メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
26.メニエール病の治療のClinical Question 2
26.メニエール病の治療のClinical Question
| |||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||
●解説● | |||||||||||||||||||||||||||||||
メニエール病に対する利尿薬の有効性に関し,いくつかのシステマティックレビューがある。しかし,いずれにおいても,質の高いRCTの報告はなく,エビデンスの有無は結論づけることができないとしている。Burgess, et al., 2006(Cochrane Library)によると,抽出した10編の報告において評価対象となる質の高い研究はなく,利尿薬の有効性を示すエビデンスはないと述べている1)。Crowson, et al., 2016は,1962年より2012年の間に発表された19の報告のうち15編(79%)ではめまいに対する結果は良好であったが,聴力に関する結果が良好なものは8編(42%)であったとしている2)。James, et al., 2007は,Deelenらによる33例のプラセボを対象としたクロスオーバー試験を引用し,17週の利尿薬投与前後における評価では,聴力には変化がみられないが,めまい発作の頻度を減少させる可能性があると述べている3)。ただしこの研究は統計処理の問題があるとしている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
本邦で頻用されているイソソルビドに関しては,質の高いRCTは実施されていない。北原ら, 1986はイソソルビドに関するベタヒスチンメシル酸塩を対照とした147例の二重盲検試験では,その有効性は対照を上回ったと述べている4)。北原ら, 1987はさらに,1日投与量を30mLから120mLまでを無作為に割り付けた92例について,その効果を検討した5)。120mL投与は,60mL投与より副作用の発生頻度が高く,90mL投与では30mL投与より有用度が高かったと述べている。このことより1日量90mL投与が推奨される。また,鈴木ら, 1993のイソソルビドによってめまいが消失した30例に対する後ろ向き研究では,イソソルビド中止前6カ月間に回転性めまい発作を有するものは,その後の症状の悪化したものが多かった。また,症状悪化例の80%は再投与によって症状は軽快した6)。このことからイソソルビドの投与は,最終めまい発作から6カ月間,その後再発に応じて再投与が望ましい。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
◆付記 | |||||||||||||||||||||||||||||||
メニエール病に対する利尿薬の有効性については,いくつかのシステマティックレビューがある。しかし,これらに共通するのは,プラセボを対照としたRCTは実施されておらず,有効性について結論付けるのは困難であるという結論である。質の高いRCTの実施が望まれる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
これらのシステマティックレビューにおいて,利尿薬の種類による効果の差については論じられていない。興味深いことに,本邦からの報告のほとんどがイソソルビドに対するものであり,またCochrane LibraryやCrowson, et al., 2016によるシステマティックレビューにおいてイソソルビドの使用例は,すべて本邦からの報告である。前述のように,本邦では,薬剤の適応の関係上,イソソルビドを用いることが多い。本邦での薬剤に対する有効性のエビデンスを確立することが急務である。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
◆文献の採用方法 | |||||||||||||||||||||||||||||||
文献検索対象期間は2018年3月31日までとした。文献検索には,PubMed,Cochrane Library,医学中央雑誌を用いて実施した。PubMedでは,「Meniere's disease」,「diuretics」をキーワードとして組み合わせて検索した。研究デザインや論文形式による絞り込みは行っていない。Cochrane Libraryでは,「Meniere's disease」をキーワードとしてシステマティックレビューとRCTを検索した。医学中央雑誌では「メニエール病」,「利尿」とその類義語をキーワードとして組み合わせて検索した。その結果,英語文献では519編を抽出した。その結果,英語文献では235編を抽出した。和文文献では,会議録を除く83編を抽出した。それらの中からRCT5編を抽出した。さらに要旨のレビューを行い,後ろ向き研究1編を追加し,6編を採用した。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
◆推奨度の判定に用いた文献 | |||||||||||||||||||||||||||||||
Burgess, et al., 2006(レベル1b),James, et al., 2007(レベル1b),Crowson, et al., 2016(レベル1b),北原ら, 1986(レベル1b),北原ら, 1987(レベル1b),鈴木ら, 1993(レベル3) | |||||||||||||||||||||||||||||||
参考文献 | |||||||||||||||||||||||||||||||
1) | Thirlwall AS, Kundu S: Diuretics for Meniere's disease or syndrome. Cochrane Database Syst Rev: CD003599, 2006. | ||||||||||||||||||||||||||||||
2) | Crowson MG, Patki A, Tucci DL: A Systematic Review of Diuretics in the Medical Management of Menière's disease. Otolaryngol Head Neck Surg 154: 824-834, 2016. | ||||||||||||||||||||||||||||||
3) | James AL, Thorp MA: Menière's disease. BMJ Clin Evid pii: 0505, 2007. | ||||||||||||||||||||||||||||||
4) | 北原正章,渡辺勈,檜学,水越鉄理,松永亨,松永喬,小松崎篤,松岡出,上村卓也,森満保,石井哲夫,雲井健雄,調重昭,中島成人,二木隆,山川宗位,菊池尚子,稲守徹,荻野仁,柿内寿美,真島一彦,小川暢也:Isosorbideのメニエール病に対する効果に関する臨床的検討-多施設二重盲検法によるBethahistine Mesylateとの群間比較-. 耳鼻 32:44-92, 1986. | ||||||||||||||||||||||||||||||
5) | 北原正章,渡辺勈,檜学,水越鉄理,松永亨,松永喬,小松崎篤,松岡出,上村卓也,森満保,調重昭,中島成人,二木隆,小川暢也:Isosorbideのメニエール病に対する用量検討試験. 薬理と治療 15:2975-2990, 1987. | ||||||||||||||||||||||||||||||
6) | 鈴木幹男,北原正章,児玉章,内田郁,伊豆蔵尚夫,北西剛,山名高世:メニエール病のイソソルビド投与期間に関する検討.Equilibrium Res 52: 116-120, 1993. |