メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
29.遅発性内リンパ水腫
遅発性内リンパ水腫とは,陳旧性高度感音難聴の遅発性続発症として内耳に内リンパ水腫が生じ,めまい発作を反復する内耳性めまい疾患である。片耳または両耳の高度感音難聴が先行し,数年から数十年の後にめまい発作を反復するが,難聴は変動しない。
29.1 遅発性内リンパ水腫の疾患概念・病因・病態
遅発性内リンパ水腫の概念は,亀井ら, 1971が若年の一側聾症例がめまいを発症しやすいことを報告したことに始まる1)。Nadol, et al., 1975やWolfson, et al., 1975は,高度感音難聴発症後,遅発性に前庭水管の閉塞による内リンパ水腫が生じ,めまい発作が発症する可能性があることを報告した2,3)。Schuknecht, 1976はこの病態を遅発性内リンパ水腫(Delayed Endolymphatic Hydrops)と呼称した4)。また,高度感音難聴耳の内リンパ水腫によりめまいをきたす遅発性内リンパ水腫を同側型,対側の良聴耳の内リンパ水腫により良聴耳に聴力変動をきたす遅発性内リンパ水腫を対側型に分類した。なお,対側型にはめまい発作を伴う場合と伴わない場合がある。
遅発性内リンパ水腫の原因は不明である。遅発性内リンパ水腫同側型の病態について,Schuknecht, 1978は先行する高度難聴を引き起こした内耳の陳旧性病変により,内リンパ嚢や前庭水管の2次的変化として萎縮,線維性閉塞が生じて内リンパの吸収が障害され,その結果,長期間を経て内リンパ水腫が形成されると推定している5)。遅発性内リンパ水腫対側型は,先行する高度感音難聴発症時に,良聴耳にも同じ原因による軽微な潜在的な内耳病変が生じて遺残しており,その結果,長期間を経て良聴耳に内リンパ水腫が発生すると推定している。
症候的に考えると遅発性内リンパ水腫同側型は,メニエール病非定型例(前庭型)と類似している。しかし,メニエール病の病態が特発性内リンパ水腫であることに対して,遅発性内リンパ水腫は続発性内リンパ水腫である点が異なっている。遅発性内リンパ水腫対側型について武田ら, 1998は,遅発性内リンパ水腫症例の臨床的検討から,先行する難聴とは関連なく対側の良聴耳に発症したメニエール病と鑑別できないことが多く,遅発性内リンパ水腫対側型が独立した疾患であるかについては今後さらに検討が必要であると報告している6)。
参考文献
1) | 亀井民雄,野呂久公,矢部昴,牧野総太郎:一側性全聾の統計的観察,並に若年性片側全聾の特異性と眩暈疾患の好発性.耳喉 43:349-358, 1971. |
2) | Nadol JB, Weiss AP, Parker SW: Vertigo of delayed onset after sudden deafness. Ann Otol Rhinol Laryngol 84: 841-846, 1975. |
3) | Wolfson RJ, Leiberman A: Unilateral deafness with subsequent vertigo. Laryngoscope 85: 1762-1766, 1975. |
4) | Schuknecht HF: Pathophysiology of endolymphatic hydrops. Arch Otorhinolaryngol 212: 253-262, 1976. |
5) | Schuknecht HF: Delayed endolymphatic hydrops. Ann Otol Rhinol Laryngol 87: 743-748, 1978. |
6) | 武田憲昭,肥塚泉,西池季隆,北原糺,堀井新,宇野敦彦,矢野裕之,田矢直三,土井勝美,荻野仁,久保武:遅発性内リンパ水腫症例の臨床的検討.日耳鼻 101:1385-1389, 1998. |
29.2 遅発性内リンパ水腫の疫学
2001~2008年における厚生労働省前庭機能異常研究班が行った5回の国内多施設共同研究に基づくと,本邦における遅発性内リンパ水腫の患者数は同側型と対側型とを合わせて,4,000~5,000人と考えられている1)。研究班で収集された198症例の詳細な検討では,同側型が94名(男性43,女性51)と対側型104名(男性39,女性64)で両群ほぼ同数であった。また,対側型はやや女性優位であった。
先行する高度難聴の原因は原因不明(61.6%)が最も多く,突発性難聴(12.6%),ムンプスによる難聴(12.5%)が続く結果となった。同側型における難聴からのめまいの発症期間は,原因不明の難聴が先行した場合,平均26.4年,突発性難聴例では13.7年,ムンプス例では19.9年であった。対側型では,同様にそれぞれ29.7年,16.8年,17.2年であった。原因不明の難聴例では比較的長い期間を経て発症するケースが多かった。
