(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ50

Ⅱ.日常整容編

CQ50
がん治療に伴う外見変化に対する心理・社会的介入は,QOLの維持・向上に有用か
  推奨グレード
C1a
高いエビデンスはないが,患者本人のQOLの維持・向上のためには,治療に伴う外見変化に関して,治療前に本人へ適切な説明や情報提供を行うこと,また,治療中や治療後の心理・社会的介入(化粧プログラム,カウンセリング,情報提供など)を行うことが勧められる。

背景・目的

Nozawaらによる753名のがん患者を対象とした調査により,8割の患者が治療による外見変化を気にしていることが示されている1)。治療前のがん患者にとって,治療に伴う外見の変化を想像することはつらく,治療の拒否の理由ともなっている2)。がん治療に伴う外見変化が患者にとって重要であることが明らかにされるとともに,治療に伴う外見変化により生じる心理的諸問題が指摘されるようになってきた。そこで,がん治療に伴う外見変化に対する心理・社会的介入は,QOLの維持・向上に有用かを検討した。

解説

近年,がん治療に伴う外見変化が,種々の副作用に劣らずQOLに悪影響を及ぼすことが明らかにされている1)3)。外見変化がQOLを低下させることや,治療後の外見満足度がQOLに関連していることなどが,これまで明らかにされてきている4)~7)。ただし,乳がんの手術の種類の比較など,直接的に外見を要因として扱っているわけではないものが含まれる。乳房手術の前後でQOLに変化がないという報告もあるが8),外見という要因がどのようにQOLに影響を及ぼしているかは十分に明確になっているわけではない。また,これらの検討のほとんどが,女性そして乳がん患者を対象としたものである。幅広い内容についての今後の検討が待たれる。

治療に伴う外見変化における心理・社会的介入がQOLへ及ぼす影響についても,いくつかの研究にて検討が行われている。患者の発話の分析から,外見変化において美容ケアアドバイスなどの心理・社会的介入がQOL低下の抑制に有用であろうと考察している質的研究が散見される4)8)~10)。また,以降で述べるように,量的研究による効果の検証も行われている。

化粧プログラムの有用性についての検討が行われており,その効果が示されている11)~14)。化粧プログラムは,外見変化に対する美容ケアを行うことによってQOL改善を目的とするものである。土方は,2回目以降の化学療法を受ける20歳以上の外来治療中の女性乳がん患者30名を対象に,美容ケアアドバイスの効果についての調査を実施した11)。なお,美容ケアアドバイスは,主に肌色カバー方法,眉・まつ毛の描き方,爪・ハンドケア方法であった。介入後,抑うつが改善し,また,化粧満足度,心の元気度,活動性,治療への取り組み意欲なども改善したことが示された。また,Quintardらは,手術を受けた乳がん患者100名に対し,美容に関する介入を行うランダム化比較試験を実施した12)。介入は術後1週間目に美容に関する指導を2名の美容の専門家が実施した。実施した内容は,マニキュア,メイクアップ,ボディマッサージなどであった。介入群のほうが有意にボディイメージが改善したことが示された。また,介入群は絶望感の上昇を抑制していることも示された。他に,外見の改善により自己イメージ等が改善したという報告もある15)。これらの研究における化粧プログラムは,外見変化した部分についてのケアを行っているものもあれば,他の部分についてもケアを行っているものもある。どちらにおいても,化粧プログラムは有効であることが示されている。このように,限られた知見ではあるものの,心理・社会的介入の効果については,検証が積み上げられ,有用性が確認されてきている。

女性性やボディイメージに焦点を当てたカウンセリングの有用性についての検討は,扱われている内容が包括的で外見に限らないものや16)~18),女性性のケアに焦点が当てられた検討19)~21)などは散見されるが,外見という領域に特化した検討,またはQOLの他の側面についての検討は乏しく,カウンセリングの直接的な効果についての検証は行われていない。外見変化に伴うボディイメージの受容の困難さに対して,治療後のフォローアップがどの程度効果があるのか,そしてQOLの低下をどの程度抑制するかについても,現状では必ずしも十分には明らかにされていない。

