(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 放射線治療 CQ29

Ⅰ.治療編

放射線治療

CQ29
頭頸部領域以外の放射線治療による皮膚有害反応に保湿薬の外用は有用か
  推奨グレード
B
頭頸部領域以外の放射線療法中の保湿薬の外用は,放射線皮膚反応の軽減に一定程度の効果が期待できるため,行うよう勧められる。

背景・目的

皮膚に近い部位に照射の標的を設定する乳がんや頭頸部腫瘍では,皮膚にも標的に近い高い線量が照射されるため,皮膚反応が高度になることがある。皮膚反応は患者自らが自覚できるため,放射線の皮膚有害反応に対する患者の意識は高い。特に,女性では日頃から皮膚ケアに気を配っているため,サブクリニカルな状態にもかかわらず,自ら工夫していることがある。皮膚ケアで最も多用されている保湿薬が,放射線による有害反応を予防・治療する効果があるかは興味のあるところである。

解説

乳がんの乳房照射あるいは胸壁照射では,一般的に50Gy±ブースト10Gy程度の分割照射が行われる。この程度の線量の場合,皮膚反応は前腋窩部や乳房下縁に軽度の乾性落屑かわずかな湿性落屑で,全体は皮膚紅斑のCTCAEv4のGrade 2の反応を示す。

この程度の線量では,角質層の細胞間接合の脆弱化により早期落屑し,表皮角質層が菲薄化するため,不感蒸泄が増加し,角質水分量は低下して皮膚の乾燥が生じる。

また,皮膚の毛細血管が拡張して血流が増加するため皮膚温が上昇し,皮膚紅斑を認めるとともに,知覚神経の感受性は高くなり瘙痒感が高まる。

皮脂の代用として皮膚乾燥に用いられる外用薬には,ワセリンと親水軟膏がある。ワセリン自体に保湿作用はないが,角質層上に被膜をつくり,皮膚からの水分の蒸散をブロックするので角質層水分が保たれる。ただし,べとつきがあるので,使用を躊躇する患者もいる。

一方,親水性の軟膏には尿素製剤やムコ多糖であるヘパリン類似物質があり,積極的に吸湿して角質層に水分を付与する作用がある。これらの保湿薬に放射線皮膚炎の予防効果があるか,あるいは発症した皮膚炎の治療効果があるかについての臨床試験はわが国にはほとんどない。

放射線治療患者152人をヒアルロン酸クリーム群とプラセボ群に分けて照射(頭頸部,乳房,骨盤)開始から使用した試験では,ヒアルロン酸のほうがプラセボより放射線皮膚炎の発症を抑え(3~7週でp<0.01,8~10週でp<0.05),かつ回復を早めていたことから,放射線皮膚炎の予防効果と治療効果があることを示唆している1)。また,乳房温存手術後の全乳房照射患者40人をヒアルロン酸クリーム群とプラセボ群に分けて放射線皮膚炎の最大の程度を比較した試験では,ヒアルロン酸が有意に低く(p<0.0001),照射野の熱感と落屑もヒアルロン酸が有意に優れていた(それぞれp=0.039,p=0.02)2)。わが国では,乳房温存手術後の全乳房照射患者64例を対象にして保湿薬の有用性を調べるランダム化比較試験が行われた3)。試験群32例は照射2週目から照射後3カ月まで保湿薬としてヘパリン類似物質を塗布し,対照群は無処置としている。保湿薬を塗布することで,4週目の角質水分量は有意に改善を認め(p<0.01),皮膚乾燥と乾性落屑のスコアは照射後4週と3カ月で有意に改善を認めている。しかし,別の報告として,乳がんの放射線治療患者でGrade 1の皮膚炎が発症したときにヒアルロン酸クリームと皮膚軟化薬を振り分けて投与した200例の試験では,治療効果は両群で差がなく(p=0.15),皮膚紅斑の軽減効果も両群に差はなかった(p=0.46)4)