参考文献
1) | Shojaku H, Watanabe Y, Takeda N, Ikezono T, Takahashi M, Kakegi A, Ito J, Doi K, Suzuki M, Takumida M, Takahashi K, Yamashita H, Koizuka I, Usami S, Aoki M, Naganuma H: Clinical characteristics of delayed endolymphatic hydrops in Japan: A nationwide survey by the peripheral vestibular disorder research committee of Japan. Acta Otolaryngol 130: 1135-1140, 2010. |
29.3 遅発性内リンパ水腫の診断基準
本ガイドラインの遅発性内リンパ水腫の診断基準は,2017年に日本めまい平衡医学会により改訂された診断基準である1)。遅発性内リンパ水腫は指定難病であり,医療費補助の対象になる遅発性内リンパ水腫患者は,この診断基準の遅発性内リンパ水腫確実例である。また,中耳加圧治療の対象になる遅発性内リンパ水腫患者も,本診断基準の遅発性内リンパ水腫確実例の診断基準を満たすものである。中耳加圧装置の適正使用指針を「参考資料」に示す(p.87)。
遅発性内リンパ水腫(Delayed endolymphatic hydrops)診断基準 | |||||||||||||||||||||||||||
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診断 | |||||||
遅発性内リンパ水腫確実例(Definite delayed endolymphatic hydrops) | |||||||
A.症状の4項目とB.検査所見の4項目を満たしたもの。 | |||||||
遅発性内リンパ水腫疑い例(Probable delayed endolymphatic hydrops) | |||||||
A.症状の4項目を満たしたもの。 |
診断にあたっての注意事項 |
遅発性内リンパ水腫は,多くの場合一側耳が先行する高度難聴または全聾で対側耳は正常聴力であり,難聴耳に遅発性に生じた内リンパ水腫が病態と考えられているため,遅発性内リンパ水腫(同側型)とも呼ばれる。一方,一側耳が先行する高度難聴または全聾で,難聴発症より数年~数十年経過した後に対側の良聴耳の聴力が変動する症例を遅発性内リンパ水腫(対側型)と診断する場合がある。対側の良聴耳に遅発性に生じた内リンパ水腫が病態と考えられているためである。めまいを伴う場合と,伴わない場合がある。しかし,遅発性内リンパ水腫(対側型)は,先行する難聴とは関連なく対側の良聴耳に発症したメニエール病と鑑別できないことが多く,独立した疾患であるかについては異論もある。
参考文献
1) | 池園哲郎,伊藤彰紀,武田憲昭,中村正,浅井正嗣,池田卓生,今井貴夫,重野浩一郎,高橋幸治,武井泰彦,山本昌彦,渡辺行雄:めまいの診断基準化のための資料 診断基準 2017年改定.Equilibrium Res 76: 233-241, 2017. |
29.4 遅発性内リンパ水腫の重症度分類
本ガイドラインの遅発性内リンパ水腫の重症度分類を以下に示す1)。
1)遅発性内リンパ水腫重症度分類 |
A: | 平衡障害・日常生活の障害 | ||||||
0点: | 正常 | ||||||
1点: | 日常活動が時に制限される(可逆性の平衡障害) | ||||||
2点: | 日常活動がしばしば制限される(不可逆性の軽度平衡障害) | ||||||
3点: | 日常活動が常に制限される(不可逆性の高度平衡障害) | ||||||
4点: | 日常活動が常に制限され,暗所での起立や歩行が困難(不可逆性の両側性高度平衡障害) | ||||||
注: | 不可逆性の両側性高度平衡障害とは,平衡機能検査で両側の半規管麻痺を認める場合 | ||||||
B: | 聴覚障害 | ||||||
0点: | 正常 | ||||||
1点: | 可逆的(低音部に限局した難聴) | ||||||
2点: | 不可逆的(高音部の不可逆性難聴) | ||||||
3点: | 中等度進行(中等度以上の不可逆性難聴) | ||||||
4点: | 両側性高度進行(不可逆性の両側性高度難聴) | ||||||
注: | 不可逆性の両側性高度難聴とは,純音聴力検査で平均聴力が両側70dB以上で70dB未満に改善しない場合 | ||||||
C: | 病態の進行度 | ||||||
0点: | 生活指導のみで経過観察を行う。 | ||||||
1点: | 可逆性病変に対して保存的治療を必要とする。 | ||||||
2点: | 保存的治療によっても不可逆性病変が進行する。 | ||||||
