Mindsからの提言   診療ガイドライン作成における法的側面への配慮について

EBM普及推進事業(Minds)
2016年2月23日   掲載
本稿はMindsから診療ガイドライン作成関係者に向けた『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に関連した提言・メッセージです。
本マニュアルの特別寄稿として、桑原・淺野氏の執筆による「ガイドラインと医療訴訟-弁護士による 211 の裁判例の法的解析―」1)が公開されたことを受けて、診療ガイドライン作成における法的側面について、以下にまとめた。

(1)診療ガイドラインには証拠能力があると認識すべきこと

桑原・淺野は、「民事訴訟では、自由心証主義が採られている(民事訴訟法 247 条)。自由心証主義とは、裁判所は、判決をするに当たり、裁判に顕れた全てのことを斟酌して、自由な心証によって判断しうるというものである。したがって、民事訴訟で裁判に用いられる証拠には、一般的に資格の制限はない。すなわち、ある書類について証拠能力が否定されるのは、極めて例外的な場合のみである」(9ページ)と記述しており、診療ガイドラインが民事訴訟において証拠として取り上げられることを避けようとするのは現実的でない。さらに、診療ガイドラインの証拠価値について、桑原・淺野は、「裁判所は、ガイドラインの証拠価値を高く認めているというべきであろう」(9ページ)と述べており、診療ガイドラインが高い証拠価値を有するととらえられることを前提として作成すべきであろう。

(2)診療ガイドライン序文での記載について

桑原・淺野は、「医療訴訟において、過失があると判断されるのは、医療水準に達しない診療を行なった場合である(医療水準論)。一方で、医療者には専門家として、診療に対する裁量がある(裁量論)。この医療水準論と裁量論との関係については、医療水準に従って医療行為が行われている以上、裁量の逸脱が認められない限り、過失はないと考えられている」(12ページ)と述べている。また、「ガイドラインと医療水準はイコールではなく、仮にガイドラインが存在したとしても、医療者には専門家として、診療に対する裁量があることが認められていることが分かる」(12ページ)とも述べており、そのような診療ガイドラインの位置づけについて、序文で記載することを勧めている。
序文における記載例:
診療ガイドラインの推奨は強制されるべきものではなく、診療行為の選択肢を示すひとつの参考資料であって、患者と医療者は協働して最良の診療を選択する裁量が認められるべきである

(3)診療ガイドラインの推奨が妥当な範囲を超えて過失判断の根拠とならないための配慮

桑原・淺野は、診療ガイドラインに従っていないとされながら過失がないと判断された場合の中に、「医療現場の実情(人的・物的環境、実臨床の状況等)」(2ページ)を挙げている。したがって、各推奨の解説では、推奨を実施する際の設備要件、人的要件など、推奨を実施できるための要件を明記することが望ましい。また、桑原・淺野は、平成21年1月27日仙台地裁判決(表判決84)の急性胆道炎の症例の民事訴訟において、ガイドラインが作成されてから4ヶ月と時間的に間がなかったにもかかわらず、判決文で「本件ガイドラインの内容は医療水準であったというべきである」(14ページ)とされた事例に挙げている。したがって、推奨の実現に必要な設備要件、人的要件を記載する際には、それに要する時間も記述することが望ましい。

(4)診療ガイドライン作成に当たって訴訟で取り上げられることを意識すべきではない

桑原・淺野は、「学会がガイドライン作成に当たり、自らが賠償請求される可能性を考慮することには合理性がない」(11ページ)と記述している。また、「判決文中に推奨度やエビデンスレベルの引用がなされる例は増加しているが、これらは科学的に判断され、ガイドラインに記述されることであって、当然のことながら、判決文に引用されている例の増加を考慮して推奨度やエビデンスレベルを決めることには合理性がない」(11ページ)とも記述しており、推奨度、エビデンスレベルを決める際に裁判を意識することは望ましくない。

(5)医師の注意義務と診療ガイドライン

医療訴訟においては、医師にその患者に対する注意義務と説明義務があるとされる。注意義務とは、通常、その時点での医療水準に照らして医師が適切な医療行為を行っているか否かが問題とされる。これは、十分な臨床研究によるエビデンス、さらに診療ガイドラインの推奨として、一般論として確立している医療行為が何かを医師が知悉するという意味での注意義務と言える。同時に、臨床の場においては、個々の患者の医学的・社会的な特性・個別性・多様性を医師が認識した上で、一般論であるエビデンスや診療ガイドラインが、その患者には適切か否かを慎重に判断し、最も適切な医療行為を選択するという意味での注意義務もある。従って、ある患者に対して診療ガイドラインの推奨と異なる医療行為が行われた場合、「医師の裁量」として一般的に求められる医療に対する例外的な行為として許容されるというだけでなく、それこそが医師が個々の患者に対して果たすべき責務であるという考え方も成り立つ。患者の特性・個別性・多様性に注意を払わず、一般論としてのエビデンスや診療ガイドラインの推奨を、どの患者にも無批判に適用する行為は、医師が果たすべき本来の責務の対極にあるものと考えたい。
文献
1) 桑原博道、淺野陽介.“特別寄稿2、ガイドラインと医療訴訟について―弁護士による211の裁判例の法的解析―”.Minds診療ガイドライン作成マニュアル.小島原典子、中山健夫、森實敏夫、山口直人、吉田雅博編.公益財団法人日本医療機能評価機構.2015、https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/guideline/special_articles2.pdf、2015年12月1日参照.
   
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