よくわかる診療ガイドライン

第2部   診療ガイドラインの作成プロセス
Ver1.0(2017.03.31)
公益財団法人 日本医療機能評価機構
EBM普及推進事業(Minds)
患者・市民専門部会

第2部   診療ガイドラインの作成プロセス

2-1.(第2部について)

第2部では、診療ガイドラインを作成するプロセスについて、もう少し詳細にみていきます。

2-2.診療ガイドラインの望ましい作成のプロセス

第1部で見たように、診療ガイドラインを作成するプロセスは、「クリニカルクエスチョン設定」「システマティックレビュー」「推奨作成」という流れになります。
ガイドライン
クリニカルクエスチョンの設定

2-3.クリニカルクエスチョンの設定

クリニカルクエスチョンの設定では、その医療行為の結果として患者への効果の改善が強く期待できる、診療上重要な課題を取り上げます。これを重要臨床課題といいます。例えば、新たな臨床研究によってよりよい選択肢の可能性が示された場合や、長年の慣行によって複数の選択肢が並存している場合など、診療に複数の選択肢がある場合がこれにあたります。
次に、重要臨床課題の内容を4つの構成要素で整理します。構成要素は、P(治療の対象となる患者の特性や範囲)、I(検討したい治療法)、C(比較となる治療法)、O(アウトカム)です。頭文字をとってPICO(ピコ)と呼びます。
PICOが決まったら、一つの疑問文で表現します。これをクリニカルクエスチョンと呼びます。「患者Pに対して、治療法Iと治療法Cのどちらを行うことが推奨されるか?」という形が一般的です。この疑問文の中には、アウトカムは入れません。
クリニカルクエスチョンの設定
解   説
  • 重要臨床課題
    診療ガイドラインが取り上げる臨床上の課題のこと。クリニカルクエスチョンの基になる。重要臨床課題としては、診療プロセスとして侵襲の高い検査を実施するか否か、最適な治療方法として何を選択すべきかなど、患者への介入に関して、患者と医療者が行う意思決定の重要ポイントの中でアウトカムの改善が強く期待できる重要な臨床課題を重点的に取り上げる。
  • PICO
    患者の臨床問題や疑問点を整理する枠組み。PはPatients(患者)、Problem(問題)、Population(対象者)、IはInterventions (介入)、CはComparisons(比較対照)、Controls、Comparators(対照)、OはOutcomes(アウトカム)を示す。
  • クリニカルクエスチョン
    スコープで取り上げることが決まった重要臨床課題(KeyClinicalIssues)に基づいて、診療ガイドラインで答えるべき疑問の構成要素を抽出し、一つの疑問文で表現したもの。

2-4.アウトカム

アウトカムは診療によって患者にもたらされる効果のことですが、治療法I(=検討したい治療法)と治療法C(=比較となる治療法)を比較・評価するための評価基準となります。したがって患者にとって重要なアウトカムを挙げるようにします。このとき、治療の効果など益のアウトカムと、副作用など害のアウトカムの両方を挙げるようにします。
アウトカムが出揃ったら、それぞれのアウトカムが患者にとってどの程度重要であるかについてガイドライン作成グループで話し合い、「重大」「重要」「重要ではない」に区分します。
患者の意思決定を支援するという診療ガイドラインの目的を考えると、この過程での患者の声は、大変重要です。
アウトカム
解   説
  • アウトカム
    医療行為によって患者に生じる結果の全体のこと。死亡の回避などの効果(益)のみでなく、医療行為によって引き起こされる害(有害事象)も含まれる。
アウトカム

2-5.システマティックレビュー

クリニカルクエスチョンが決定されると、システマティックレビューチームに渡され、システマティックレビューを行います。システマティックレビューとは、クリニカルクエスチョンの観点から臨床研究を網羅的に調査し、研究デザインごとに同質の研究をまとめ、バイアス(偏り)を評価しながら分析・統合を行うことです。その際、エビデンスの確実性を系統的に評価し、例えば、確実性が高い、中程度、低い、非常に低い、などと判定します。
システマティックレビュー
解   説
  • システマティックレビュー(systematic review)
    学術文献を系統的に検索・収集し、類似した研究を一定の基準で選択・評価を行ったうえで、明確で科学的な手法を用いてまとめる研究またはその成果物のこと。
  • エビデンスの確実性
    エビデンスの確実性決定の基本原則は、その治療効果推定値に対する確信が、ある特定の推奨を支持するうえでどの程度十分かである。
    <エビデンスの確実性>
    • 高   効果の推定値に強く確信がある
    • 中   効果の推定値に中程度の確信がある
    • 低   効果の推定値に対する確信は限定的である
    • 非常に低   効果の推定値がほとんど確信できない
システマティックレビュー

