高尿酸血症の55歳男性:服薬治療を始めた方が良いか?
(高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版日本痛風核酸代謝学会2010)
- 私は55歳、商社に勤めるサラリーマンです。
- 若い頃から体力には自信があって、ばりばり働いてきましたし、まだまだいけそうです。
- アルコールも若い時のような無茶飲みはしませんが、ビール500mlの缶は大体毎日のんでいます。タバコは30歳の頃に止めました。
- 人間ドックはいつも肥満と言われます。20歳代から10Kg太ってBMIは28。腹囲もちょうど100cmで高め安定です。
- 1か月前に受診した人間ドックの結果が届きました。
- 血圧は136/86で前よりは高くなってきましたが、ぎりぎりセーフ?でした。
- コレステロールと血糖も今のところは基準値以下なので、まだ「メタボ予備軍」の手前(肥満だけ)だそうです。
- ・・・ところが、今年は「尿酸値8.5mg/dl」というところに印がついてしまいました。
- 「尿酸が溜まると足の親指が痛む痛風になる」と聞いたことがあります。
- そう言えば、去年くらいから足の親指の辺りに時々、変な感じを覚えることがあります。しかし痛みということはありません。
- 病院に行くのは気が進まないので、人間ドックのお医者さんに相談することにしました。
- 「ずっと肥満と言われていますが、今年は尿酸値もかなり高いようなのです。基準値が7mg/dlのところ、私は8.5mg/dlもありました。足の親指も少し変な感じがしますが、痛くは無いです。私は薬を飲まないといけないのでしょうか?できれば飲みなくないのですが-」
患者さんの疑問
- 55歳男性、肥満・高血圧(未服薬)あり、さらに明らかな症状の無い高尿酸血症(8.5mg/dl)が指摘された。
- この場合、高尿酸血症に対して服薬治療を始めた方が良いのだろうか・・・?
診療ガイドラインの推奨
- 「血清尿酸値が7.0mg/dlを超えると、高くなるに従って痛風関節炎の発症リスクがより高まる」(エビデンス2a,推奨度A,p37)
- 「高尿酸血症の治療では、予後に関係する肥満、高血圧、糖脂質代謝異常などの合併症もきたしやすい高尿酸血症の発症に関連する生活習慣を改善することが最も大切である」(エビデンス2a,コンセンサス1,推奨度A,p79)
- 「無症候性高尿酸血症への薬物治療の導入は、血清尿酸値8.0mg/dl以上を一応の目安とするが、適応は慎重にすべきである」(エビデンス3,コンセンサス2,推奨度C,p79)
医者の心のうち・・・(1)
- この男性は前から肥満、今回初めて高尿酸血症か。他のメタボリック症候群の要素(高血圧・糖尿病・脂質異常)は今のところ見られない。
- はっきりした痛風の症状(痛風関節炎や痛風結節)はないので、この無症候性と言えそうだ。
- 去年までは6mg/dl後半で、今年は8.5mg/dl…結構高いな。この1年で急に太ったわけではないし、生活上思い当たることが無いか尋ねてみよう。
- 診療ガイドラインでは「8mg/dl以上が薬物治療開始の一つの目安」になっている。でも、高いレベルのエビデンスは無くて、「適応は慎重」ということだ。・・・絶対に薬という状況ではなさそうだな。
医者の心のうち・・・(2)
- こういう高尿酸血症に薬を出すことが良いという高いレベルのエビデンスは無い、患者さんは飲みたくないと言っているし、確かにアロプリノールは他の薬との交互作用が多くて皮膚症状や血液系の副作用の注意も診療ガイドラインに書いてある。
- まず肥満やアルコールなど、生活習慣の指導を管理栄養士にしてもらって、半年か1年後に再検査を勧めよう。
- ただ、足の「親指」の話は、少々気になるな・・。明らかな痛風結節はないけれど、本人にも注意して、フォローしていこう。
- 「血清尿酸値は将来における高血圧発症の独立した予測因子と捉えることが可能である」(エビデンス1b,推奨度A,p49)
- ・・・と診療ガイドラインに書いてある。この人はいつ高血圧になってもおかしくはないから、それも注意を促しておこう。
食生活の注意は?
- 「痛風・高尿酸血症と言えばプリン体制限」とばかり思っていたけれど、それはちょっと古いらしい。
- アルコール摂取量は痛風発症リスクを用量依存的に上昇させる。肉類・砂糖入りソフトドリンク・果糖の摂取量が多い集団、BMIの高い集団は痛風になりやすい(エビデンス2a,推奨度B,P37)
- コーヒー摂取量が多い、ランニング距離が長い、適度な運動を日常的に行う集団は痛風になりにくい(エビデンス2a,推奨度B,P37)
- 患者さん「まずは食事に気を付けるか。ビールも少し控えめにしないと・・そろそろ肥満にも本気で注意しないとまずそうだなあ」
- 医者「診療ガイドラインを読むと、昔に比べて痛風の知識も変わってきているな。患者さんへの情報提供にも使えそうだけど、もう少し分かりやすい資料があると助かるよね。食事指導を頼む管理栄養士さんも、診療ガイドラインのエッセンスを知っておいてもらえると良さそうだな」