(旧版)これで治す最先端の頭痛治療 「慢性頭痛の診療ガイドライン」市民版

はじめに

2005年に「慢性頭痛の診療ガイドライン」が公表されました。その内容は医師向けではありますが、慢性頭痛に悩む患者さんの役に立つ内容がふんだんに盛り込まれています。本書はガイドラインの内容を市民の皆さんのために噛み砕いて解説したものです。本書をひもとけば頭痛研究の最先端の知識や動向が理解できます。

このガイドラインは、33名の頭痛研究者が参加し、平成14年度〜16年の3年間にわたって行われた厚生労働科学研究費補助金研究「こころの健康科学研究事業」(主任研究者坂井文彦北里大学教授)の成果で、その作成には日本頭痛学会が全面的にバックアップしています。このガイドラインは国内外の科学的根拠に基づき作成されたもので、漢方薬を用いた片頭痛予防など国内で得られた頭痛診療のエビデンスも取り入れられています。エビデンス(evidence)とは、ある治療法の有効性を示す証拠や根拠を意味します。エビデンスに基づく医学をEBMといいますが、それは「勘に頼らない医学」を意味します。

エビデンスのよって立つところは「無作為化比較試験(RCT)」です。RCTとは薬物または治療法を科学的に評価する方法です。お薬や治療法の効果を客観的に判定するために、患者さんを無作為(ランダム)に処置群(本物の薬で治療を受けた群)と比較対照群(本物でない薬で治療を受けた群)に割り付けて、評価を行う試験方法です。現在の医薬品のほとんどはRCTでその有効性が証明されています。

頭痛は一次性頭痛と二次性頭痛に分かれています。このガイドラインの守備範囲は、おもに一次性頭痛です。一次性頭痛とは慢性頭痛ともいわれ、頭痛自体が病気であり、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、その他の一次性頭痛に分類されています。二次性頭痛とはくも膜下出血や髄膜炎など、脳あるいは身体的原因のある頭痛です。このガイドラインでは一次性頭痛にとどまらず、頭痛医療全般、薬物乱用頭痛、小児頭痛、遺伝などの項目も追加しています。一次性頭痛の中でも片頭痛は有病率、支障度も高く、多くの国民が犠牲を強いられている重要な疾患ですので紙面が多く割かれています。

このガイドラインの作成に当たっては、臨床現場で何が問われているかについての臨床的問題点(CQ)を十分に調査し、臨床的課題を明確にしました。そのうえでCQに対する勧告を行う形をとっています。各CQに対してさまざまな文献を集積し、エビデンスの質を吟味したうえで、レベル推奨文と推奨グレードを作成しました。
推奨グレードは
グレードA 行うよう強く勧められる
グレードB 行うよう勧められる
グレードC 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
グレードD 行わないよう勧められる
にわかれています。それぞれの推奨およびそのグレードは、厚生労働省班研究の参加者により十分に議論したうえで決定されたものです。たとえグレードBやCであってもその治療法が劣るというわけではなく、エビデンスが十分でないという意味です。


本書は94編のCQのうち、市民の役に立ちそうなものをえりすぐって、原文の内容を大きく逸脱することなく、表現をやさしく改めて書き上げました。トピックス的な事項も簡単に書き加えてあります。やや専門的な内容はサイドメモとして解説しました。このガイドラインが頭痛で悩む方の福音書となることを編者一同は心から祈念しています。

2006年11月1日

厚生科学研究事業、日本頭痛学会
慢性頭痛の診療ガイドライン市民版作成委員会
五十嵐久佳、坂井文彦、竹島多賀夫、平田幸一、間中信也、山根清美(50音順)

注:    
EBM   イービーエム:Evidence-based Medicine/証拠に基づいた医療
RCT   アールシーティー:Randomized Controlled Trial/無作為化比較試験
CQ   シーキュー:Clinical Question/臨床的問題点

 

 
 
 
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