メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
19.メニエール病の診断基準
メニエール病の診断基準は,1974年にメニエール病が厚生省によって特定疾患に指定された際に「メニエール病診断の手引き」として作成され1),2008年度の厚生労働省難治性疾患克服研究事業前庭機能異常に関する調査研究班の研究活動の一環として改訂された2)。この改訂基準の特徴は,メニエール病の病態を内リンパ水腫と位置づけ,メニエール病確実例の定義を簡潔化し,さらに1974年の診断基準のメニエール病疑い例を,メニエール病非定型例(蝸牛型)とメニエール病非定型例(前庭型)とし,その診断基準を明確にした点である3)。
一方,めまい学会基準は,日本めまい平衡医学会により1987年に作成され,2017年に改訂された4)。本診療ガイドラインのメニエール病の診断基準は,日本めまい平衡医学会の「メニエール病診断基準2017年」を用いる。
参考として,『メニエール病診療ガイドライン2011年版』およびバラニー学会により2015年に提唱された「メニエール病診断基準」を,巻末の「参考資料1.他のメニエール病診断基準」(p.78)に掲載した。
参考文献
1) | 渡辺勈:厚生省研究班のメニエール病診断基準について.耳鼻臨床 69:301-303, 1976. |
2) | 厚生労働省難治性疾患克服研究事業前庭機能異常に関する調査研究班(2008~2010年度)編: メニエール病の診断基準.メニエール病診療ガイドライン 2011年版.金原出版,東京,pp.8-11, 2011. |
3) | 渡辺行雄:メニエール病診断基準の改定にあたって.Equilibrium Res 68: 101-102, 2009. |
4) | 池園哲郎,伊藤彰紀,武田憲昭,中村正,浅井正嗣,池田卓生,今井貴夫,重野浩一郎,高橋幸治,武井泰彦,山本昌彦,渡辺行雄:めまいの診断基準化のための資料 診断基準 2017年改定.Equilibrium Res 76: 233-241, 2017. |
19.1 日本めまい平衡医学会のメニエール病の診断基準 2017年
本ガイドラインのメニエール病の診断基準を以下に示す。本診断基準の特徴は,従来は症状のみ規定されたメニエール病確実例の診断に検査所見の項目が新たに加えられたことである。
1)メニエール病(Ménière's disease)診断基準 2017年
A. | 症状 | ||||||
1. | めまい発作を反復する。めまいは誘因なく発症し,持続時間は10分程度から数時間程度。 | ||||||
2. | めまい発作に伴って難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状が変動する。 | ||||||
3. | 第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。 | ||||||
B. | 検査所見 | ||||||
1. | 純音聴力検査において感音難聴を認め,初期にはめまい発作に関連して聴力レベルの変動を認める。 | ||||||
2. | 平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める。 | ||||||
3. | 神経学的検査においてめまいに関連する第Ⅷ脳神経以外の障害を認めない。 | ||||||
4. | メニエール病と類似した難聴を伴うめまいを呈する内耳・後迷路性疾患,小脳,脳幹を中心とした中枢性疾患など,原因既知の疾患を除外できる。 | ||||||
5. | 聴覚症状のある耳に造影MRIで内リンパ水腫を認める。 |
診断 | |||||||
メニエール病確定診断例(Certain Ménière's disease) | |||||||
A.症状の3項目を満たし,B.検査所見の5項目を満たしたもの。 | |||||||
メニエール病確実例(Definite Ménière's disease) | |||||||
A.症状の3項目を満たし,B.検査所見の1~4の項目を満たしたもの。 | |||||||
メニエール病疑い例(Probable Ménière's disease) | |||||||
A.症状の3項目を満たしたもの。 |
[診断にあたっての注意事項]
メニエール病の初回発作時には,めまいを伴う突発性難聴と鑑別できない場合が多く,診断基準に示す発作の反復を確認後にメニエール病確実例と診断する。
2)メニエール病非定型例(Atypical Ménière's disease)診断基準
(1)メニエール病非定型例(蝸牛型)(Cochlear type of atypical Ménièreʼs disease)
A. | 症状 | ||||||
1. | 難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状の増悪,軽快を反復するが,めまい発作を伴わない。 | ||||||
2. | 第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。 | ||||||
B. | 検査所見 | ||||||
1. | 純音聴力検査において感音難聴を認める。聴力型は低音障害型または水平型感音難聴が多い。 | ||||||
2. | 神経学的検査において難聴に関連する第Ⅷ脳神経以外の障害を認めない。 | ||||||
3. | メニエール病と類似した難聴を呈する内耳・後迷路性疾患,小脳,脳幹を中心とした中枢性疾患など,原因既知の疾患を除外できる。 |
診断 | |||||||
メニエール病非定型例(蝸牛型)確実例(Definite cochlear type of atypical Ménière's disease) | |||||||
A.症状の2項目を満たし,B.検査所見の3項目を満たしたもの。 |
[診断にあたっての注意事項]
急性低音障害型感音難聴の診断基準(厚生労働省難治性聴覚障害に関する調査研究班,2017年改訂)の参考事項2。蝸牛症状が反復する例がある,と記載されており,難聴が反復する急性低音障害型感音難聴とメニエール病非定型例(蝸牛型)とは類似した疾患と考えられる。
(2)メニエール病非定型例(前庭型)(Vestibular type of atypical Ménière's disease)
A. | 症状 | ||||||
1. | メニエール病確実例に類似しためまい発作を反復する。一側または両側の難聴などの聴覚症状を合併している場合があるが,この聴覚症状は固定性でめまい発作に関連して変動しない。 | ||||||
2. | 第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。 | ||||||
B. | 検査所見 | ||||||
1. | 平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める。 | ||||||
2. | 神経学的検査においてめまいに関連する第Ⅷ脳神経以外の障害を認めない。 | ||||||
3. | メニエール病と類似しためまいを呈する内耳・後迷路性疾患,小脳,脳幹を中心とした中枢性疾患など,原因既知の疾患を除外できる。 |
診断 | |||||||
メニエール病非定型例(前庭型)確実例(Definite vestibular type of atypical Ménière's disease) | |||||||
A.症状の2項目を満たし,B.検査所見の3項目を満たしたもの。 |
[診断にあたっての注意事項]
メニエール病非定型例(前庭型)は,内リンパ水腫以外の病態による反復性めまい症との鑑別が困難な場合が多い。めまい発作の反復の状況,めまいに関連して変動しない難聴などの聴覚症状を合併する症例ではその状態などを慎重に評価し,内リンパ水腫による反復性めまいの可能性が高いと判断された場合にメニエール病非定型例(前庭型)と診断する。