3点: | 保存的治療に抵抗して不可逆性病変が高度に進行し,侵襲性のある治療を検討する。 | ||||||
4点: | 不可逆性病変が高度に進行して後遺症を認める。 |
2)遅発性内リンパ水腫総合的重症度 |
Stage1:準正常期 | |||||||
A:0点,B:0点,C:0点 | |||||||
Stage2:可逆期 | |||||||
A:0~1点,B:0~1点,C:1点 | |||||||
Stage3:不可逆期 | |||||||
A:1~2点,B:1~2点,C:2点 | |||||||
Stage4:進行期 | |||||||
A:2~3点,B:2~3点,C:3点 | |||||||
Stage5:後遺症期 | |||||||
A:4点,B:4点,C:4点 |
参考文献
1) | 池園哲郎,伊藤彰紀,武田憲昭,中村正,浅井正嗣,池田卓生,今井貴夫,重野浩一郎,高橋幸治,武井泰彦,山本昌彦,渡辺行雄:めまいの診断基準化のための資料 診断基準 2017年改定.Equilibrium Res 76: 233-241, 2017. |
29.5 遅発性内リンパ水腫の症状
遅発性内リンパ水腫の症状の特徴は片耳または両耳の高度難聴ないし全聾が先行し,難聴発症より数年から数十年経過した後に発作性の回転性めまい,時に浮動性めまいを反復することである。めまいは誘因なく発症し,持続時間は10分程度から数時間程度である。嘔気・嘔吐を伴うことが多い。めまい発作の頻度は週数回の高頻度から年数回程度まで多様であるが,1日に複数回の場合は遅発性内リンパ水腫とは診断できない。患側耳が高度難聴のために,聴覚症状は変動せず,まれに耳閉感や耳鳴の増悪を自覚する。第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。めまい発作の頻度は,遅発性内リンパ水腫で月平均発作回数が1.9~6回で平均2.5回,めまいの持続時間は30分から1日と報告されている1)。
遅発性内リンパ水腫は発現するめまい症状に関してメニエール病と区別できないが,難聴に関しては先行する難聴疾患があること,および少なくとも1耳が聾ないし高度難聴であることより,メニエール病と区別される。
参考文献
1) | 水田啓介,伊藤八次,牛田純,森充広,久世文也,早川和喜,古田充哉,山田匡彦,渡辺英彦, 曽賀野悟史,宮田英雄:遅発性内リンパ水腫例の検討.Equilibrium Res 57: 328-334, 1998. |
29.6 遅発性内リンパ水腫の検査
遅発性内リンパ水腫は,陳旧性高度感音難聴の遅発性続発症として内耳に内リンパ水腫が生じ,めまい発作を反復する内耳性めまい疾患である。そのため,遅発性内リンパ水腫の検査として,めまいに対する平衡機能検査,聴覚症状に対する聴覚機能検査,内リンパ水腫に対する内リンパ水腫推定検査,内リンパ水腫を描出する内耳造影MRI検査がある。
1)遅発性内リンパ水腫の平衡機能検査・聴覚検査
遅発性内リンパ水腫症例は,標準純音聴力検査において片耳または両耳が高度感音難聴ないし全聾を認める。遅発性内リンパ水腫のみならず,めまい疾患の診断に対して行う各種平衡機能検査が施行される1)。眼振は発作時に水平回旋性の自発眼振を認めることが多い。温度刺激検査において難聴耳に半規管麻痺を認めることが多い。
参考文献
1) | 工藤裕弘,仙波哲雄,二木隆:遅発性内リンパ水腫の診断と治療.耳鼻臨床 補8:208-216, 1986. |
2)遅発性内リンパ水腫の内リンパ水腫推定検査
遅発性内リンパ水腫症例の内リンパ水腫推定検査は,高度感音難聴のためグリセロールテストや蝸電図検査は行えない。工藤ら, 1986は,フロセミドテストにより同側型遅発性内リンパ水腫22例中19例(86%)で陽性を認めた1)。伊東, 1993は,フロセミドVOR検査により遅発性内リンパ水腫21症例中11例(52%)で陽性を認めた2)。
参考文献
1) | 工藤裕弘,仙波哲雄,二木隆:遅発性内リンパ水腫の診断と治療.耳鼻臨床 補8:208-216, 1986. |
2) | 伊東宗治:内リンパ水腫推定法としてのフロセミドVOR検査の臨床的意義.日耳鼻 96:1112-1124, 1993. |
3)遅発性内リンパ水腫の内リンパ水腫画像検査
遅発性内リンパ水腫患者の内耳には,内耳造影MRI検査で内リンパ水腫が認められる。症例数は少ないが,遅発性内リンパ水腫同側型の先行する難聴耳における内リンパ水腫陽性率は100%1-4)と報告されている。一方,遅発性内リンパ水腫対側型の対側の良聴耳における内リンパ水腫陽性率も100%と報告されている1,4,5)。ただし,対側型は先行する難聴とは関連なく対側の良聴耳に発症した特発性内リンパ水腫と,画像検査では鑑別できない。先行する難聴により対側の良聴耳に遅発性に生じた内リンパ水腫であるかについては,先行難聴耳における内リンパ水腫の有無も含め,総合的な判断が必要である5)。
参考文献
