メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
28.両側メニエール病の治療
メニエール病の罹病期間が長期にわたると,両側メニエール病への移行率,罹患率も次第に上昇する1)。Stahle, et al., 1991によると,両側メニエール病に移行した症例のうち50%は発症から1年までに移行し,その後は一定の傾向を認めないものの,最長29年での両側移行例も報告されている2)。Paparella, et al., 1984の報告では,両側メニエール病のうち50%は発症後2年までに,70%は5年までに移行するとしている3)。一方,両側メニエール病のメニエール病全体に占める割合は,10年で10~30%,20年で40%以上と報告されている4)。
両側メニエール病の治療に関して問題となるのは,難治性であるにもかかわらず外科的治療を選択し難い点である。まずは一側メニエール病の場合と同様に,生活指導や可能な範囲での心理療法,それと並行して利尿薬,血流改善薬,ビタミン剤などの内服治療を試みる。聴力低下が著しい場合には,使用に限度はあるがステロイドの点滴,内服あるいは鼓室内投与も考慮すべきである。精神的に不安定になるようなら,ベンゾジアゼピン系抗不安薬を投与し,精神状態の安定化を図る。抗うつ薬の併用も効果的な場合がある。
上記の保存的治療に抵抗して繰り返すめまい発作や,高度感音難聴への進行が認められる難治性両側メニエール病の場合,外科的治療を考慮せざるを得ない。対側耳の内耳機能が正常でないため,外科的治療の中で最も安全であり,内耳機能の温存あるいは改善を目指す内リンパ嚢開放術が第一選択となる。手術側の決定が重要となるが,両側メニエール病であっても主たるめまいの責任耳は一側であることが多いといわれている。めまい発作を抑制し聴力悪化を防止するためには,時期を逸せずめまいの責任耳に内リンパ嚢開放術を積極的に行うべきである。難治性両側メニエール病でめまいの責任耳が確実な症例に対して,ゲンタマイシン鼓室内投与などの比較的侵襲性の少ない選択的前庭機能破壊術を行って効果を認めた報告もある。
参考文献
1) | 水越鉄理,猪初男,石川和光,渡辺行雄,山崎晴子,渡辺勈,大久保仁:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によるメニエール病の疫学調査と症状調査.耳鼻臨床 70:1669-1686, 1977. |
2) | Stahle J, Friberg U, Svedberg A: Long-term progression of Ménière's disease. Acta Otolaryngol Suppl 485: 78-83, 1991. |
3) | Paparella MM, Griebie MS: Bilaterality of Ménière's disease. Acta Otolaryngol 97: 233-237, 1984. |
4) | Havia M, Kentala E: Progression of symptoms of dizziness in Ménière's disease. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 130: 431-435, 2004. |