(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ40

Ⅱ.日常整容編

CQ40
手術瘢痕をカモフラージュする方法としてテーピングは有用か
  推奨グレード
C1a
手術瘢痕にテーピングを行うことが安全なカモフラージュとなるということについては,高いレベルのエビデンスはない。しかし,テーピングは,手術瘢痕に対して広く行われており,瘢痕の醜形化の予防を目的として使用することは勧められる。

解説

一般的に,手術創の抜糸後におけるテーピングは,瘢痕の醜形化を予防するために行うものである。抜糸直後から3カ月間テーピングを行い,創面にかかる張力を除去することにより,瘢痕の肥厚化,幅の拡大化を予防するのに有効であるとの報告1)があり,対照群では41%に肥厚性瘢痕がみられたが,テープ貼布群では1例も肥厚性瘢痕の出現はみられなかった。瘢痕の実践的な取り扱いに対する海外のガイドラインにおいても,予防方法の一つとしてテーピングが挙げられている2)。また,日本のケロイド・肥厚性瘢痕診療ガイドラインにおいて,テーピングは,瘢痕の肥厚化,幅の拡大化に対して予防効果があり,国内外で標準の手技とされているものの,さらに質の高い研究が求められるとしてグレードC1に分類されている3)

さらに,瘢痕への紫外線曝露は,色素沈着を増悪させるとの報告がある4)。テーピングの紫外線防御に関するエビデンスはないが,手術創をテープで被覆することによって遮光することは可能である。

これらエビデンスはがん手術後の瘢痕が対象ではないが,創面にかかる張力が瘢痕の醜形化をもたらす主要因なのでがん患者にも同様の予防効果は期待できるものと考えられる。従来のサージカルテープによるテーピングの副作用としては,テープの接着剤による接触性皮膚炎がある。また,頻度は少なく重篤ではないものの,皮膚剝離の危険性5)もあることは認識すべきである。特に,化学療法で皮膚障害を起こす可能性のある患者にテーピング行う場合には,注意が必要である。

手術瘢痕にテーピングが安全なカモフラージュとして有効であるとのエビデンスはないが,テープの色調がスキントーンのサージカルテープは,瘢痕の色をカモフラージュすることを可能とし,安価でその使用方法も簡便である。また,瘢痕の肥厚化,拡大化,色素沈着の予防効果も期待できるため,一つの方法として勧められる。

近年では,接着剤は付いていないが,粘着性を有するシリコンのゲル状シートがある。がん患者に対する使用の報告は,埋め込み型静脈ポートを抜去した後の小児患者の胸部瘢痕に対してシリコンゲルシートを用いた小規模なランダム化比較試験があるが,瘢痕の幅の拡張は若干抑制されるものの,瘢痕の肥厚化には抑制がみられなかったとされている6)。しかし,シリコンゲルシートそのものは,瘢痕の肥厚化,拡大化の予防,形成された肥厚性瘢痕やケロイドに対する治療法の一つとして一般的に用いられており2)3),皮膚への刺激も抑制されている。シートの貼付により瘢痕は隠せるが,透明で厚みがあるためカモフラージュとしての役割を果たすかどうかは疑問が残る。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"Scar", "paper tape", "guideline", "pigmentation", "UV", "adhesive tape", "dermatitis"のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“瘢痕”,“テープ”,“テーピング”,“シリコン”のキーワードを用いて検索した。さらに,形成外科診療ガイドラインを参考にした。

参考文献
1)Atkinson JA, McKenna KT, Barnett AG, McGrath DJ, Rudd M. A randomized, controlled trial to determine the efficacy of paper tape in preventing hypertrophic scar formation in surgical incisions that traverse Langer's skin tension lines. Plast Reconstr Surg. 2005; 116(6): 1648-56; discussion 1657-8.(レベルⅥ)
2)Monstrey S, Middelkoop E, Vranckx JJ, et al. Updated scar management practical guidelines: non-invasive and invasive measures. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2014; 67(8): 1017-25.(レベルⅥ)
3)日本形成外科学会,他編.形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド.東京:金原出版;2015.p.126-69.(レベルⅥ)
4)Due E, Rossen K, Sorensen LT, Kliem A, Karlsmark T, Haedersdal M. Effect of UV irradiation on cutaneous cicatrices: a randomized, controlled trial with clinical, skin reflectance, histological, immunohistochemical and biochemical evaluations. Acta Derm Venereol. 2007; 87(1): 27-32.(レベルⅥ)
5)Konya C, Sanada H, Sugama J, et al. Skin injuries caused by medical adhesive tape in older people and associated factors. J Clin Nurs. 2010; 19(9-10): 1236-42.(レベルⅥ)
6)Braam KI, Kooijmans EC, van Dulmen-den Broeder E, et al. No efficacy for silicone gel sheeting in prevention of abnormal scar formation in children with cancer: a randomized controlled trial. Plast Reconstr Surg. 2015; 135(4): 1086-94.(レベルⅡ)
 
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