(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ49

Ⅱ.日常整容編

CQ49
化学療法に伴う爪の変形に対して,安全なカモフラージュ方法は何か
  推奨
化学療法により,爪甲に隆起,横溝,縦裂,あるいは爪甲の剝離,脱落などが生じることがある1)。爪障害による爪甲の変形に対する安全なカモフラージュとして,アクリルネイルやジェルネイルなどと称される硬化性樹脂製の爪化粧料の使用は推奨しない。ただし,簡便にネイルチップをテープで接着することは,エビデンスはないが否定しない。
  推奨グレード
D
アクリルネイルやジェルネイルなどと称される硬化性樹脂製の爪化粧料を使用することは推奨できない。
  推奨グレード
C1b
ネイルチップを両面接着テープで爪甲に接着することを否定しない。

解説

1.硬化性樹脂製の爪化粧料の使用について

審美的なネイルケアの一環として,アクリルネイルやジェルネイルと称される硬化性樹脂製の爪化粧料を用いる技法がある。アクリルネイルは,アクリルパウダーをアクリルリキッドに溶解させたミクスチャーと呼ばれる材料を爪甲に塗布し,自爪の上に義爪を形成する技法である。また,ジェルネイルは,ゲル状の合成樹脂を爪甲に塗布し,紫外線等を照射することで重合・硬化させる。いずれも爪の長さや厚みを自在に増すことができ,爪甲表面を滑らかに仕上げることができる。そして,一般的なマニキュアとは異なり,2~3週間にわたってその状態を維持できる。

しかし,アクリルネイル・ジェルネイルは,爪甲が完全に脱落している場合には施術できない。また,施術により,爪甲の菲薄化と脆弱化をきたしやすい2)~4)。その理由は,爪甲を研削して密着させることが多く,また除去時にもアセトンで義爪を溶解し研削するためである2)。さらに,アクリル樹脂によるアレルギー2)5)6)も懸念される。また,樹脂を硬化させる際に,熱を帯びることがあり,菲薄した爪では痛みを感じることもある。義爪が指背側に向かって力を受けた場合に,義爪とともに自爪も損傷してしまうこともある。そのほか,長期間接着しているうちに,義爪と爪甲の間に水分が滞留し,カビ等の感染を惹き起こすことも報告されている2)

最近では,爪甲を研削せずに樹脂を密着させると謳う製品や抗菌作用を謳う製品もみられるが,健常者,がん患者ともに使用した場合の安全性についての報告はみられない。

上記のような問題点から,化学療法による爪の変形やその予防に対し,アクリルネイル・ジェルネイルなどと称される硬化性樹脂製の爪化粧料の使用について,現時点では推奨しない。ただし,医療機関等において爪甲層状分裂症などの治療目的で硬化性樹脂を爪に用いることは本CQに該当しない。

2.ネイルチップの使用について

あらかじめ爪の形に作成したネイルチップを,専用の両面接着テープで爪甲に貼り付けることができる。この方法を用いると,化学療法で変形した爪甲の凹凸を比較的簡便に整復することができる。この技法の欠点は,テープのみで接着しているため,爪先に力が加わるとネイルチップが脱落しやすく,また手洗いなどによりテープの粘着性が低下するため,長時間装着できないことである。しかし,アクリルネイルやジェルネイルとは異なり,ネイルチップは,装着時の爪甲の研削や除去時にアセトン等の溶剤を使用する必要がない。また,毎日新しいテープで装着する必要があるため,ネイルチップは感染症の危険性も少ない。したがって,爪変形に対して両面テープで接着するネイルチップの使用を否定しない。

取り外す際には,無理にチップをはがそうとすると爪を損傷する可能性があるため,湯につけるなどしてテープをはがしやすくしてから外すことが勧められる。

なお,強力な接着力のあるテープを使用した場合も,カビ発生予防のため短期間(1~2日)の装着にとどめる。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"cancer", "gel", "remover", "care", "polish", "cosmetic makeup", "therapy", "cover makeup", "treatment", "makeup", "nail", "nails", "patient", "cosmetic camouflage", "neoplasms", "radiotherapy", "nail deformity"のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“癌”,“メイクアップ”,“爪”,“癌治療”,“ネイルケア”,“ネイルメイク”,“マニキュア”,“除光液”,“ネイル”,“腫瘍”,“化学療法”,“変形”のキーワードを用いて検索した。さらに,保有する文献を参考にした。

参考文献
1)Baran R, Fouilloux B, Robert C. Nail abnormalities in oncology practice. In: Lacouture ME, editor. Dermatologic Principles and Practice in Oncology: Conditions of the Skin, Hair, and Nails in Cancer Patients.Hoboken: Wiley-Blackwell; 2013. p.115-6.(レベルⅤ)
2)独立行政法人国民生活センター.つけ爪による危害-かぶれ,やけど,カビが生えることも-(記者説明会資料).2008. http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20081016_1.pdf(レベルⅥ)
3)Chen AF, Chimento SM, Hu S, Sanchez M, Zaiac M, Tosti A. Nail damage from gel polish manicure. J Cosmet Dermatol. 2012; 11(1): 27-9.(レベルⅥ)
4)Wu TP, Morrison BW, Tosti A. Worn down nails after acrylic nail removal. Dermatol Online J. 2015; 21(1).(レベルⅥ)
5)Constandt L, Hecke EV, Naeyaert JM, Goossens A. Screening for contact allergy to artificial nails. Contact Dermatitis. 2005; 52(2): 73-7.(レベルⅥ)
6)Teik-Jin Goon A, Bruze M, Zimerson E, Goh CL, Isaksson M. Contact allergy to acrylates/methacrylates in the acrylate and nail acrylics series in southern Sweden: simultaneous positive patch test reaction patterns and possible screening allergens. Contact Dermatitis. 2007; 57(1): 21-7.(レベルⅥ)
 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す