上述のとおり,現状では直接的なエビデンスが十分でない部分もあるが,個々の知見を組み合わせると,外見に関する心理・社会的介入が患者のQOLに影響を及ぼす可能性は高いといえる。現状として,治療による外見の悪化に伴うQOLの低下などから,治療前の教育や心理・社会的介入の重要性が指摘されることもあるが22)23),介入の効果についてのエビデンスは示されていない。しかし,治療により変化したボディイメージの受容の難しさに対するカウンセリングや看護,サポートを求める者が一定数存在することが指摘されており24),今後,その効果について実証的検討を行う必要があろう。なお,情報提供の内容が不十分であることの指摘もなされており25),提供する情報の質などについても今後検討を行う必要があるといえる。

検索式・参考にした二次資料

PubMedおよびPsycINFOにて,"cancer/radiation/chemotherapy", "QOL/distress/anxiety", "body image", "follow up/counseling/explanation"のキーワードを用いて検索した。医中誌WebおよびJ-STAGEにて,“生活の質(QOL)”,“不安”,“身体像”,“ボディイメージ”,“化粧”,“美容法”,“カウンセリング”等のキーワードを用いて検索した。また,欧米のテキストおよびその引用文献からも文献を収集した。さらに,二次資料としては,Oncology Nursing Society(ONS)Chemotherapy and Biotherapy Guidelines and Recommendations for Practice(Fourth Edition)2014 を参考にした。

参考文献
1)Nozawa K, Shimizu C, Kakimoto M, et al. Quantitative assessment of appearance changes and related distress in cancer patients. Psychooncology. 2013; 22(9): 2140-7.(レベルⅣb)
2)Choi EK, Kim IR, Chang O, et al. Impact of chemotherapy-induced alopecia distress on body image, psychosocial well-being, and depression in breast cancer patients. Psychooncology. 2014; 23(10): 1103-10.(レベルⅤ)
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16)Crane-Okada R, Kiger H, Sugerman F, et al. Mindful movement program for older breast cancer survivors: a pilot study. Cancer Nurs. 2012; 35(4): E1-13.(レベルⅡ)
17)藤富 豊,上野徳美.乳がん患者への心理的援助のプログラムとその実際:サイコオンコロジーの立場から.心身医学.2003; 43(12): 847-52.(レベルⅣb)
18)Katz MR, Irish JC, Devins GM. Development and pilot testing of a psychoeducational intervention for oral cancer patients. Psychooncology. 2004; 13(9): 642-53.(レベルⅣb)
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21)Quintard B, Constant A, Lakdja F, Labeyrie-Lagardère H. Factors predicting sexual functioning in patients 3 months after surgical procedures for breast cancer: the role of the Sense of Coherence. Eur J Oncol Nurs. 2014; 18(1): 41-5.(レベルⅣb)
22)Engel J, Kerr J, Schlesinger-Raab A, Sauer H, Hölzel D. Quality of life following breast-conserving therapy or mastectomy: results of a 5-year prospective study. Breast J. 2004; 10(3): 223-31.(レベルⅣa)
23)Atkinson TM, Noce NS, Hay J, Rafferty BT, Brady MS. Illness-related distress in women with clinically localized cutaneous melanoma. Ann Surg Oncol. 2013; 20(2): 675-9.(レベルⅣb)
24)Fingeret MC, Nipomnick S, Guindani M, Baumann D, Hanasono M, Crosby M. Body image screening for cancer patients undergoing reconstructive surgery. Psychooncology. 2014; 23(8): 898-905.(レベルⅣb)
25)濱田麻美子,大路貴子,福井玲子,丹野恵一,笠松隆洋,蝦名美智子.がん化学療法により脱毛を経験した壮年期男性の思いと対処行動.神戸市看護大学紀要.2007; 11: 19-26.(レベルⅤ)
 
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