(旧版)これで治す最先端の頭痛治療 「慢性頭痛の診療ガイドライン」市民版

3 片頭痛発作の急性期治療にトリプタンは有効でしょうか。また複数のトリプタンをどのように使い分けたらよいでしょうか

推奨 片頭痛発作期の特異的な治療薬として、いずれのトリプタンも有効です(推奨のグレードA)。しかし、その特性についてはわずかながら差があり、患者さんにより効果や好みは異なります。片頭痛の前兆期・予兆期にトリプタンを使用しても支障ないのですが、効かない可能性があります
  グレードA:行うよう強く勧められる

解説
トリプタン系薬剤は、選択的なセロトニン受容体作動性薬剤で、いずれの薬剤も片頭痛によく効き、十分なエビデンスがあります。現在、日本で使用可能なトリプタン系薬剤としては、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタンの4種類があります。剤形も4種類があり、都合8種類のトリプタンが選択できます(表7)。
それぞれの薬剤に対する無作為化比較試験があり、欧米とおおむね同様の結果が得られており、その有効性は明らかです。現在のところ決定的といえるほどの薬剤の差は明らかにはなっていませんが、各々その薬理学的な特性に差異があり、効果や好みも患者さんによって一定ではありません。
片頭痛の予兆期・前兆期(図14参照)のトリプタン使用の有効性に関しては、明確な結論は出ておりませんが、臨床試験をまとめますと前兆期には効果がなかったという結論です。頭痛が軽度である時期にトリプタンを服用したほうがよいといわれていますが、予兆期の服用では効果が乏しいとされています。

表7 日本で処方されているトリプタン一覧(2006年6月現在)
一般名
発売元
剤形 市販名 発売年
コハク酸スマトリプタン
(グラクソ・スミスクライン株式会社)
錠剤 イミグラン錠50 2001年
注射薬 イミグラン注3 2000年
点鼻薬 イミグラン点鼻液20(注) 2003年
イミグラン錠50
イミグラン錠50
イミグラン注3
イミグラン注3
イミグラン点鼻液20
イミグラン点鼻液20
ゾルミトリプタン
(アストラゼネカ株式会社)
錠剤 ゾーミッグ錠2.5mg 2001年
ロ腔内速溶錠 ゾーミッグRM錠2.5mg 2002年
ゾーミッグ錠2.5mg
ゾーミッグ錠
2.5mg
ゾーミッグRM錠2.5mg
ゾーミッグRM錠
2.5mg*
臭化水素酸エレトリプタン
(ファイザー株式会社)
錠剤 レルパックス錠20mg 2002年
レルパックス錠20mg
レルパックス錠
20mg
安息香酸リザトリプタン
(エーザイ株式会社)
錠剤 マクサルト錠10mg 2003年
ロ腔内崩壊錠 マクサルトRPD錠10mg 2003年
マクサルト錠10mg
マクサルト錠
10mg
マクサルトRPD錠10mg
マクサルトRPD錠
10mg*
注:イミグラン点鼻液の一般名はコハク酸スマトリプタンでなく、スマトリプタンです。
* ロ腔内速溶錠、ロ腔内崩壊錠は「水なしで、いつでも、どこでも」飲める薬です。
(写真は2006年6月現在)

サイドメモ
トリプタンの剤形
錠剤、口腔錠(口腔内速溶錠、口腔内崩壊錠)、点鼻液、注射の4種類があります。錠剤はスタンダートな剤形です。口腔錠は「水なしで、いつでも、どこでも」飲めます。点鼻液は悪心・嘔吐があっても投与できます。注射はもっとも即効性で効果も確実です。ただし、受診しないと注射してもらえません。自分の片頭痛のタイプとニーズにあった剤形を選択するとよいでしょう。
トリプタンの作用の仕組み
トリプタンは頭蓋血管に存在する5-HT1B受容体に作用し、その血管収縮作用により片頭痛の拍動痛を鎮め、また、同時に三叉神経終末の5-HT1D受容体の賦活(ふかつ)により、髄膜血管周囲の神経原性炎症の原因となる血管作動物質の放出を抑制することによって効果があらわれます。
早期服薬の必要性
トリプタンは片頭痛のどのタイミングにも有効ですが、片頭痛の早期に服用するほうが効果が優れます。片頭痛がひどくなるとアロディニアという現象があらわれ、トリプタンの効果があらわれにくくなります。
アロディニア(異痛症)
脳が痛みに敏感となり、通常痛みを感じない程度の刺激でも痛みを感じる現象で、片頭痛の75%に認められるといわれています。アロディニアが起こると皮膚が過敏な状態になり、髪の毛を触っても不快感が起こりブラシや櫛がかけられなくなります。さらには顔や手足までピリピリする状態があらわれます。
トリプタン乱用頭痛
トリプタンが片頭痛の早期に有効であるからといって、あまりにも頻回にのむとかえって頭痛が誘発されます。3ヵ月を超えて月に10日以上トリプタンを服用するとトリプタン乱用頭痛となります。できれば月10日以内の服用に留めたいものです。この範囲内であれば大きな問題はありませんので、いたずらに服用を警戒しないようにしてください。
片頭痛による経済的損失の評価とトリプタンの費用対効果の評価
トリプタンは鎮痛薬に比べて高価な薬剤であったため、欧米各国においてトリプタンが医療費支出に見合うだけの効果を持っているかどうか、いわゆる費用対効果の評価が行われました。その結果は社会全体に対して経口トリプタン薬により便益が還元されると結論されています。
 

図14 トリプタン服用のタイミング
図14 トリプタン服用のタイミング

 

 
 
 
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