(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 分子標的治療 CQ18

Ⅰ.治療編

分子標的治療

CQ18
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して保湿薬の外用は有用か
  推奨グレード
C1b
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防を目的に,保湿薬を外用することを考慮してもよい。

背景・目的

ざ瘡様皮疹は患者のQOLを低下させる(→CQ16「背景・目的」参照)。そこで,ざ瘡様皮疹に対する保湿薬外用の有用性を検討した。

解説

ざ瘡様皮疹に対する保湿薬について,その有用性を検討した報告はわずかである。したがって,エビデンスは乏しい。一般に保湿薬の主たる目的は,皮膚の乾燥を予防することである。したがって,保湿薬が,ざ瘡様皮疹を予防あるいは治療し得るかどうかは,慎重に検討する必要がある。

保湿薬の一般的な治療対象である皮膚乾燥が,ざ瘡様皮疹の出現と関連があるかどうか検討した報告がある。この試験では,ざ瘡様皮疹の発症頻度について,角層水分量と関連があるかどうかが検討された1)。具体的にはエルロチニブあるいはゲフィチニブを投与した8例について,顔面,体幹部,上腕部で角層水分量を測定する一方,それぞれの部位において,ざ瘡様皮疹の出現頻度を経時的に測定した。この結果,ざ瘡様皮疹の出現頻度と角層水分量の間には,明らかな関連は認められなかった。すなわち,角層水分量の低下とざ瘡様皮疹の発現は,互いに独立して起こることが示唆された1)

セツキシマブにより生じる皮膚障害に対する保湿薬(セラミド入りクリーム)の有用性を検討した報告がある2)。8例に治療的介入を行い,皮膚症状のうち,ざ瘡様皮疹,乾燥,瘙痒感に対して経時的に評価した。結果,治療効果は,皮膚の乾燥に対して認められた。一方,ざ瘡様皮疹および瘙痒感に対する明らかな有用性は認められなかった2)。したがって,ざ瘡様皮疹に対する保湿薬の予防的治療効果は乏しいものと思われる。本試験では,皮膚乾燥に対する治療効果が発現するまでには比較的時間を要した。外用開始後1週間,皮膚の乾燥はいったん増悪する傾向があるものの,2週目以降になると乾燥は明らかに軽減した。保湿薬は,ステロイド外用薬のように速やかに効果を示すものではなく,継続的に使用することにより,皮膚の保湿にかかわる因子を徐々に改善するものと思われる2)。本試験では保湿薬を単剤で使用したため,外用開始1週間目,ざ瘡様皮疹も乾燥と同様に増悪することが示された2)

ざ瘡様皮疹を含む皮膚障害について,その予防的効果が,複数の臨床試験で検討されている3)~7)。いずれも保湿薬を含んだ複数の薬剤を用いて,皮膚障害に対する予防的介入の有用性を示している。そこで,保湿薬の予防的効果がどのような皮膚症状に有用なのか検討すべく,各プロトコールを詳細に比較すると,多くの試験はざ瘡様皮疹を含む多様な皮膚障害を評価項目に挙げている。用いられた保湿薬は多岐にわたるが,その成分を明記したプロトコールは概して少ない6)。さらに,すべてのプロトコールには,併用薬としてステロイド外用薬とテトラサイクリン系薬剤の内服が含まれている。したがって,ざ瘡様皮疹に対する保湿薬そのものの予防効果を評価するには至らない。

ざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対する国内外のコンセンサスあるいはガイドラインでは,より具体的に薬剤が示されている8)~10)。保湿薬を推奨する一方,そのエビデンスが不足していることも指摘されている。ざ瘡様皮疹に対する保湿薬の有用性は,さらに詳細に検討する必要がある。

尿素外用薬の主な保険適用は老人性乾皮症,アトピー皮膚,掌蹠部皸裂性皮膚炎などで,ヘパリノイドでは皮脂欠乏症,進行性指掌角皮症である。ざ瘡様皮疹への保湿薬の保険適用はないが,併発する乾皮症には適応がある。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"Acneiform Eruptions", "Exanthema", "papulopustular", "acne-like", "skin toxicity", "rash", "EGFR", "moisturizer", "Cream"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“ざ瘡様皮疹”,“EGFR”,“分子標的治療”,“分子標的薬”,“皮膚保湿剤”等のキーワードを用いて検索した。加えて,重要文献をハンドサーチで検索した。

参考文献
1)中原剛士,師井洋一,高山浩一,中西洋一,古江増隆.上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬投与に伴う皮膚生理学的変化の部位差と保湿剤の有用性の検討.西日皮.2015;77(4): 399-405.(レベルⅡ)
2)上川晴己,中村将人,五十嵐和枝,他.進行再発大腸癌に対するcetuximab療法における皮膚障害に対するセラミドクリームの有用性および安全性の検討.相澤病院医学雑誌.2013;11: 21-7.(レベルⅤ)
3)Lacouture ME, Mitchell EP, Piperdi B, et al. Skin toxicity evaluation protocol with panitumumab (STEPP), a phaseⅡ, open-label, randomized trial evaluating the impact of a pre-Emptive Skin treatment regimen on skin toxicities and quality of life in patients with metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol. 2010;28(8): 1351-7.(レベルⅡ)
4)Kobayashi Y, Komatsu Y, Yuki S, et al. Randomized controlled trial on the skin toxicity of panitumumab in Japanese patients with metastatic colorectal cancer: HGCSG1001 study;J-STEPP. Future Oncol. 2015; 11(4): 617-27.(レベルⅡ)
5)Yamada M, Iihara H, Fujii H, et al. Prophylactic Effect of Oral Minocycline in Combination with Topical Steroid and Skin Care Against Panitumumab-induced Acneiform Rash in Metastatic Colorectal Cancer Patients. Anticancer Res. 2015;35(11): 6175-81.(レベルⅢ)
6)藤川大基,高塚純子,竹之内辰也.抗EGFR抗体による皮膚障害に対する予防的介入の効果についての検討.日皮会誌.2015;125(3): 427-34.(レベルⅤ)
7)岩﨑弘晃.パニツムマブによる皮膚障害に対する支持療法と,その評価:支持療法の工夫.臨腫瘍プラクティス.2013;9(3): 306-11.(レベルⅢ)
8)Lynch TJ Jr, Kim ES, Eaby B, Garey J, West DP, Lacouture ME. Epidermal growth factor receptor inhibitor-associated cutaneous toxicities: an evolving paradigm in clinical management. Oncologist. 2007;12(5): 610-21.(レベルⅥ)
9)Lacouture ME, Anadkat MJ, Bensadoun RJ, et al;MASCC Skin Toxicity Study Group. Clinical practice guidelines for the prevention and treatment of EGFR inhibitor-associated dermatologic toxicities. Support Care Cancer. 2011;19(8): 1079-95.(レベルⅥ)
10)川島 眞,清原祥夫,山崎直也,仁科智裕,山本信之.分子標的薬に起因する皮膚障害対策 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告.臨医薬.2014;30(11): 975-81.(レベルⅥ)
 
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