2-6.推奨作成

次は推奨の作成です。クリニカルクエスチョンに対する回答の形式で推奨文の草案を作成します。推奨の内容を検討する際には、益と害のバランスの大きさと、その確実性などを評価します。
益と害のバランスで、益が害を上回るか評価した上で、負担費用もあわせて、益と不利益(害、負担、費用)のバランスの評価を行います。ふたつの医療行為AとBのうち、Aの方がBよりも益が大きく不利益がより小さいとき、Aが問題なく推奨されます。しかし、益も大きく不利益も大きい場合には、その益と不利益にそれぞれどのくらい重きを置くかという主観的な判断が加わることになります。
推奨作成
解   説
  • 推奨
    臨床で解決したい問題に対して、「治療を実施することを推奨する」か「治療を実施しないことを推奨する」という判断、あるいは「治療法Aを推奨する」か「治療法Bを推奨する」という判断を示し、さらに、推奨の強さを「強い推奨」と「弱い推奨(条件付き推奨)」という形で示す文章。
  • 「害」と「負担、費用」
    副作用や有害事象といった「害」は、意図せず起きる負の事象である。それに対して、「負担」は意図したうえで起きる負の事象であり、通院や入院などの負担や、たとえば手術の切開やそれにともなう痛み、手術痕や機能喪失などのことである。「費用」は治療にともなう金銭的負担だけでなく、経過観察のために発生する費用も含めて考える。

2-7.推奨の作成において考慮すべきこと

推奨の作成にあたっては、システマティックレビューで提示された益と害のバランスやエビデンスの確実性に加え、他にも考慮すべき事項があります。
ひとつは、患者の価値観と希望です。益と害のバランスを評価するためには、益と害にどの程度の重きを置くかという価値判断が重要です。したがって、患者がどのような価値観と希望を持っているかということが、推奨の作成にあたって重要な情報となります。
もう一つの考慮すべき事項として経済的な視点が挙げられます。診療ガイドラインが、介入の費用をまったく考慮しないで高価な検査・治療等を推奨する場合、社会に大きな経済的負担を強いることになります。したがって、診療ガイドライン作成にあたっては有限な医療資源が最も効率的に使用されるよう、介入の費用について考慮することが望ましいといえるでしょう。
推奨の作成において考慮すべきこと

2-8.推奨文の形式

推奨では、「治療を行うことを推奨する」または「治療を行わないことを推奨する」という判断、あるいは「治療法Aを推奨する」または「治療法Bを推奨する」という判断を示し、さらに、推奨の強さを「強い推奨」と「弱い推奨(条件付き推奨)」という形で示します。
推奨文の形式
解   説
  • 推奨文の記載方法例
    推奨文は、例えば以下のように記載する。
    • 患者Pに対して治療Iを行うことを強く推奨する
    • 患者Pに対して治療Iを行うことを弱く(条件付きで)推奨する
    • 患者Pに対して治療Iを行わないことを強く推奨する
    • 患者Pに対して治療Iを行わないことを弱く(条件付きで)推奨する
推奨作成

2-9.最終化と公開・普及

推奨がすべて決まると、診療ガイドラインとして基本の構造である「クリニカルクエスチョン」と対応する「推奨」に加え、その一覧であるガイドラインサマリー、アルゴリズム、および作成の過程などを編集し、最終化します。また日本の診療ガイドラインでは、疫学的特徴や臨床的特徴など、疾患トピックの基本的特徴を記述することも多く見られます。
これを多くの人が利用できるよう書籍、ウェブサイトなどで公開します。実用版、簡易版など活用促進に向けた文書も作成されます。また、患者に向けた解説を作成することも普及に向けた重要な作業となります。将来的には、診療ガイドラインの導入による医療の質の変化についても評価することが望まれます。
診療ガイドラインは一度作成されればそれで終わりではなく、一般に、4年以内に改訂されることが望ましいとされています。
推奨作成
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