アロエは肌荒れなどに対して用いられているが,放射線皮膚炎の予防を目的に臨床試験が行われている。アロエ・ゲルとプラセボのゲルを照射開始から使用した第Ⅲ相試験では,皮膚炎のスコアは同一であった5)。石鹸または皮膚洗浄剤による洗浄+アロエ・ゲルと石鹸または皮膚洗浄剤による洗浄のみを照射と同時に開始したランダム化比較試験では,27Gy以下ではどちらも差がなかったが,27Gy以上照射した場合には皮膚反応を認める平均期間は洗浄+アロエで5週間であったのに対して,洗浄のみでは3週間であった6)。乳房温存手術を受けて全乳房照射を行う225例を対象としてアロエ・ゲル群と水溶性クリーム群に分けて照射と同時に塗布する第Ⅲ相試験が行われた。水溶性クリームのほうがアロエ・ゲルより乾性落屑の発症や治療に関連した痛みの軽減効果があった7)。アロエ・ゲルの放射線皮膚炎を予防する効果ははっきりしない。

フランスでは日焼け後の保湿クリームとしてtrolamine(BIAFINE)が用いられている。乳房温存手術後で50Gy以上を照射する患者に対してtrolamineと各施設で用いている方法に振り分ける第Ⅲ相試験を行ったところ,最大の皮膚炎の程度に差はなかった(p=0.77)8)。208人の全乳房照射を行う乳がん患者を対象にして,trolamineを含む3種の皮膚ケア薬とプラセボ(滅菌水のミスト)のランダム化比較試験を行ったところ,皮膚障害の予防に対してプラセボを超えるものはなかった9)

乳がんに対する乳房温存療法後の放射線治療では分割照射で50Gy±ブースト10Gy程度照射するが,この程度の線量では広範な湿性落屑に至ることはほとんどない。この程度の皮膚反応は保湿薬を塗布することである程度の予防と治療効果が期待できる。一方,保湿薬以外のアロエ・ゲルやtrolamineなどは効果はないようである。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"radiation injuries", "radiodermatitis", "emollients", "hyaluronic acid", "gels"等のキーワードを用いて検索した。医中誌WebおよびJMEDPlusにて,“放射線療法”,“放射線障害”,“スキンケア”,“保湿”,“被覆”等のキーワードを用いて検索した。また,本企画の放射線グループ内の情報交換を参考にした。

参考文献
1)Liguori V, Guillemin C, Pesce GF, Mirimanoff RO, Bernier J. Double-blind, randomized clinical study comparing hyaluronic acid cream to placebo in patients treated with radiotherapy. Radiother Oncol. 1997; 42(2): 155-61.(レベルⅡ)
2)Leonardi MC, Gariboldi S, Ivaldi GB, et al. A double-blind, randomised, vehicle-controlled clinical study to evaluate the efficacy of MAS065D in limiting the effects of radiation on the skin: interim analysis. Eur J Dermatol. 2008; 18(3): 317-21.(レベルⅡ)
3)Sekiguchi K, Ogita M, Akahane K, et al. Randomized, prospective assessment of moisturizer efficacy for the treatment of radiation dermatitis following radiotherapy after breast-conserving surgery. Jpn J Clin Oncol. 2015; 45(12): 1146-53.(レベルⅡ)
4)Kirova YM, Fromantin I, De Rycke Y, et al. Can we decrease the skin reaction in breast cancer patients using hyaluronic acid during radiation therapy? Results of phase Ⅲ randomised trial. Radiother Oncol. 2011; 100(2): 205-9.(レベルⅡ)
5)Williams MS, Burk M, Loprinzi CL, et al. Phase Ⅲ double-blind evaluation of an aloe vera gel as a prophylactic agent for radiation-induced skin toxicity. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1996; 36(2): 345-9.(レベルⅡ)
6)Olsen DL, Raub W Jr, Bradley C, et al. The effect of aloe vera gel/mild soap versus mild soap alone in preventing skin reactions in patients undergoing radiation therapy. Oncol Nurs Forum. 2001; 28(3): 543-7.(レベルⅢ)
7)Heggie S, Bryant GP, Tripcony L, et al. A Phase Ⅲ study on the efficacy of topical aloe vera gel on irradiated breast tissue. Cancer Nurs. 2002; 25(6): 442-51.(レベルⅡ)
8)Fisher J, Scott C, Stevens R, et al. Randomized phase Ⅲ study comparing Best Supportive Care to Biafine as a prophylactic agent for radiation-induced skin toxicity for women undergoing breast irradiation: Radiation Therapy Oncology Group (RTOG) 97-13. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000; 48(5): 1307-10.(レベルⅡ)
9)Gosselin TK, Schneider SM, Plambeck MA, Rowe K. A prospective randomized, placebo-controlled skin care study in women diagnosed with breast cancer undergoing radiation therapy. Oncol Nurs Forum. 2010; 37(5): 619-26.(レベルⅡ)
 
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