(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ42

Ⅱ.日常整容編

CQ42
化学療法中の患者に対して,安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か
  推奨
化学療法により脱毛が進行中の患者,化学療法終了後再発毛し始めた患者が洗髪する際には,まず髪と地肌をぬるま湯で十分に濡らし,治療前から使用していたシャンプーを継続することを第1選択とする。低刺激性シャンプーの使用は妨げない。
  推奨グレード
C1b
低刺激シャンプーを使うことを否定しない。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,洗髪する際には,髪と地肌をぬるま湯で十分に濡らした後,治療前から使っていたシャンプーを使用することは勧められる。

解説

1.低刺激性シャンプーについて

化学療法による脱毛中の患者に対する,安全な洗髪方法に関するエビデンスはない。しかし,市販されているシャンプーの使用による,がん患者特有の重篤な副作用の報告もない。したがって,特定のシャンプーを推奨または否定する根拠はない。

シャンプーは,頭髪および頭皮の汚れを落とし,ふけ,かゆみを抑え,頭髪,頭皮を清潔に保つための洗浄用の化粧品1)2)である。一般に,洗髪の際には髪が絡まないように,泡立ちがよく,清潔に保つ洗浄力はあるが皮脂を取りすぎず,髪や頭皮に負担が少なく簡単にすすげ,仕上がり感触が良好であるシャンプーが求められ,さまざまな製品が市販されている。

シャンプーの1つの範疇に低刺激(ノンアルコール,弱酸性,無香料,無着色,ノンケミカル)といわれるシャンプーがあるが,低刺激の明確な定義は存在しない。従来のものより刺激となる成分の含有量が少ないだけであり,低刺激性を表示したシャンプーを積極的に使用する必要はない。また,シリコーン(シリコンの加工品を指す)を配合しないことを表示したノンシリコンシャンプーは,髪が絡みやすいときは使用を控えたほうがよい。シリコーンは,安定性・安全性に問題ないことが知られており3),シリコーンを配合したシャンプーで洗浄しても,毛髪にはごくわずかしかシリコーンは付着せず4),ブタの皮膚を用いた実験でも,毛穴に蓄積しづらいことが示唆されている5)。したがって,シリコーンの安全性に問題はなく,しかも,毛髪間の摩擦抵抗を小さくし,絡みのない滑らかな手触りに仕上げる効果がある。

通常,シャンプーは,液状のものが用いられている。シャンプーは,主成分の界面活性剤である増泡剤のほか,保湿剤,キレート剤,香料,防腐剤などのさまざまな材質,かつ,さまざまな配合比によってつくられている。このなかの主成分である,界面活性剤自体の刺激性が問題となることがある。例えば,界面活性剤として製剤化が容易なアニオン性のラウレス硫酸塩が多く用いられているものの,これは単独では刺激性がある。しかし,現在では,両性の界面活性剤を混合することによって刺激が緩和されている6)7)。反面,比較的刺激性が低いとされるアミノ酸系やエーテルカルボン酸系の界面活性剤も他の成分と混合することで,刺激性が強まっている可能性がある。したがって,単に含まれている界面活性剤の種類によってシャンプーを選択することは困難である。そのため,以前に使用していたヘアケア製品をそのまま使用したほうが,リスクを小さく抑えられると考えられる。

また,石鹸もシャンプーの一つとして使用されることがあるが,洗髪中に水(温水)や頭髪に含まれている金属イオンと結合して析出物を生じ,すすぎ感が悪くなる8)。さらに,石鹸成分は,アルカリ性のため脱脂力が強く,十分に落とすことができない脂肪酸などの残留物が髪や頭皮へ付着することもあるため,用いないほうがよい。

なお,ふけの発生やそれに伴うかゆみ,炎症を防止するシャンプー(薬用シャンプー)がある。薬用シャンプーには,ふけ原因菌の増殖を抑える抗真菌作用のほかに,皮脂の分泌を抑制する作用,皮脂の酸化を抑える抗酸化作用,多量に生成した角質を減少させるための角層剝離・溶解作用,かゆみや炎症を防ぐ鎮痒作用,抗炎症作用などを有するさまざまな成分が含まれる9)~11)。抗真菌作用成分だけでなく,その他の成分でも接触皮膚炎を惹起することがある12)~19)。したがって,頭皮に異常がない場合は使用してもよいが,頭皮に異常が発生した場合には使用を中止し皮膚科医に相談することが望ましい。

2.洗髪方法について

洗髪手順としては,まず,髪や頭皮をぬるま湯で十分に濡らすことから始める。これにより,シャンプー原液が頭皮に直接に接触することを防ぐことができる。また,手に取ったシャンプー液を髪に塗布後,手指でよく泡立て,泡を細かくたくさん立てることで,シャンプーの主成分である界面活性剤の頭皮への浸透量を低減でき20),界面活性剤による頭皮角層中のセラミドなどの保湿成分の溶出を抑制することができる。さらに,爪を立てず,手指の腹を使って頭皮をやさしくマッサージするように洗う。これらを手早く行った後,十分なすすぎを行う。すすぎ時に髪がきしみ,絡みやすい場合には,ヘアコンディショナー(ヘアリンスを含む)をできるだけ頭皮にはつけないように,頭髪の毛幹・毛先だけに塗布し,よくすすぐ。リンスインシャンプーを使用する場合には,地肌をよく洗い流す。洗髪後はタオルドライして,ドライヤー温風で乾かす。なお,毛髪を保護している18-MEA(18-メチルエイコサン酸)の融点である55.6℃以上の熱を加えると,毛髪は徐々に損傷する21)~23)。そこで,熱による損傷を避けるため,ドライヤーをかける際には,毛髪の同じ部位に温風を10秒以上当て続けないようにし,頭部全体を数分程度で終了するように注意する。また,これら一連の洗髪行動は汚れ度合いに応じて行う。

