(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 分子標的治療 CQ20

Ⅰ.治療編

分子標的治療

CQ20
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防にテトラサイクリン系薬剤の内服は有用か
  推奨グレード
B
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防を目的に,テトラサイクリン系薬剤(ミノサイクリン,ドキシサイクリン)を内服することは勧められる。

背景・目的

ざ瘡様皮疹は患者のQOLを低下させる(→CQ16「背景・目的」参照)。そこで,ざ瘡様皮疹の予防に対するテトラサイクリン系薬剤内服の有用性を検討した。ここでいうテトラサイクリン系薬剤とはミノサイクリン,ドキシサイクリンを指すものとする。

解説

ざ瘡様皮疹は,毛包脂腺系の炎症で膿疱を伴うとされている1)。テトラサイクリン系薬剤は,毛包の細菌感染の関与が推測されている尋常性ざ瘡に有効な内服薬として,日本皮膚科学会尋常性ざ瘡治療ガイドラインで推奨され汎用されている。国内のテトラサイクリン系薬剤には,テトラサイクリン,デメチルクロルテトラサイクリン,ドキシサイクリン,ミノサイクリンなどがあり,抗菌薬として働くとともに,抗炎症作用をもつことが知られている。国内のコンセンサス会議では,ざ瘡様皮疹の予防には,ステロイド外用とともにミノサイクリン内服を行うことが推奨されている2)。国際がんサポーティブケア学会のガイドラインでは,ざ瘡様皮疹の予防としてミノサイクリン(100mg 分1)またはドキシサイクリン(200mg 分2)の内服が推奨度A(エビデンスレベルⅡ)として推奨されており,テトラサイクリン(1,000mg 分2)は推奨されていない3)。したがって,テトラサイクリン系薬剤を単剤で用いた場合,各薬剤の推奨度に関して統一した見解は得られていない4)

ざ瘡様皮疹の予防について,テトラサイクリン系薬剤の単剤の内服効果は,4つのランダム化比較試験で検討されている5)~8)。そのうち3つの試験において,テトラサイクリン系薬剤は,中等症以上の病変が重症化することを軽減し,QOLの維持に役立つ可能性が示唆された5)~7)。ただし,テトラサイクリン系薬剤の効果は,ざ瘡様皮疹の出現頻度を軽減するものではない。また,重症化を抑制する効果もエンドポイント(8週後)では失われている5)7)。したがって,テトラサイクリン系薬剤の投与期間は,予防的内服として少なくとも6週以上行い,最大8週までが妥当とされている1)。ざ瘡様皮疹に対するテトラサイクリン系薬剤の内服効果について,海外でのシステマティック・レビューがある1)9)。また,テトラサイクリン系薬剤の予防的内服試験についてメタアナリシスがある1)5)~7)10)。ざ瘡様皮疹の頻度は各試験でほぼ同等であり,いずれの試験においても,テトラサイクリン系薬剤を予防的に投与することにより,中等度以上のざ瘡様皮疹の頻度を軽減することが示されている1)

ミノサイクリンは,軽度の胃腸障害を除けば安全性の高い薬剤で,ざ瘡様皮疹に対してわが国では使用頻度が高い11)。ミノサイクリンの予防的効果はセツキシマブを投与した大腸がん48例のランダム化比較試験5)があり,ミノサイクリン100mg/日とプラセボ投与群で他の試験と同様,投与開始8週目には優位性は消失した。しかし,4週目までは皮膚のかゆみや病変数でミノサイクリン投与群が効果を示し,ミノサイクリンの予防的投与の有用性が示唆されている。そのほか,ミノサイクリンおよびドキシサイクリンの予防的効果は,治療的介入に比べて効果があることが,国内外での臨床試験で示されている10)12)~15)。しかし,ステロイド外用薬なども併用されており,テトラサイクリン系薬剤単独の有用性を検証したものではない。テトラサイクリン内服(1,000mg 分2)のランダム化比較試験では,その予防的有用性は認められていない8)

