メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
17.メニエール病の疾患概念・病因・病態
17.1 メニエール病の疾患概念
メニエール病は,難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する疾患であり,その病態は内リンパ水腫である1-4)。メニエール病には,めまい発作を頻繁に繰り返す発作期と,めまい発作のない間歇期とがあるが,間歇期にも浮動感やふらつき,聴覚症状が残存することが多い。めまい発作の頻度は,年に数回程度から週に数回程度まで症例によって多様である。家庭・職場環境によるストレスなどが発作の誘因になることが多い。
メニエール病の聴覚症状は,発症初期には可逆性のことが多いが,経過中に次第に増悪して不可逆性になることがある。さらに,難聴は一側性で発症するが,めまい発作を反復するうちに,両側性の難聴となる。両側メニエール病となる患者が約20%存在する。前庭機能障害も発症初期は可逆性であるが,めまい発作を繰り返すうちに不可逆性になり,半規管麻痺を認めるようになる。両側メニエール病が進行すると両側前庭機能障害となり,平衡障害が持続するようになる。
メニエール病の治療は,発作期の治療と間歇期の治療に大別される。発作期の治療はめまいの沈静化と内耳機能の回復を目標とする。間歇期の治療はめまい発作と難聴の進行の予防を目標とする。治療に抵抗して短期間にめまい発作が反復し,難聴と平衡障害が進行すると,患者のQOLを著しく障害する。このようにメニエール病は社会生活上の影響がきわめて大きい疾患である。
17.2 メニエール病の病因・病態
内耳は側頭骨の迷路骨包に囲まれた骨迷路と,その内部の膜迷路によって構成される。骨迷路と膜迷路の間は外リンパで満たされており,膜迷路は内リンパで満たされている(図1)。内リンパは蝸牛の血管条と前庭の暗細胞で産生され,内リンパ囊で吸収される。内リンパの産生過剰または吸収障害で膜迷路の容積が増大した状態が内リンパ水腫であり,蝸牛ではライスネル膜が膨隆する(図2)。
内リンパ水腫は,ウイルス感染や外リンパ瘻などの内耳疾患罹患後などにもみられるが,メニエール病の病態は,その原因を特定できない特発性内リンパ水腫である。内耳疾患に罹患した後に発症する内リンパ水腫は続発性内リンパ水腫であり,高度感音難聴に罹患した後,長い年月を経て発症する続発性内リンパ水腫が遅発性内リンパ水腫である。


図2 | 蝸牛における内リンパ水腫 |
A 蝸牛回転の断面 B Aの一部の拡大 |
参考文献
1) | 山川強四郎:メニエール氏症候を呈せし患者の聴器.日耳鼻 44:2310-2312, 1938. |
2) | Hallpike CS, Cairns H: Observation on the pathology of Mèniére's syndrome. J Laryngol Otol 53: 625-655, 1938. |
3) | 切替一郎,野村恭也編:新耳鼻咽喉科学 改訂10版.南山堂,東京,p19, 2004. |
4) | Paparella MM, Morizono T, Matsunaga T: Kyoshiro Yamakawa, MD, and temporal bone histopathology of Meniere's patient reported in 1938: Commemoration of the centennial of his birth. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 118: 660-662, 1992. |