なお,脱毛時における頭皮は,これまで通りのシャンプーを量少なめに先に泡立てて用いるか,ボディソープ,洗顔料など身体を洗浄するもので洗うとよい。

検索式・参考にした二次資料

PubMedおよびJ-STAGEにて,"cancer", "hair care", "hair washing", "therapy", "hair", "scalp", "treatment", "patient", "shampoo", "conditioner", "tonic"のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“癌”,“洗髪”,“頭髪”,“癌治療”,“頭皮”,“髪”,“毛”,“癌患者”,“シャンプー”,“ヘアコンディショナー”,“育毛剤”のキーワードを用いて検索した。さらに保有する文献を参考にした。

参考文献
1)辻野義雄.第13章 頭髪化粧品.宮澤三郎編著.コスメティックサイエンス-化粧品の世界を知る-.東京:共立出版;2014.p.184-6.(レベルⅥ)
2)柿澤恭史.ヘアケア製品.皮膚臨床.2014; 56(11); 1658-70.(レベルⅥ)
3)Nair B; Cosmetic Ingredients Review Expert Panel. Final report on the safety assessment of stearoxy dimethicone, dimethicone, methicone, amino bispropyl dimethicone, aminopropyl dimethicone, amodimethicone, amodimethicone hydroxystearate, behenoxy dimethicone, C24-28 alkyl methicone, C30-45 alkyl methicone, C30-45 alkyl dimethicone, cetearyl methicone, cetyl dimethicone, dimethoxysilyl ethylenediaminopropyl dimethicone, hexyl methicone, hydroxypropyldimethicone, stearamidopropyl dimethicone, stearyl dimethicone, stearyl methicone, and vinyldimethicone. Int J Toxicol. 2003; 22 Suppl 2: 11-35.(レベルⅥ)
4)辻野義雄,上門潤一郎,西垣祥子.シャンプー製剤における毛髪表面の滑り改善技術.トライポロジスト.2014; 59(8): 477-83.(レベルⅥ)
5)杉林堅次,藤堂浩明,板見智.シリコーンは毛穴詰まりの原因となるかを科学的に検証する.マルセル.2013; 237(11): 34-7.(レベルⅥ)
6)Gabbianelli A, Hillermeier R, Tate M. Prendergast M. Evaluation the Mildness/Irritation Potential of Surfactants in Personal Care Products. J Cosmet Sci. 1998; 49(3): 194-5.(レベルⅥ)
7)Schoenberg T. Formullieren mit Betain etain Amphotensiden. Paruem Kosmete. 1988; 79(4): 14-9.(レベルⅥ)
8)日光ケミカルズ株式会社,他編.新 化粧品ハンドブック.東京:日光ケミカルズ;2006.p.174-8.(レベルⅥ)
9)独立行政法人製品評価技術基盤機構.身の回りの製品に含まれる化学物質>製品情報(化粧品)>(3)化粧品の構成成分>17-6.ふけ・かゆみ用剤 http://www.nite.go.jp/chem/shiryo/product/cosmetics/cosmetics3.html(レベルⅥ)
10)いわゆる薬用化粧品中の有効成分リストについて.薬食審査発第1225001号,2008.12.25 http://www.pmda.go.jp/files/000160692.pdf(レベルⅥ)
11)Nielsen NH, Menné T. Allergic contact dermatitis caused by zinc pyrithione associated with pustular psoriasis. Am J Contact Dermat. 1997; 8(3): 170-1.(レベルⅥ)
12)Jo JH, Jang HS, Ko HC, et al. Pustular psoriasis and the Kobner phenomenon caused by allergic contact dermatitis from zinc pyrithione-containing shampoo. Contact Dermatitis. 2005; 52(3): 142-4.(レベルⅥ)
13)Rademaker M, Barker S. Contact dermatitis to a canine anti-dandruff shampoo. Australas J Dermatol. 2007; 48(1): 62-3.(レベルⅥ)
14)Pereira F, Fernandes C, Dias M, Lacerda MH. Allergic contact dermatitis from zinc pyrithione. Contact Dermatitis. 1995; 33(2): 131.(レベルⅥ)
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17)Cabrita SF, Silva R, Correia MP. Allergic contact dermatitis due to glycyrrhizic acid as an ingredient of a hair restorer. Contact Dermatitis. 2003; 49(1): 46.(レベルⅥ)
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19)日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会.接触皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌.2009; 119(9): 1757-93.(レベルⅥ)
20)Sonoda J, Sakai T, Inoue Y, Inomata Y. Skin Penetration of Fatty Acids from Soap Surfactants in Cleansers Dependent on Foam Bubble Size. J Surfact Deterg. 2014; 17: 59-65.(レベルⅥ)
21)武村政春.たんぱく質入門-どう作られ,どうはたらくのか.東京:講談社;2011.p.34-48.(レベルⅥ)
22)滝沢俊治.熱処理によって生じる生体物質-水系の多重準安定状態.熱測定.2003; 30(4): 196-204.(レベルⅥ)
23)Swift JA. Human hair cuticle'Biologically conspired to the owner's advantage. J Cosmet Sci. 1999; 50: 23-47.(レベルⅥ)
 
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