メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
22.メニエール病の症状
メニエール病では,難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状に伴うめまい発作を反復する。メニエール病でみられるめまいと聴覚症状の特徴を以下に記す。
22.1 めまい
メニエール病の発作時のめまいは,回転性めまいが多数(約80%)である。しかし,浮動性めまいを訴える症例もある。めまいは特別の誘因なく発症し,嘔気・嘔吐を伴うことが多い。発作時に難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状を随伴する。しかし,意識障害,複視,視力障害,構音障害,嚥下障害・誤嚥,感覚障害,運動障害,小脳症状・失調,激しい頭痛などのめまいや聴覚症状以外の中枢神経症状を示すことはない。
メニエール病のめまいの持続時間は,10分程度から数時間程度である。数秒~数十秒程度のきわめて短いめまいが主徴である場合,メニエール病は否定的である。American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery(AAO-HNS)のメニエール病診断基準(1995)1)では,めまい発作の持続時間を20分以上としている。一方,バラニー学会のメニエール病診断基準2)では,20分から12時間とされている。以前に行われたメニエール病調査研究班の症状調査3)では,30分~6時間が多数(約50%)であるが,6~12時間の長時間の症例も少なくなかった(約20%)。
発作回数は週数回の高頻度から年数回程度まで多様である。また,ある時点からめまい発作が急速に群発化(cluster化)する場合がある。メニエール病の発症初期には,「寝ている以外何もできない」あるいは「仕事ができない」ほどの高度のめまい症状を示す例が多数である。めまいの程度はめまい発作を反復すると軽症化することが多いが,発症後5年程度の症例でも,約半数が発作時には就労不能の強いめまいを訴える。
メニエール病のめまいは,発作期が過ぎると軽減し消失する。間歇期には強いめまい症状はないが,症例によっては浮動感などを訴える症例がある。以前の前庭機能調査研究班のメニエール病確実例520例の調査3)では,メニエール病の経過年数は,全体の約70%が4年以上の長期経過例であった。また,発症1年以内の症例の経過を追跡した結果では4),3年以上めまい発作が継続した例は約30%であった。このことから,メニエール病では発症後2~3年で軽快する症例と長期にわたって発作を反復する重症例に二分される。重症例では,患者の社会生活に与える影響がきわめて大きい。
参考文献
1) | Committee on Hearing and Equilibrium guidelines for the diagnosis and evaluation of therapy in Ménière's disease. American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Foundation, Inc. Otolaryngol Head Neck Surg. 113: 181-185, 1995. |
2) | Lopez-Escamez JA, Carey J, Chung WH, Goebel JA, Magnusson M, Mandalà M, Newman-Toker DE, Strupp M, Suzuki M, Trabalzini F, Bisdorff A; Classification Committee of the Barany Society; Japan Society for Equilibrium Research; European Academy of Otology and Neurotology (EAONO); Equilibrium Committee of the American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery (AAO-HNS); Korean Balance Society: Diagnostic criteria for Ménière's disease. J Vestib Res 25: 1-7, 2015. |
3) | 水越鉄理,猪初男,石川和光,渡辺行雄,山崎晴子,渡辺勈,大久保仁:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によるメニエール病の疫学調査と症状調査(個人調査票・症状調査票による集計と対照例との比較).耳鼻臨床 70:1669-1686, 1977. |
4) | 水越鉄理,渡辺行雄,大橋直樹,大野吉昭,渡辺勈,大久保仁:厚生省特定疾患メニエール病初期症例の追跡調査成績.耳鼻臨床 75:1150-1164, 1982. |
22.2 聴覚症状
メニエール病の聴覚症状は,主徴が難聴であり,耳鳴,耳閉感,聴覚過敏などが合併することが多い。難聴が軽度の場合は自覚的に難聴を訴えず,耳鳴,耳閉感が主徴となる場合もある。メニエール病の聴覚症状は,めまい発作に関連して発症して増強した後に軽快する変動性であることが特徴である。
メニエール病の聴覚症状は,めまい発作前に発現することが多く(約60%),次いでめまい発作とほぼ同時に発現する(約30%)。一方,めまい発作が軽快した後に聴覚症状が発現する症例は少数である1)。
めまい発作後に難聴を中心とした聴覚症状は軽減する。しかし,多くの症例で軽度の聴覚症状が残存する。難聴はメニエール病の罹病期間が長期化して発作を反復するにつれて次第に高度化する。一側メニエール病の患側耳聴力(調査時点での最良時聴力:4分法平均)は,発症2年以内の症例では20dB以下の症例が50~60%であるが,3年以上の症例では21~60dBの症例が増加し,経過年数とともに難聴が悪化する。しかし,60dB以上の症例は10年以上の経過症例でも10%以下であり,一側メニエール病の聴力障害は中等度難聴にとどまる症例が大多数である2)。
参考文献
1) | 水越鉄理,猪初男,石川和光,渡辺行雄,山崎晴子,渡辺勈,大久保仁:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によるメニエール病の疫学調査と症状調査(個人調査票・症状調査票による集計と対照例との比較).耳鼻臨床 70:1669-1686, 1977. |
2) | Sato G, Sekine K, Matsuda K, Ueeda H, Horii A, Nishiike S, Kitahara T, Uno A, Imai T, Inohara H, Takeda N: Long-term prognosis of hearing loss in patients with unilateral Ménière's disease. Acta Otolaryngol 134: 1005-1010, 2014. |