(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 分子標的治療 CQ16

Ⅰ.治療編

分子標的治療

CQ16
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して副腎皮質ステロイド外用薬は有用か
  推奨グレード
C1a
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防および治療を目的に副腎皮質ステロイド外用薬を用いることについては,高いエビデンスはないが勧められる。

背景・目的

分子標的薬,特にEGFR阻害薬を投与中に高頻度にざ瘡様皮疹が生じる。ざ瘡様皮疹は,顔面・前胸部など脂漏部位を中心に好発する毛包炎の一型と考えられる1)~3)。ざ瘡様皮疹は,鮮明な紅色丘疹を主体とし,膿疱を伴うこともあり,尋常性ざ瘡と比較するとやや大きい特徴をもつ。炎症が強く瘙痒や疼痛を伴うこともあり,患者のQOLが大きく低下する要因となる。ざ瘡様皮疹は,EGFR阻害薬で頻発する有害事象の一つであり,若年で男性に多い傾向があり,用量依存性といわれている4)。そこで,分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対するステロイド外用薬の有用性を検討した。

解説

ざ瘡様皮疹に対する予防として,ステロイド外用薬単独での有用性を検証した臨床試験は,検索の範囲ではない。したがって,ステロイド外用薬に関する高いエビデンスは存在しない。ただし,パニツムマブ+がん薬物療法における皮膚障害に対する予防的治療と対症的治療との比較対照試験(STEPP試験)では,パニツムマブ投与前日から予防的治療(保湿薬・サンスクリーン・ステロイド外用薬塗布およびドキシサイクリン内服)を行った群では,皮膚障害の発現後に治療を行った群に比べてGrade 2以上の皮膚障害の発現頻度が低下している5)。類似の国内のJ‒STEPP試験でも,ステロイド外用薬を含む予防的併用療法により,ざ瘡様皮疹の重症化が軽減されたとしている6)

ざ瘡様皮疹に対し,海外のコンセンサスでは,重症度にかかわらず比較的弱いヒドロコルチゾン外用が推奨されている7)。さらに中等症以上では,テトラサイクリン系薬剤内服を行うことが併記されている。一方,国内のコンセンサスでは,比較的強力なステロイド外用薬を用いることが推奨され,治療開始時に,顔面にはストロングクラス以上,躯幹・四肢の病変部にはベリーストロングクラスあるいはストロンゲストクラスのものが必要とされる8)。また,症状が軽減するとともにランクダウンを行い,ステロイド外用薬の有害事象を防ぐ必要がある9)10)。エルロチニブの安全性・有効性を検討した国内全例調査の皮膚障害に関する解析結果では11),非小細胞性肺がん9,909例の約60%の症例にざ瘡様皮疹を含む発疹が発現した。このうち75%の患者に皮疹発現後4日以内にステロイド外用薬による治療が行われた。ミディアムクラスのステロイド外用薬にて治療開始した症例のうち,約30%で治療経過中にストロングクラス以上へ変更する必要が生じ,回復軽快までに71.5日(中央値)を要した11)。一方,当初からストロングクラスを導入した症例では,40.0日(中央値)で回復軽快した。ざ瘡様皮疹に限定した分析ではないが,初期の段階から強力なステロイド外用薬を用いることにより,短期間で皮疹を軽減できる可能性が示唆された11)。ステロイド外用薬の効果は抗炎症作用によると考えられている11)。ステロイド外用薬の有効性に関して,STEPP試験以前の報告では,ステロイドなしでの治療の有用性11)13)や,ステロイド酒さのリスクの指摘があり13),有用性の確立にはさらなる試験が必要との意見もある14)。以上から,ステロイド外用薬治療開始後,ざ瘡様皮疹が軽快しない場合,皮膚科専門医へのコンサルトが望ましいと思われる12)

EGFR阻害薬治療では皮膚細菌感染症のリスクが高いが,ステロイド外用薬と皮膚細菌感染症の誘発との関連はみられなかった15)。ただ,ざ瘡様皮膚炎の好発部位は,ステロイド外用薬の副作用が出やすい部位であり,症状の程度に合わせてステロイドのクラスを下げるよう努めるべきである。また,ざ瘡様皮疹は早期に出現し,ピークは2週程度といわれており16),遷延するざ瘡様皮疹は,ステロイド外用薬に伴う副作用の可能性を疑うことが必要である。

