(旧版）がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

●背景・目的

これまで放射線療法中は皮膚への刺激を避けるために照射部位に対する石鹸の使用はもちろん照射部位の洗浄すら避けるように指導されてきた。このことは患者にも大きなストレスを与えている。そこで照射部位の皮膚洗浄が急性放射線皮膚炎に及ぼす影響を検討した。

●解説

照射部位の皮膚洗浄が急性放射線皮膚炎に及ぼす影響を検討したランダム化比較試験は，乳房と頭部に関するものが，これまでに3件報告されている。ケベックでは，乳がん患者99人（ほとんどが部分切除術後）において，45～50Gyの照射期間中の照射部位に対する石鹸洗浄を許可する群と禁止する群に分け，試験が行われた^1）。最強皮膚反応をみたところ，Grade 0：1：2：3：4の頻度は，洗浄禁止群では2％：41％：57％：0％：0％，石鹸洗浄群ではそれぞれ0％：64％：34％：2％：0％であった（p=0.04）。特に湿性落屑は洗浄禁止群で33％にみられたのに対して，石鹸洗浄群ではわずか14％であった（p=0.03）。照射部位の疼痛，瘙痒感，灼熱感も洗浄禁止群で高かったが，有意差はなかった。ロジスティック回帰による多変量解析では，体重，化学療法同時併用，過線量域の存在は急性皮膚反応と有意に相関していたが，洗浄との相関は傾向がみられた（p=0.05）のみであった。

英国でも，乳がん患者99人において，乳房または胸壁に対する照射期間中の皮膚洗浄を，①禁止②洗浄のみ③石鹸洗浄の3群に分け比較した試験が行われた^2）。照射線量を45～47Gyとし，46人で皮膚線量を増加させるためにボーラスを用いた。また，一部で9Gyまでのブースト線量を追加した。瘙痒感は4～6週で最も強くなり，ボーラスの有無にかかわらず，洗浄群で有意に軽いか同じであり，洗浄群でも石鹸洗浄群でより軽い傾向があった。疼痛は31％に出現したが，3群間には差がなかった。紅斑スコアは4～6週で最高になったが，洗浄群では両群に差はなく，時期によっては洗浄群は洗浄禁止群に比べ紅斑が有意に軽かった。落屑スコアは少し遅れて6～8週でピークに達し，洗浄群は洗浄禁止群に比して有意に軽度であった。8週の時点で洗浄群では落屑は改善傾向であったのに対して，洗浄禁止群ではまだ増悪する傾向がみられた。ここでも洗浄のみと石鹸洗浄との差はわずかであった。ボーラスを用いた場合は皮膚炎がより強くなった。

同じく英国，ロイヤルマースデン病院では頭蓋照射時の頭皮洗浄について，109人を10週間の洗浄群と非洗浄群に分け，比較が行われた^3）。ただし，洗浄群でも洗髪は制限され，通常の頻度より少なくするように指導された。線量は20Gy/5回から60Gy/33回までさまざまであった。紅斑，落屑，疼痛および瘙痒感について，急性期の自他覚症状が比較されたが，両群間で差はなかった。

以上より，照射期間中の皮膚洗浄については，それを禁止した場合より放射線皮膚炎が軽快する報告はあっても増悪するものはない。そこで照射部位に対しては，できるだけ手を使って強い摩擦を避け，温水や低刺激性石鹸を用いた皮膚洗浄が勧められる。照射のための皮膚マークがみえづらくなった場合は早めに医療スタッフに伝えるように指導する。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて，"radiotherapy", "radiodermatitis", "hygiene", "washing", "soaps"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて，“放射線皮膚炎”，“スキンケア”，“洗浄”，“石けん”等のキーワードを用いて検索した。