療法の益と害によって決まり、感度・特異度だけでは決まらないことがわかる。
また、この決定木で用いられる各選択肢の効用の評価には治療法に伴う益と害の評価が包含される。たとえば、U(D+A+)を決める際に、その効果が高くても副作用がひどければ、低く見積もることになり、同じ程度の効果で副作用がほとんど無ければ、高く見積もることになり、益だけで決めるわけではない。
図2に示すU(D+A+)とU(D+A-)の差、すなわちU(D+A+)-U(D+A-)は治療によってもたらされる益に相当する。また、U(D-A-)とU(D-A+)の差、すなわち(D-A-)-U(D-A+)は費用、負担、害すなわち、不利益に相当する。
従来、益をB、不利益をCで表すと、治療閾値、すなわち治療を受けることの効用が治療を受けないことの効用を上回る疾患確率はC/(B+C)となることが知られている。それは、図2の選択肢①の効用はPr*U(D+A+)+(1-Pr)*U(D-A+)、選択肢③の効用はPr*U(D+A-)+(1-Pr)*U(D-A-)となりそれぞれの終末の効用が一定であれば、これらの効用は疾患確率Prの関数となり、Prとこれらの2つの選択肢の効用は直線関係にあることから得られる結果である。図3にこれらの関係を示す。
無治療検査閾値は検査をしないで治療をしない効用と検査をして治療をしない効用が同じになる疾患確率である。無治療検査閾値を超える疾患確率の場合は、検査を行って、陽性なら治療し陰性なら治療しない選択肢の方が効用値が高い。治療検査閾値は検査をしないで治療をする効用と検査をして治療をする効用が同じになる疾患確率である。治療検査閾値より低い疾患確率の場合は、検査を行って、陽性なら治療し陰性なら治療しない選択肢の方が効用値が高い。
それぞれの値は、感度・特異度と益Bと不利益Cによって決定され、以下の式で算出される ¹³。上記の治療閾値=C/(B+C)に対して、診断法の診断能の指標である感度Seと特異度Spがかかわっていることがわかる。疾患確率が、無治療検査閾値と治療検査閾値の間にある場合は、検査を実施すべきであり、陽性の結果が得られれば疾患確率が治療閾値を上回り、陰性の結果が得られれば治療閾値を下回ることになる。
無治療検査閾値=[(1- Sp)・C]/[(1 - Sp)・C + Se・B]
治療検査閾値=[Sp・C/[Sp・C+(1 - Se)・B]
さらに、診断法に伴う害、負担、費用、患者の意向を総合した効用値である上記のU(T)を不利益に加算する場合は以下の式で算出される。
無治療検査閾値=[(1- Sp)・C - U(T)]/[(1 - Sp)・C + Se・B]
治療検査閾値=[Sp・C – U(T)]/[Sp・C+(1 - Se)・B]
診断法実施の効用には有病率あるいは事前確率も影響することから、その診断法の適用を想定する対象者の有病率が異なる場合には、結果が変わる可能性があることも認識しておく必要がある。Single-gate studyで選択バイアスが無ければその研究対象の有病率に基づいた解析だけで考えても問題が無い。その場合の有病率はTP+FN/(TP+FN+TN+FP)で求められる。
個別患者にその診断法を適用する場合には、事前確率(検査前確率)が個々に異なるので、個別の判断が必要になるが、対象者全体としての効用の判定は研究対象の有病率に基づいた解析から可能である。
診断法を実施する選択肢の部分を取り出し、TP, FN, FP, TNに該当する部分を示したものが図4である。
多くの場合は、全体としてどれくらいの益をどれくらいの人が受けるか、どれくらいの害をどれくらいの人が受けるかを評価する際にはこのような決定木を念頭においておくとよい。
また、結果が連続変数で表される検査のようにカットオフの設定によって感度・特異度が変動しうる場合がある。その場合に正診率を最大化するカットオフ値の設定が益を最大化し害を最小化することになるとは限らない。たとえば、診断後の治療法の害が大きい場合、感度は低くなっても特異度を大きくするようにカットオフ値を設定した方がその診断法の実施によりもたらされる益がより大きく、害がより小さくなることがありうる。ROC曲線上でカットオフ値を設定する場合、本当は疾患が無いのに治療を受けること(FP)による正味の害をHとし、本当に疾患があり治療を受けること(TP)による正味の益をBとし、事前確率をP(D)とした場合、傾きがH×[1 – P(D)]/B×P(D)のROC曲線の接線の接点が益を最大化し害を最小化するカットオフ値に対応する。
4)診断法のメタアナリシス
エビデンス総体の評価の際には、メタアナリシスによって得られる感度・特異度の統合値と信頼区間を用いる。
感度および特異度は割合(率)であるから、割合の分散の逆数で重み付けし他の効果指標の場合と同じように、統合値と信頼区間を算出することができる。このようなプール解析ではプールした値が2つとそれぞれの信頼区間の値が得られるが、感度・特異度の両者の関係とカットオフ値の変動を考慮した診断能あるいは診断精度を表す指標が得られるわけではない。
感度・特異度をそれぞれオッズに変換し、その比すなわち診断オッズ比を算出しそれを通常のメタアナリシスの手法で統合することも可能であるが、この場合もカットオフ値の問題は無視されることになる。
Moses & LittenbergのSummary ROCはカットオフ値をモデルに取り込んだ方法であるが ¹⁴, ¹⁵、個々の研究のサンプリングエラーが十分考慮されていない、感度・特異度の平均値が出せないなどの欠点が指摘されている。