1) | Kasai S, Teranishi M, Katayama N, Sugiura M, Nakata S, Sone M, Naganawa S, Nakashima T: Endolymphatic space imaging in patients with delayed endolymphatic hydrops. Acta Otolaryngol 129: 1169-1174, 2009. |
2) | Fukushima M, Oya R, Akazawa H, Tsuruta Y, Inohara H: Gadolinium-enhanced inner ear magnetic resonance imaging for evaluation of delayed endolymphatic hydrops, including a bilateral case. Acta Otolaryngol 136: 451-455, 2016. |
3) | Fukushima M, Ito R, Miyaguchi S, Hirai T, Otami Y, Akahani S, Inohara H, Takeda N: Preceding profound deafness and co-factors promote development of endolymphatic hydrops in preliminary patients with delayed endolymphatic hydrops. Acta Otolaryngol 136: 1304-1308, 2016. |
4) | Iwasa Y, Tsukada K, Kobayashi M, Kitano T, Mori K, Yoshimura H, Fukuoka H, Usami S: Bilateral delayed endolymphatic hydrops evaluated by bilateral intratympanic injection of gadodiamide with 3T-MRI. PLoS One 13: e0206891, 2018. |
5) | Fukushima M, Yokoi K, Iga J, Akahani S, Inohara H, Takeda N: Contralateral type of delayed endolymphatic hydrops may consist of two phenotypes based on a magnetic resonance imaging preliminary study. Acta Otolaryngol 137: 1153-1157, 2017. |
29.7 遅発性内リンパ水腫の治療
遅発性内リンパ水腫の病態が内リンパ水腫であるため,その治療は基本的にメニエール病の治療に準じる。めまい発作期の治療は,安静に加え,抗めまい薬,制吐薬,電解質バランス補正や脱水に対する補液が行われる。発作間歇期には,めまい発作を予防するために生活指導や保存的治療から開始する。発作の誘因となる患者の生活環境上の問題点があれば,これを明らかにし,生活改善を指導する。浸透圧利尿薬による薬物治療も行われる。有酸素運動も有効とされる。
保存的治療によりめまい発作が抑制されない難治性の遅発性内リンパ水腫患者には,中耳加圧装置(Meniett®,鼓膜マッサージ器)を利用した中耳加圧治療,ステロイド鼓室内注入療法の有効性が報告されている。Shojaku, et al., 2011は,難治性メニエール病および遅発性内リンパ水腫症例にMeniett®を用いた中耳加圧治療を行った1)。遅発性内リンパ水腫5例にMeniett®を3カ月間使用した結果,全例にめまい発作が消失し,有害事象は生じなかった。Watanabe, et al., 2011は,難治性メニエール病および遅発性内リンパ水腫の鼓膜マッサージ器を用いた中耳加圧治療とMeniett®を用いた中耳加圧治療を比較した。両群ともめまい発作の頻度が有意に減少し,鼓膜マッサージ器とMeniett®の差を認めなかった2)。以上から,中耳加圧治療は難治性遅発性内リンパ水腫のめまい発作抑制に有効であると考えられる。
遅発性内リンパ水腫患者では患側耳は高度難聴のため,メニエール病の発作予防の段階的治療と異なり,中耳加圧治療の次の段階として,内リンパ嚢開放術をスキップして選択的前庭機能破壊術が選択される。Liu, et al., 2015は,難治性遅発性内リンパ水腫症例にゲンタマイシン鼓室内注入療法を行い,9症例中4例でめまい強度,持続時間,頻度の減少に効果があった3)。
三澤ら, 2005は,難治性遅発性内リンパ水腫例にゲンタマイシン鼓室内注入療法を施行し,1年以上の長期にわたり有効であったと報告している4)。以上から,ゲンタマイシン鼓室内注入療法は難治性遅発性内リンパ水腫のめまい発作抑制に有効と考えられる。