ざ瘡様皮疹,ざ瘡にはステロイド外用薬は保険適用を有しない。ただ,ざ瘡様皮疹はざ瘡様皮膚炎ともいわれるように,併発する脂漏性皮膚炎などの皮膚炎は適応症と考えられるほか,ざ瘡様皮膚炎は薬疹の一型とも捉えられる。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"Acneiform Eruptions", "Exanthema", "papulopustular", "acne-like", "skin toxicity", "rash", "EGFR"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“ざ瘡様皮疹”,“EGFR”,“分子標的治療”,“分子標的薬”,“副腎皮質ホルモン”等のキーワードを用いて検索した。加えて,重要文献をハンドサーチで検索した。

参考文献
1)Busam KJ, Capodieci P, Motzer R, Kiehn T, Phelan D, Halpern AC. Cutaneous side-effects in cancer patients treated with the antiepidermal growth factor receptor antibody C225. Br J Dermatol. 2001; 144(6): 1169-76.(レベルⅤ)
2)Van Doorn R, Kirtschig G, Scheffer E, Stoof TJ, Giaccone G. Follicular and epidermal alterations in patients treated with ZD1839 (Iressa), an inhibitor of the epidermal growth factor receptor. Br J Dermatol. 2002; 147(3): 598-601.(レベルⅤ)
3)Jacot W, Bessis D, Jorda E, et al. Acneiform eruption induced by epidermal growth factor receptor inhibitors in patients with solid tumours. Br J Dermatol. 2004; 151(1): 238-41.(レベルⅤ)
4)山崎直也,坂本 繁.進行・再発の結腸・直腸癌に対するパニツムマブ投与時の皮膚障害発現についての検討 パニツムマブ特定使用成績調査のサブ解析.日皮会誌.2014; 124(14): 3159-70.(レベルⅣa)
5)Lacouture ME, Mitchell EP, Piperdi B, et al. Skin toxicity evaluation protocol with panitumumab (STEPP), a phaseⅡ, open-label, randomized trial evaluating the impact of a pre-Emptive Skin treatment regimen on skin toxicities and quality of life in patients with metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol. 2010; 28(8): 1351-7.(レベルⅡ)
6)Kobayashi Y, Komatsu Y, Yuki S, et al. Randomized controlled trial on the skin toxicity of panitumumab in Japanese patients with metastatic colorectal cancer: HGCSG1001 study; J-STEPP. Future Oncol. 2015; 11(4): 617-27.(レベルⅡ)
7)Lynch TJ Jr, Kim ES, Eaby B, Garey J, West DP, Lacouture ME. Epidermal growth factor receptor inhibitor-associated cutaneous toxicities: an evolving paradigm in clinical management. Oncologist. 2007; 12(5): 610-21.(レベルⅥ)
8)川島 眞,清原祥夫,山崎直也,仁科智裕,山本信之.分子標的薬に起因する皮膚障害対策 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告.臨医薬.2014; 30(11): 975-81.(レベルⅥ)
9)清原祥夫.がん化学療法による皮膚障害-分子標的抗がん剤(EGFR阻害薬)を中心に-.WOC nursing. 2014; 2(6): 11-6.(レベルⅥ)
10)Kiyohara Y, Yamazaki N, Kishi A. Erlotinib-related skin toxicities: treatment strategies in patients with metastatic non-small cell lung cancer. J Am Acad Dermatol. 2013; 69(3): 463-72.(レベルⅥ)
11)Yamazaki N, Kiyohara Y, Kudoh S, Seki A, Fukuoka M. Optimal strength and timing of steroids in the management of erlotinib-related skin toxicities in a post-marketing surveillance study (POLARSTAR) of 9909 non-small-cell lung cancer patients. Int J Clin Oncol. 2016; 21(2): 248-53.(レベルⅣa)
12)衛藤 光.EGFR阻害薬による皮膚反応に強力なステロイド外用は必要か? nine recommendations. Visual Dermatol. 2010; 9(8): 812-4.(レベルⅥ)
13)Ocvirk J, Cencelj S. Management of cutaneous side-effects of cetuximab therapy in patients with metastatic colorectal cancer. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2010; 24(4): 453-9.(レベルⅤ)
14)Tan EH, Chan A. Evidence-based treatment options for the management of skin toxicities associated with epidermal growth factor receptor inhibitors. Ann Pharmacother. 2009; 43(10): 1658-66.(レベルⅠ)
15)Eilers RE Jr, Gandhi M, Patel JD, et al. Dermatologic infections in cancer patients treated with epidermal growth factor receptor inhibitor therapy. J Natl Cancer Inst. 2010; 102(1): 47-53.(レベルⅣa)
16)山崎直也.分子標的薬剤によっておこる皮膚症状と対策.Visual Dermatol. 2012; 11(7): 756-61.(レベルⅥ)
 
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