(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ34

Ⅱ.日常整容編

CQ34
化学療法による皮膚乾燥に対して,安全な日常的スキンケア方法は何か
  推奨
日常的に用いるスキンケア製品の「無添加」や「敏感肌用」表示には,明確な定義はなく,特殊なスキンケア方法にこだわる必要はない。治療前より使用していたスキンケア製品を使用する際には,皮膚を強く擦過するなどの刺激を避けるようにする。皮膚に問題が生じた場合には,直ちに皮膚科医への受診が勧められる。
  推奨グレード
C1b
弱酸性の洗浄料を使用することを否定しない。
  推奨グレード
C2
スクラブ入りの洗浄料を使用することは基本的に勧められない。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,洗浄前に水またはぬるま湯で身体を濡らした後,軽く泡立てた洗浄料で洗うことは勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,目の細かい柔らかいタオルなどを使用して洗浄し,十分にすすぎを行うことは勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,入浴時には保湿タイプの入浴剤を用いるよう勧められる。
  推奨グレード
C1b
「無添加」「敏感肌用」の表示があるスキンケア製品を用いて保湿を行うことを否定しない。

解説

1.弱酸性の洗浄料の使用について(CQ35参照)

化学療法中の患者皮膚pHに関するエビデンスはない。化学療法による皮膚乾燥に対する洗浄料について,弱酸性洗浄料の使用を否定しないが,弱酸性にこだわる必然性はない。軟膏などの外用薬を使用している場合には,弱酸性の洗浄料では洗浄力が弱いので,洗浄力のより強い洗浄料(弱アルカリ性を含む)で十分に落とすことが勧められる。ただし,皮膚に吸着しやすく,刺激を起す可能性のあるラウリン酸1)2)を含まない洗浄料が勧められる。

2.スクラブ入りの洗浄料の使用について(CQ35参照)

皮膚に対する機械的刺激になり得るため,スクラブ剤入りの洗浄料を使うことは勧められない。

3.洗浄料の泡立てについて(CQ35参照)

洗浄料の使用方法に記載されている指定量をとり,適量の水またはぬるま湯を加えて軽く泡立てて洗浄する。洗浄成分に含まれる界面活性剤の皮膚への吸着を低減させるため,最初に肌を水またはぬるま湯で濡らすとよい。

4.洗浄方法について

洗顔には洗浄料を軽く泡立てて用いる。泡立てにくい場合は,泡立てネット等を使ってもよい。身体洗浄には,泡の立ちやすいタオルを使用するとよい。ただし,摩擦の大きい硬いナイロン製タオルで強くこすり洗いをすると,皮膚を損傷し炎症を起こすことがあるので3),身体の凹凸に合わせて適度な力をかけて手早く洗う。

軟膏などの外用薬を塗布している場合には,洗いにくいところを意識して,丁寧に皮膚に残っている外用薬となじませる。一度洗って外用薬が落ちていないと感じる場合には,二度洗いをする。すすぎが少ないと皮膚に残留する界面活性剤(洗浄成分)の量が多くなるため4),すすぎを十分に行う。すすぎにおいて,水が冷たいと洗浄料が流しにくくなり,反面,熱いお湯では脱脂しすぎて皮膚が乾燥する場合があるので,ぬるま湯を使う。洗浄後タオル等で水分を拭き取る場合において,発赤や皮疹があるときは,皮膚を強く摩擦しないように特に注意して,柔らかいタオルを軽く押し当てて水気をふき取るようにする。

5.入浴剤について

皮膚の乾燥を和らげ,身体の冷えによる体調不良を軽減する目的で,多くの入浴剤が市販されている。入浴剤はその目的に応じ,保湿成分や油分を配合した液体の「保湿タイプ」と炭酸ガスやミネラル成分による血行促進や疲労回復を訴求した粉末・固形の「血行促進タイプ」の2種に大別される。

保湿タイプの入浴剤については,皮膚水分量を増加させ,老人性乾皮症の症状改善やアトピー性皮膚炎患者の皮膚バリア機能の改善の報告がある5)。これに対して,血行促進タイプは,発生する炭酸ガス濃度に応じて皮膚表面温度が高くなり,その温度が減少しにくいことが明らかにされている6)7)。しかし,皮膚温の上昇が皮膚乾燥の改善に関与している,というエビデンスはない。

以上のことから,化学療法による皮膚乾燥に対する入浴剤についての十分なエビデンスはないが,入浴時には保湿タイプの入浴剤の使用を勧める。とりわけ,軽度の皮膚乾燥の場合で外用薬が独居等の生活環境により物理的に塗りにくい患者にとって,保湿目的の入浴剤は有用である。なお,入浴時には,湯温度は抑えて,浴槽に浸かる時間も短時間とし,身体に負担がかからないように注意する。さらに,イオウを配合した入浴剤は避ける。万が一,入浴剤を用いて発疹やかぶれなど皮膚の問題が発生した場合は,直ちにその使用を中止し,皮膚科医に相談することが勧められる。