一般に,長期の抗菌薬の予防投与は適切ではないが,分子標的治療患者では,ざ瘡様皮疹の発症時期が予測されている。したがって,投与期間を限定し,発症初期で皮疹を抑制することは,患者のQOLを維持するうえで有用であり,予防投与が推奨される。注意点として,テトラサイクリン系薬剤は,肝機能障害,光線過敏症があり3),特にミノサイクリンではめまい,ふらつき,間質性肺炎,稀に重症薬疹の可能性がある。なお,ミノサイクリン,ドキシサイクリンの適応症は皮膚表在性,深在性感染症,慢性膿皮症等である。

皮疹があり二次感染が疑われる場合には皮膚表在性感染症として保険適用を考慮してもよい。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"Acneiform Eruptions", "Exanthema", "papulopustular", "acne-like", "skin toxicity", "rash", "EGFR", "Anti-Bacterial Agents", "antibiotic"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“ざ瘡様皮疹”,“EGFR”,“分子標的薬”,“ドキシサイクリン”,“テトラサイクリン”,“アダパレン”,“抗細菌剤”等のキーワードを用いて検索した。加えて,重要文献をハンドサーチで検索した。

参考文献
1)Bachet JB, Peuvrel L, Bachmeyer C, et al. Folliculitis induced by EGFR inhibitors, preventive and curative efficacy of tetracyclines in the management and incidence rates according to the type of EGFR inhibitor administered: a systematic literature review. Oncologist. 2012; 17(4): 555-68.(レベルⅠ)
2)川島 眞,清原祥夫,山崎直也,仁科智裕,山本信之.分子標的薬に起因する皮膚障害対策 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告.臨医薬.2014; 30(11): 975-81.(レベルⅥ)
3)Lacouture ME, Anadkat MJ, Bensadoun RJ, et al; MASCC Skin Toxicity Study Group. Clinical practice guidelines for the prevention and treatment of EGFR inhibitor-associated dermatologic toxicities. Support Care Cancer. 2011; 19(8): 1079-95.(レベルⅥ)
4)柴田和彦,高橋美由喜.Q29 皮膚毒性.がん治療レクチャー.2012; 3(1): 167-70.(レベルⅢ)
5)Scope A, Agero AL, Dusza SW, et al. Randomized double-blind trial of prophylactic oral minocycline and topical tazarotene for cetuximab-associated acne-like eruption. J Clin Oncol. 2007; 25(34): 5390-6.(レベルⅡ)
6)Deplanque G, Chavaillon J, Vergnenegre A, et al. CYTAR: A randomized clinical trial evaluating the preventive effect of doxycycline on erlotinib-induced folliculitis in non-small cell lung cancer patients. J Clin Oncol 28: 15s, 2010 (suppl; abstr 9019)(レベルⅡ)
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8)Jatoi A, Dakhil SR, Sloan JA, et al; North Central Cancer Treatment Group. Prophylactic tetracycline does not diminish the severity of epidermal growth factor receptor (EGFR) inhibitor-induced rash: results from the North Central Cancer Treatment Group (Supplementary N03CB). Support Care Cancer. 2011; 19(10): 1601-7.(レベルⅡ)
9)Tan EH, Chan A. Evidence-based treatment options for the management of skin toxicities associated with epidermal growth factor receptor inhibitors. Ann Pharmacother. 2009; 43(10): 1658-66.(レベルⅠ)
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12)岩﨑弘晃.パニツムマブによる皮膚障害に対する支持療法と,その評価:支持療法の工夫.臨腫瘍プラクティス.2013; 9(3): 306-11.(レベルⅢ)
13)Kobayashi Y, Komatsu Y, Yuki S, et al. Randomized controlled trial on the skin toxicity of panitumumab in Japanese patients with metastatic colorectal cancer: HGCSG1001 study; J-STEPP. Future Oncol. 2015; 11(4): 617-27.(レベルⅡ)
14)Yamada M, Iihara H, Fujii H, et al. Prophylactic Effect of Oral Minocycline in Combination with Topical Steroid and Skin Care Against Panitumumab-induced Acneiform Rash in Metastatic Colorectal Cancer Patients. Anticancer Res. 2015; 35(11): 6175-81.(レベルⅢ)
15)藤川大基,高塚純子,竹之内辰也.抗EGFR抗体による皮膚障害に対する予防的介入の効果についての検討.日皮会誌.2015; 125(3): 427-34.(レベルⅤ)
 
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