(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅰ.治療編
放射線治療
CQ30 |
頭頸部領域の放射線皮膚炎(70Gy相当)に対する保湿薬の外用は有用か | |
推奨グレード C1a |
頭頸部領域の放射線皮膚炎に対する保湿薬の外用は,高いエビデンスはないが,他の領域でのエビデンスとこの領域での第Ⅱ相臨床試験の結果から,行うよう勧められる。 |
●背景・目的
放射線皮膚炎はどの領域でも必発であるが,なかでも頭頸部領域は投与線量が大きく,他の領域とは一線を画して議論する必要がある。
●解説
放射線治療に起因するものに限らず,損傷した皮膚組織は湿潤環境において創傷治癒能力が高まることが50年以上前の研究からも示されている1)。この研究は時代背景から比較試験ではないが,放射線治療によって損傷した皮膚組織を保湿することが適切である論理的根拠になり得る。
他の分野では,丁寧な洗浄と保湿が放射線皮膚炎の管理に有用であることを示す臨床試験が複数ある2)3)。一方,頭頸部領域では放射線皮膚炎に対する支持療法の前向き試験はほとんど行われておらず,わが国では第II相臨床試験が1件報告されているのみである4)。この試験は,Grade 0-1の放射線皮膚炎では経過観察もしくは保湿のみを行い,Grade 2に進行した場合には,ガーゼなどの被覆材を用いて頸部の保湿環境を整える看護処置を継続する,という一連の処置が,放射線皮膚炎の重篤化を軽減するかどうかを評価したものである。頭頸部領域で(化学)放射線療法を受ける113例の患者を対象に行ったところ,Grade 4の放射線皮膚炎は発生せず,保湿を含めた一連の処置が有効であることを示した。また,被覆材を工夫することで放射線皮膚炎の罹患期間が短縮したという後ろ向きの報告もある5)。
よって,手技の詳細は規定できないが,頭頸部領域の放射線皮膚炎に対して保湿薬を用いた保湿環境の維持は有用であると判断する。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"radiotherapy", "radiodermatitis", "emollients", "hyaluronic acid", "gels"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“頭頸部”,“放射線皮膚炎”,“スキンケア”,“保湿”,“被覆”等のキーワードを用いて検索した。
参考文献 | |
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1) | Winter GD. Formation of the scab and the rate of epithelization of superficial wounds in the skin of the young domestic pig. Nature. 1962; 193: 293-4.(レベルⅥ) |
2) | Campbell IR, Illingworth MH. Can patients wash during radiotherapy to the breast or chest wall? A randomized controlled trial. Clin Oncol (R Coll Radiol). 1992; 4(2): 78-82.(レベルⅡ) |
3) | McQuestion M. Evidence-based skin care management in radiation therapy. Semin Oncol Nurs. 2006; 22(3): 163-74.(レベルⅤ) |
4) | Zenda S, Ishi S, Kawashima M, et al. A Dermatitis Control Program (DeCoP) for head and neck cancer patients receiving radiotherapy: a prospective phaseⅡ study. Int J Clin Oncol. 2013; 18(2): 350-5.(レベルⅡ) |
5) | Wong RK, Bensadoun RJ, Boers-Doets CB, et al. Clinical practice guidelines for the prevention and treatment of acute and late radiation reactions from the MASCC Skin Toxicity Study Group. Support Care Cancer. 2013; 21(10): 2933-48.(レベルⅡ) |