6.「無添加」「敏感肌用」のスキンケア製品について(CQ35参照)

市販のスキンケア製品を用いる場合,「無添加」「敏感肌用」表示には明確な定義がなく各製造販売業者の裁量で決定されているに過ぎないので特にこだわる必要はない。以前に使用していたスキンケア製品をそのまま使用してもよい。なお,以前使用していた製品によって,発疹やかぶれなど皮膚の問題が発生した場合には,直ちにその使用を中止し,皮膚科医に相談することが勧められる。

なお,分子標的治療を含む化学療法により生じた乾燥肌に対する,スキンケア製品の使用に関しては,ランダム化比較試験などの十分なエビデンスはないが,ヘパリン類似物質製剤8),15%はちみつ配合クリーム9),疑似(合成)セラミド配合クリーム10)など保湿薬の有効性を示す報告がある。また,洗浄剤とエモリエント剤を3週間使用することで,皮膚の水分量と油分の増加と水分蒸散が抑えられ,乾燥が有意に改善した,という報告もある11)

しかし,近年,がん患者866名を対象として行われたアンケート調査では,入念に保湿を行った群のほうが,皮疹,傷み,かゆみの出現の割合が多いことが示された12)。がん患者の皮膚乾燥に対する保湿のためのスキンケア製品の選択と使用方法については,さらなる検討が必要である。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"neoplasms", "chemotherapy", "molecular target drug", "EGFR inhibitor", "ALK inhibitor", "BCR-ABL inhibitor", "multikinase inhibitor", "Skin Care", "soaps", "facial", "cleansing", "cosmetics", "baths", "body washing", "body wash"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“癌”,“化学療法”,“スキンケア”,“ボディソープ”,“洗顔料”,“石けん”,“水素イオン濃度”,“弱酸性”等のキーワードを用いて検索した。さらに,保有する文献を参考にした。

参考文献
1)橋本文章,春山道子,山下登喜雄,磯 敏明.界面活性剤の皮膚への吸着性と洗顔料による選択洗浄性. 粧技誌.1989; 23(2): 126-33.(レベルⅥ)
2)井浪義博,安東嗣修,佐々木淳,倉石 泰.界面活性剤によって誘発されるかゆみとケラチノサイトーヒスタミン系の関与.薬誌.2012; 132(11): 1225-30.(レベルⅥ)
3)池谷田鶴子,小川秀興.人工的黒皮症―ナイロンタオル使用等による特異的色素沈着症.臨皮.1986; 40(4): 289-95.(レベルⅥ)
4)Sonoda J, Sakai T, Inoue Y, Inomata Y. Skin Penetration of Fatty Acids from Soap Surfactants in Cleansers Dependent on Foam Bubble Size. J Surfact Deterg. 2014; 17: 59-65.(レベルⅥ)
5)NB研究班.アトピー性皮膚炎患者を対象とした保湿性浴用剤の効果判定.西日皮.1993; 55(1): 152-4.(レベルⅥ)
6)河野弘美.入浴剤のいろいろ.FCG 新LABO.2008; 2: 4-5.(レベルⅥ)
7)エフシージー総合研究所 美容・健康科学研究室.2012年度入浴剤の調査.フジテレビ商品研究所.2013. https://www.fcg-r.co.jp/lab/beauty/report/130206.html(レベルⅥ)
8)中原剛士,師井洋一,高山浩一,中西洋一,古江増隆.上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬における皮膚障害に関する皮膚生理学的変化と保湿剤の有用性の検討.西日皮.2014; 76(3): 242-7.(レベルⅡ)
9)Yamaguchi K, Kono T, Satomi M, Murata K, He S, Li Z. Effects of Moisturizing Cream Containing Honey on Epidermal Growth Factor Receptor Inhibitor-Induced Dermatologic Toxicities in Patients with Advanced Colorectal Cancer.応用薬理.2012; 83(3-4): 17-22.(レベルⅢ)
10)上川晴己,中村将人,五十嵐和枝,他.進行再発大腸癌に対するcetuximab療法における皮膚障害に対するセラミドクリームの有用性および安全性の検討,相澤病院医学雑誌.2013; 11: 21-7.(レベルⅤ)
11)Fluhr JW, Miteva M, Primavera G, Ziemer M, Elsner P, Berardesca E. Functional assessment of a skin care system in patients on chemotherapy. Skin Pharmacol Physiol. 2007; 20(5): 253-9.(レベルⅢ)
12)Byun HJ, Lee HJ, Yang JI, et al. Daily skin care habits and the risk of skin eruptions and symptoms in cancer patients. Ann Oncol. 2012; 23(8): 1992-8.(レベルⅢ)
 
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