(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅰ.治療編
分子標的治療
CQ19 |
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対してアダパレンの外用は有用か | |
推奨グレード C1b |
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防を目的に,アダパレンを外用することを考慮してもよい。 |
●背景・目的
ざ瘡様皮疹は患者のQOLを低下させる(→CQ16「背景・目的」参照)。そこで,ざ瘡様皮疹に対するアダパレン外用の有用性を検討した。
●解説
アダパレンは,レチノイド様の作用をもつ誘導体であり,レチノイン酸受容体に親和性をもつ化合物である。アダパレンゲル(以下,アダパレン)は,尋常性ざ瘡に対する外用薬の一つであり,主に皮膚科領域で汎用される。一方,ざ瘡様皮疹に対するアダパレンの有用性を単剤で検証した臨床試験は,調べ得た限りではない。したがって,アダパレンの有用性を支持するエビデンスは乏しい。しかし,アダパレンとミノサイクリンの併用療法がEGFR阻害薬による皮膚障害予防に有用かどうかを検証する国内臨床試験が実施された1)。大腸がん患者48例に対して,パニツムマブを併用あるいは単剤で投与する際,6週間にわたりミノサイクリン200mg/日(分2)が予防的に投与された。さらに,アダパレン外用(就寝前),保湿薬塗布(1日2回)および外出時に日焼け止めを併用した。この試験は,パニツムマブ+がん薬物療法において保湿薬,日焼け止め,ステロイド外用薬およびミノサイクリン内服薬を用いたSTEPP試験2)を参考に,ステロイド外用薬をアダパレン外用薬に置換して,皮膚障害の予防効果を検証したものである。この結果,ざ瘡様皮疹を含む皮膚障害の出現頻度は83%,Grade 2以上の発現率は29%で,STEPP試験とほぼ同様であった1)。さらに,アダパレン外用に対するアドヒアランス(治療に対する患者の能動的なかかわり)が高い症例では,アドヒアランスが低い症例に比べてGrade 2以上の皮膚障害の発現率が軽減していた。本試験の評価項目は皮膚障害であり,ざ瘡様皮疹のみを対象としたものではない。しかし,パニツムマブによる皮膚障害を予防する目的では,アダパレン外用薬とミノサイクリン内服薬の併用は有用であることが示唆された1)。また,その効果は,ステロイド外用薬とミノサイクリン内服薬を併用した場合と同等であることも示唆された。すなわち,本試験は,ステロイド外用薬をアダパレン外用で代替できることを示すものである。わが国では,概してステロイド外用薬を顔面に用いることに対して抵抗感を示す患者が多い。したがって,外用薬の選択肢を複数提示することは,患者の意思決定を図るうえで重要である。
ざ瘡様皮疹が出現した後,アダパレンを用いて治療的介入を行い,その外用効果を検討した臨床試験は,調べ得た限り存在しない。ざ瘡様皮疹の治療に関して,アダパレンの使用例が散見されるが,国内外とも症例報告である3)~5)。海外の報告では,3例のざ瘡様皮疹についてアダパレン外用の経過が提示され,うち2例で明確に有用性が認められた3)。
いずれの症例でもアダパレンが第一選択薬として使用され,このうち一例はアダパレン単独による治療例であり,もう一例はミノサイクリンを併用した(200mg/日,分2)。残り一例では,アダパレン外用は一定の治療効果が認められたものの,患者の十分な満足には至らず,他のレチノイドを用いた内服療法へ切り替えられた3)。これに対して国内の報告例では,ざ瘡様皮疹に対する最初の治療薬は,ステロイド外用薬あるいは外用抗菌薬である3)~5)。症例報告で提示された5例では,外用を開始したものの,いずれも十分な治療効果が得られなかった。このため,アダパレン外用に切り替え,4例ではアダパレン単独で皮疹が改善し,残り1例ではミノサイクリン内服(200mg/日)を併用することにより改善した。アダパレンの効果は,外用開始後1週間から1カ月で認められている2)~4)。一方,アダパレンの尋常性ざ瘡への治療効果が発現するまでに通常3週ぐらいを要するとされる。したがって,ざ瘡様皮疹に対するアダパレンの効果発現は,同様あるいは比較的早いと考えられる。アダパレンは,多様なランクが存在するステロイド外用薬とは異なり,一つの薬剤で継続して治療を行うことが可能であり,ほぼすべての重症度の患者に使用できる6)。アダパレン外用の主たる副作用は,外用初期のヒリヒリ感である。その後,皮膚刺激感が続くと紅斑や落屑を生じる場合もある。外用回数を軽減することにより,副作用は軽減される場合がある。アダパレンの継続使用時の主たる副作用は乾燥である。EGFR阻害薬に伴うざ瘡様皮疹は,炎症が強い場合もあり,アダパレンの副作用が重篤に表れる可能性もある。乾燥に対しては保湿薬の併用で対処し,他の副作用に対しては,注意深く経過観察をしながら,デメリットのほうが大きいと判断した場合は中止するべきである。また,アダパレンの適応症は顔面の尋常性ざ瘡である。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"acneiform eruptions", "EGFR", "adapalene"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“ざ瘡様皮疹”,“分子標的薬”,“アダパレン”等のキーワードを用いて検索した。加えて,重要文献をハンドサーチで検索した。
参考文献 | |
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1) | 矢内貴子,橋本浩伸,山崎直也,他.Panitumumabによる皮膚障害に対するアダパレン・ミノマイシン併用の予防効果 日本癌治療学会学術集会.2012; 50th: ROMBUNNO.PS2-206.(レベルⅣb) |
2) | Lacouture ME, Mitchell EP, Piperdi B, et al. Skin toxicity evaluation protocol with panitumumab (STEPP), a phaseⅡ, open-label, randomized trial evaluating the impact of a pre-Emptive Skin treatment regimen on skin toxicities and quality of life in patients with metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol. 2010; 28(8): 1351-7.(レベルⅡ) |
3) | DeWitt CA, Siroy AE, Stone SP. Acneiform eruptions associated with epidermal growth factor receptor-targeted chemotherapy. J Am Acad Dermatol. 2007; 56(3): 500-5.(レベルⅤ) |
4) | 松本奈央,西澤 綾,佐藤貴浩,横関博雄.<臨床例>抗EGFRモノクローナル抗体によるざ瘡様病変-0.1%アダパレンゲルによる治療例.皮病診療.2013; 35(3): 287-90.(レベルⅤ) |
5) | 立原素子,徳永俊太郎,田村大介,小林和幸,船田泰弘,西村善博.EGFR-TKIによるざ瘡様皮疹に対しアダパレンが有効であった2例.肺癌.2014; 54(7): 978-82.(レベルⅤ) |
6) | 平川聡史,森ひろみ.第5章 Q1 皮膚障害の評価方法を教えて下さい.四国がんセンター化学療法委員会 皮膚障害アトラス作成ワーキンググループ編著.分子標的薬を中心とした皮膚障害 診断と治療の手引き.大阪:メディカルレビュー社;2014. p.65-74.(レベルⅥ) |