(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 分子標的治療 CQ22

Ⅰ.治療編

分子標的治療

CQ22
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して抗菌薬(マクロライド)の内服は有用か
  推奨グレード
C1b
分子標的治療(抗体薬)に伴うざ瘡様皮疹の予防および治療を目的に,テトラサイクリン系抗菌薬が使えない場合にマクロライド系抗菌薬の内服を考慮してもよい。
  推奨グレード
C2
分子標的治療(キナーゼ阻害薬など小分子化合物)では,マクロライド系抗菌薬との併用により,分子標的薬(小分子化合物)の血中濃度が上昇する可能性があるため併用は基本的に勧められない。

背景・目的

ざ瘡様皮疹は患者のQOLを低下させる(→CQ16「背景・目的」参照)。そこで,ざ瘡様皮疹の予防に対するマクロライド系薬剤内服の有用性を検討した。

解説

広く引用されている米国のガイドライン1)では,ざ瘡様皮疹の予防内服薬としてミノサイクリン,ドキシサイクリンといったテトラサイクリン系抗菌薬が推奨されている。ところが,マクロライド系抗菌薬に関して外用は推奨されているが,内服は推奨されていない。また,尋常性ざ瘡に関して,日本皮膚科学会の尋常性ざ瘡治療ガイドライン2)では予防的な抗菌薬内服は推奨されていない。一方,国内での分子標的薬の皮膚障害のコンセンサス会議3)ではミノサイクリンの内服を勧めている。さらに,その代替えとしてマクロライド系抗菌薬も可としている3)が,薬物血中濃度の上昇の危惧から薬剤相互作用の少ない薬剤(ロキシスロマイシン)を選択することが望ましい。

分子標的薬によるざ瘡様皮疹の予防,治療を目的にマクロライド系抗菌薬を使用する際に注意すべき点として,使用する分子標的薬の薬物間相互作用が挙げられる。マクロライド系抗菌薬には,CYP3A4阻害作用やP-糖蛋白阻害作用を有する薬がある。一方,分子標的薬(小分子化合物)では薬物代謝にCYP3A4やP-糖蛋白が関与する薬があり,マクロライド系抗菌薬との併用により分子標的薬(小分子化合物)の代謝が阻害され,血中濃度が上昇する可能性があるため注意を要する。

CYP3A4阻害作用をもつ薬剤との併用により血中濃度上昇の可能性があるEGFR阻害薬としてはゲフィチニブ,エルロチニブがある。これらの薬はCYP3A4を阻害するクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬との併用により分子標的薬(小分子化合物)の代謝が阻害され,血中濃度が上昇する可能性がある。また,P-糖蛋白阻害作用をもつ薬との併用により血中濃度が上昇する可能性があるものとしてアファチニブがある。クラリスロマイシンはCYP3A4阻害作用のみならず,P-糖蛋白阻害作用も有するため,併用によりアファチニブの血中濃度が上昇する可能性がある。また,CYP3A4阻害作用とP-糖蛋白阻害作用をもつ薬との併用により血中濃度上昇の可能性がある分子標的薬(小分子化合物)として,ラパチニブ,エベロリムスがある。

マクロライド系抗菌薬のなかでも,比較的CYP3A4の阻害作用が弱いとされるロキシスロマイシンでの有効例の報告4)5)もあるが,併用されている分子標的薬との薬物間相互作用に関する考察がなく,臨床上併用する分子標的薬の血中濃度にどの程度影響するかは不明である。したがって,薬物代謝にCYP3A4やP-糖蛋白が関与する分子標的薬(小分子化合物)での治療中に,ざ瘡様皮疹の予防や治療を目的としてマクロライド系抗菌薬を併用することは勧められない。

一方,EGFRを標的とするセツキシマブやパニツムマブは,糖蛋白質の抗体薬である。小分子化合物とは異なり,主たる代謝は,ペプチドやアミノ酸への分解と考えられている。したがって,小分子化合物のような薬物相互作用の懸念はないため,抗体薬で生じたざ瘡様皮疹は,マクロライド系抗菌薬で治療することが可能である。

マクロライド系抗菌薬には,テトラサイクリン系抗菌薬と同様に抗炎症作用があり,分子標的薬によるざ瘡様皮疹において効果が期待される。日本皮膚科学会の尋常性ざ瘡治療ガイドライン2)では,炎症性ざ瘡皮疹に対する治療として,ミノサイクリン,ドキシサイクリンといったテトラサイクリン系抗菌薬内服が推奨度Aであるのに対して,マクロライド系抗菌薬は一番高いロキシスロマイシンで推奨度Bである。ふらつきなど副作用などでミノサイクリンなどテトラサイクリン系抗菌薬が使用できない場合に,代替薬剤としてマクロライド系抗菌薬が挙げられている6)。また,長期の経過観察中に生じたざ瘡様皮疹の二次感染にも,マクロライドの有用性が期待される。

なお,ロキシスロマイシンの適応症は,表在性・深在性皮膚感染症,慢性膿皮症,ざ瘡等である。現在,予防投与には保険適用はない。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"acneiform eruptions", "EGFR", "prevention", "management"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“ざ瘡様皮疹”,“EGFR”,“抗細菌剤”等のキーワードを用いて検索した。加えて,重要文献をハンドサーチで検索した。

参考文献
1)Lacouture ME, Anadkat MJ, Bensadoun RJ, et al; MASCC Skin Toxicity Study Group. Clinical practice guidelines for the prevention and treatment of EGFR inhibitor-associated dermatologic toxicities. Support Care Cancer. 2011; 19(8): 1079-95.(レベルⅥ)
2)林 伸和,赤松浩彦,岩月啓氏,他.尋常性痤瘡治療ガイドライン.日皮会誌.2016; 126(6): 1045-86.(レベルⅥ)
3)川島 眞,清原祥夫,山崎直也,仁科智裕,山本信之.分子標的薬に起因する皮膚障害対策 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告.臨医薬.2014; 30(11): 975-81.(レベルⅥ)
4)有田 賢,笠井麻希,清水 宏.EGFR阻害剤関連の皮疹に対するロキシスロマイシンの効果.皮の科.2012; 11(Suppl. 19): 1-3.(レベルⅤ)
5)白藤宜紀,濱田利久,大野貴司,岩月啓氏.エルロチニブによる皮膚症状とその治療.皮膚臨床.2010; 52(3): 297-302.(レベルⅤ)
6)白藤宜紀.EGFR阻害薬による皮膚障害と治療.医のあゆみ.2012; 241(8): 567-72.(レベルⅥ)
 
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