これらの治療でもめまい発作が抑制できない場合,より侵襲性の高い選択的前庭機能破壊術が考慮される。高度難聴耳がめまいの責任耳と判断できれば,迷路破壊術が選択されることもある。
なお,2018年に保険収載された中耳加圧装置による中耳加圧治療の施行に際して,日本めまい平衡医学会による中耳加圧装置適正使用指針を遵守する必要がある。中耳加圧装置適正使用指針は巻末の「参考資料」に記載した(p.87)。中耳加圧治療の対象患者の診断には,遅発性内リンパ水腫病診断基準2017年を用いることが記載されている。
参考文献
1) | Shojaku H, Watanabe Y, Mineta H, Aoki M, Tsubota M, Watanabe K, Goto F, Shigeno K: Long-term effects of the Meniett device in Japanese patients with Ménière's disease and delayed endolymphatic hydrops reported the Middle Ear Pressure Treatment Research Group of Japan. Acta Otolayngol 131: 277-283, 2011. |
2) | Watanabe Y, Shojaku H, Junicho M, Asai M, Fujisaka M, Takakura H, Tsubota M, Yasumura S: Intermittent pressure therapy of intractable Ménière's disease and delayed endolymphatic hydrops using the transtympanic membrane massage device: a preliminary report. Acta Otolayngol 131: 1178-1186, 2011. |
3) | Liu B, Zhang S, Leng Y, Zhou R, Liu J, Kong W: Intratympanic injection in delayed endolymphatic hydrops. Acta Otolaryngol 135: 1016-1021, 2015. |
4) | 三澤逸人,片山直美,中島務:メニエール病,遅発性内リンパ水腫に対するゲンタマイシン鼓室内注入療法の長期成績.Equilibrium Res 64: 465-471, 2005. |
29.8 遅発性内リンパ水腫の治療のClinical Question
遅発性内リンパ水腫のめまい発作急性期の治療,発作予防の段階的治療,めまいの治療効果判定基準は,メニエール病と同様である。遅発性内リンパ水腫の治療のCQとして「CQ:遅発性内リンパ水腫に抗めまい薬は有効か?」「CQ:遅発性内リンパ水腫に利尿薬は有効か?」「CQ:遅発性内リンパ水腫に中耳加圧治療は有効か?」「CQ:遅発性内リンパ水腫に対する内リンパ嚢開放術は有効か?」「CQ:遅発性内リンパ水腫に選択的前庭機能破壊術は有効か?」を作成し,エビデンスを検索したが,適切なエビデンスを得ることができなかった。遅発性内リンパ水腫の病態はメニエール病と同じ内リンパ水腫のため,遅発性内リンパ水腫のCQについては,メニエール病のCQの推奨と推奨度に準じて行うべきと考える。
◆文献の採用方法 | |||||||
文献検索対象期間は2018年3月31日までとした。文献検索はPubMed,Cochrane Library,医学中央雑誌を用いて実施した。PubMedと医学中央雑誌では,疾患のキーワードとCQのキーワードを組み合わせて検索した。研究デザインや論文形式による絞り込みは行っていない。Cochrane Libraryでは,疾患のキーワードからシステマティックレビューとRCTを検索した。遅発性内リンパ水腫の治療については,Cochrane Libraryを用いて遅発性内リンパ水腫のエビデンスを検索したが,delayed endolymphatic hydropsをキーワードに検索したところ,遅発性内リンパ水腫のエビデンスは認められなかった。Vertigoをキーワードに検索したところ,24のエビデンスが得られたが,遅発性内リンパ水腫に関するエビデンスは認められなかった。次に,文献データベースであるPubMedを用いてdelayed endolymphatic hydropsをキーワードに検索を行った。その結果,88の文献が検索された。そのうち,遅発性内リンパ水腫の治療に関する文献は9編であった。いずれも保存的治療でめまい発作がコントロールできない遅発性内リンパ水腫症例を対象とした少数例のretrospective studyであり,エビデンスレベルの高い比較試験はなかった。そのため,採択できるエビデンスはないと判断した。 |