(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅱ.日常整容編
CQ46 |
化学療法によるまつ毛の脱毛を安全にカモフラージュする方法として,つけまつ毛・まつ毛エクステンションは有用か | |
推奨 まつ毛の脱毛のカモフラージュとして,接着剤のパッチテストを実施し問題がないことを確認し,瞼にメイクアップを施したうえで,つけまつ毛を装着することを否定しない。しかし,除去時にも物理的刺激を避けるよう,注意を要する。また,まつ毛エクステンションの装着は勧められない。 |
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推奨グレード C1b |
まつ毛の脱毛時のカモフラージュに,つけまつ毛を装着することを否定しない。 | |
推奨グレード C2 |
まつ毛の脱毛・貧毛のカモフラージュに,まつ毛エクステンションを装着することは基本的に勧められない。 |
●解説
1.つけまつ毛について
まつ毛は眼球への異物の進入をふさぐだけでなく,乾燥やまぶしさを防御する重要な機能を有しており,また美容面における魅力的容貌を描出する重要なパーツである。したがって,まつ毛の脱毛は副作用症状の苦痛度ランキングでは上位にあり1),つけまつ毛による脱毛のカモフラージュはQOL改善に大きく貢献すると考えられる。しかし,つけまつ毛はナイロンや樹脂等の台糸に人工毛をまつ毛様に接着させた製品であり,専用接着剤を用いて眼瞼縁に装着する2)ため,これまでに接触性皮膚炎3)やラテックス系の接着剤によるアナフィラキシーショック4)の報告がある。
したがって,がん患者においても,使用前にはパッチテストを行い問題のないことを確認し,使用の際は瞼にメイクアップをしたうえにつけまつげを装着するようにし,皮膚に直接接着剤が付着することを避ける。さらに皮膚から除去する際には,無理に剝がさず,角質層への障害をなるべく避けるため,リムーバー等を用いて物理的な刺激を軽減した状態で除去すると良い。使用頻度を少なくして,眼瞼の皮膚を保護することも必要である。
2.まつ毛エクステンションについて
まつ毛エクステンションは,化学繊維等でできた人工毛を自分のまつ毛に接着し,まつ毛の長さや量を増す美容技法5)であるが,無毛の状態では施術できない。また,脱毛が進行している状態で人工毛を装着すると,重みで自まつ毛とともに脱落する可能性があるので行わないよう勧められる。
なお,治療が終了し,再発毛後一定期間をおいて人工毛を装着可能な太さ・長さに自まつ毛が成長した場合に,増量目的で資格を有する美容師により施術を受けることは否定しない。ただし,健常者が使用した場合においても接着剤による接触性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎,眼内炎の報告5)~10)があり,厚生労働省からも危害情報が発表され注意喚起11)がなされている。また,再発毛したまつ毛が脆弱な場合,まつ毛エクステンションを装着すると,その重みを支えきれず,人工毛が角膜に触れ,潰瘍を惹起することも懸念される。装着時や装着後に異常が生じた際にはすぐに皮膚科または眼科の受診をするよう医療者は伝えるべきである。
また,まつ毛の貧毛のカモフラージュにマスカラ(まつ毛化粧料)を併用することがあるが,これらの化粧品には酸化鉄等を含むものがあり,頭部MRI検査の際にアーチファクトを起こすことが報告12)13)されているため,検査の前には使用しないよう注意を喚起する。
検索式・参考にした二次資料
PubMedで"Antineoplastic Agent", "Cancer patient", "Eyelash"等のキーワードを用い,医中誌Webで“抗腫瘍剤”,“癌患者”,“まつ毛”,“エクステ”等のキーワードを用いて検索したが,本CQに合致する文献は得られなかった。保有する文献を参考にした。
参考文献 | |
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1) | Nozawa K, Shimizu C, Kakimoto M, et al. Quantitative assessment of appearance changes and related distress in cancer patients. Psychooncology. 2013; 22(9): 2140-7.(レベルⅣb) |
2) | 慶田朋子.メイクアップの目的と手順.皮膚臨床.2014; 56(11): 1598-609.(レベルⅥ) |
3) | 関東裕美.まつ毛ケア.皮膚臨床.2014; 56(11): 1616-7.(レベルⅥ) |
4) | 武林亮子,浅野祐介,狩野葉子,塩原哲夫.つけまつ毛用接着剤によるアナフィラキシーショックの1例.日皮会誌.2006; 116(6): 970.(レベルⅥ) |
5) | 天野由紀,西脇祐司.まつ毛エクステンションの経験者割合とその健康障害に関する全国調査.日衛誌.2013; 68(3); 168-74.(レベルⅥ) |
6) | Amano Y, Sugimoto Y, Sugita M. Ocular disorders due to eyelash extensions. Cornea. 2012; 31(2): 121-5.(レベルⅥ) |
7) | 川井麻友,田宮紫穂,塗木裕子,加藤正幸,赤坂江美子,生駒憲広.睫毛エクステンションによる接触皮膚炎の1例.J Environ Dermatol Cutan Allergol. 2013; 7(4): 240-5.(レベルⅥ) |
8) | 岸田桃子,郡司久人,岩嵜 茜,他.睫毛エクステンションを契機に発症した眼内炎の1例.臨眼.2014; 68(4): 533-6.(レベルⅥ) |
9) | 高橋和博,宇津見義一,藤堂勝巳,魚谷 純,福下公子,高野 繁.平成22年度まつ毛エクステンション眼障害調査の集計結果報告.日の眼科.2011; 82(8): 1131-5.(レベルⅥ) |
10) | 渡部裕子.睫毛エクステンション用接着剤によるアレルギー性接触皮膚炎の1例.J Environ Dermatol Cutan Allergol.2015; 9(1): 41-5.(レベルⅥ) |
11) | 厚生労働省.まつ毛エクステンションの危害情報について. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei30/(レベルⅥ) |
12) | 平川英滋,飯高晃治,岸 孝幸,春原信雄,佐藤 清.MRI検査における化粧品の影響.日放線技会誌.1995; 51(8): 978.(レベルⅥ) |
13) | 土井 司,山谷裕哉,上山 毅,他.MR装置の安全管理に関する実態調査の報告:思った以上に事故は起こっている.日放線技会誌.2011; 67(8): 895-904.(レベルⅣb) |