ReitsmaらはMoses & Littenbergのモデルの欠点を改良した二変量モデルBivariate modelを開発し ¹⁶、Doebler PはそのためのRのパッケージmadaを発表している ¹⁷。
Rutter & Gatsonisが階層サマリーROC(Hierarchical SROC, HSROC)の方法を発表し ¹⁸、研究間のバラツキを取り込むことができるモデルを発表した(図5)。
madaを用いたBivariate modelでランダム効果モデルによる解析の一例をスクリプトとともに以下に示す。
###meta-analysis with mada using tab-separated tabular data###
library("mada") #Load mada package
data=read.table("file name.txt", sep="¥t", header=TRUE)
#data=read.delim(" clipboard",sep="¥t",header=TRUE) #Windows
#data=read.delim(pipe("pbpaste"),sep="¥t",header=TRUE) #Mac
data.d=madad(data)
forest(data.d, type="sens", snames=data$names, cex=0.65,main="Sensitivity")
dev.new();forest(data.d, type="spec", snames=data$names, cex=0.65,main="Specificity")
fit.reitsma=reitsma(data)
summary(fit.reitsma)
xmax=0.5;ymin=0.2 #Set max value for x-axis and min value for y-axis.
dev.new();plot(fit.reitsma, sroclwd=2, main="SROC (bivariate model)",
xlim=c(0,xmax),ylim=c(ymin,1))
points(fpr(data),sens(data),pch=2)
legend("bottomright", c("Each study", "Summary estimate"),pch=c(2,1))
legend("bottomleft",c("SROC", "Conf. region"),lwd=c(2,1))
解析されるデータは次のようなフォーマットでタブ区切りのテキストファイルとして用意する。一行目がラベルで以下行ごとに研究ID、TP、FP、FN、TNの人数である。研究IDは第一著者名+スペース+年度である。あるいはMicrosoft Excelで用意したデータを、ラベルからデータの最後の行までの範囲を選択しコピー操作をした上で、クリップボード経由で読み込んで解析することも可能であり、その場合は上記の4行目または5行目のスクリプトを用いる。
感度および特異度はForest plotとして表示することができる(図 7)。なお、Funnel plotが必要な場合は、DORを指標として通常のオッズ比のFunnel plotをRのmetaforパッケージなどを利用して作成することができる。しかし、出版バイアスの検出力には問題があることが指摘されており ¹⁹、参考程度に用いるべきであろう。
結果として得られたSROC曲線を図8に示す。このモデルはHSROCと同等である。
この分野の研究はさらに発展し、参照基準が完全な場合だけでなく、不完全な場合、さらに参照基準が異なる研究を統合する場合、参照基準と評価診断法に相関がある場合などに対応する手法が開発され、解析のためのコードや実例も発表されている。たとえば、Dendukuri N²⁰ は、論文だけでなく自身のウェブサイト ²¹ でも解説のスライドや R、WinBUGS、SAS用のコードを発表している。必要に応じて、これらのベイジアン法による解析を行う。その理論および実際のOpenBUGSあるいはWinBUGS用のコードは【参考資料2】に示す。
またAHRQ DTA研究のメタアナリシスのさまざまな手法を比較した報告書 ²² を発表しており、理論的には二変量モデルと用いることが望ましいこと、また、ベイジアン法では不確実性を完全に定量化でき外部のエビデンスを取り込むことができるため二変量モデルでは十分解析できないような場合でも有用であることを述べている。

2.7推奨の決定

推奨の決定は治療法の診療ガイドラインの場合と基本的には同じであり、エビデンスの強さ、益と害のバランス、患者の価値観や好み、負担、コストや資源配分を考慮した上で、その強さを決定する。
患者関連アウトカムへの効果を直接評価できない場合が多いので、エビデンスの限界を正しく評価して、患者の益を推定しなければならない。

2.8外部評価

独立した評価委員会の評価を受ける。評価の結果とそれをどのように反映させたかを記録する。

2.9フィードバック

スコープの段階と診療ガイドラインの草稿の段階で、対象者、使用者、ステークホルダーからのフィードバックを公式な形で得て、その結果を最終稿に反映させるとともに、変更の過程を記録する。

テンプレート

【テンプレート1:個別診断精度研究評価シート】
【テンプレート2:診断精度エビデンス総体評価シート】
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