(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 分子標的治療 CQ15

Ⅰ.治療編

分子標的治療

CQ15
分子標的治療に伴う手足症候群に対して創傷被覆材は有用か
  推奨グレード
C1a
分子標的薬,特にマルチキナーゼ阻害薬およびフッ化ピリミジン系薬剤による手足症候群の悪化予防および治療を目的に創傷被覆材を用いることについては,高いエビデンスはないが勧められる。

背景・目的

手足症候群(HFS)は知覚過敏などの異常知覚や疼痛を伴い,QOLを大きく低下させる重要な症状である。HFSにはフッ化ピリミジン系薬剤で,数カ月以上にわたり緩徐に生じるものと,PDGFR,VEGFR,KITなどのチロシンキナーゼをはじめ複数のリン酸化酵素を阻害する分子標的薬により2~3週という短期で急激に生じるものがある。どちらも先行する紅斑,浮腫や異常知覚を生じたのち,慢性期に入り角化が強くなる。この炎症と紅斑のコントロールが重要であり,亀裂やびらんを生じた場合の対応として症状の緩和や治療,予防法として創傷被覆材が有効か否かを検証した。

解説

分子標的薬によるHFSの特徴として,投与早期(2~3週間後)に圧力や荷重が加わる部位に浮腫性紅斑,水疱,亀裂が生じることが知られている。好発時期が投与開始後比較的早期に限定している(ソラフェニブの国内第Ⅱ相試験の場合,3週目までに32.8%,6週目までに43.5%,9週目までに50.4%が発現している)ことから,HFSの対処としては予防が重要とされ,治療前の角質コントロールと保湿薬による予防療法が推奨されている。また,発症後には局所治療を行うと同時に,原因となる分子標的薬の減量・休薬が勧められている。発生メカニズムとして,分子標的薬によるVEGF受容体や血小板由来増殖因子の障害による皮膚の血管新生障害やc-KitやRafキナーゼの阻害による皮膚細胞の障害などが考えられているが,まだ明確にはなっていない。

検索の範囲で,HFSの治療に対する標準治療において高いエビデンスレベルの文献は少ない。

薬剤とHFSの因果関係を示す論文やHFSの発症と臨床的有効性との相関を示唆する論文が散見される1)が,HFSの予防および治療を目的にした創傷被覆材の有用性についてのエビデンスレベルの高い文献は少ない。

HFSの発症メカニズムの検討を行い,皮膚病変が荷重部位や摩擦部位に好発することから,その発生機序が褥瘡に類似していることに注目し,高すべり性スキンケアパッド(商品名;リモイス®パッド)の有用性を検討した報告がある2)3)。高すべり性スキンケアパッドは褥瘡の予防に広く用いられている創傷被覆材である。その特徴として皮膚接着面では湿潤環境を保ち,摩擦係数の低い外側面の高いすべり効果により,皮膚病巣部の摩擦やずれを軽減する機能を有する。①腎細胞がんに対するソラフェニブ投与によるHFS Grade 1が足底に生じた患者を対象に尿素クリーム処理との比較試験を行った。その結果,Grade 2以上に悪化した例は高すべり性スキンケアパッド群では29%,尿素クリーム群69%であり,有意にパッド群で低いという結果であった(p=0.03)。一方,処置を行わなかった手掌のHFSの最悪Gradeの発症には両群間に有意差はなかった(p=0.58)。この結果から,ソラフェニブによって起こる足底のHFSに対し,高すべり性スキンケアパッドは有用であると考えられる。

以上より,足底に生じたHFSにおいて創傷被覆材である高すべり性スキンケアパッドの使用は悪化予防法として有用な可能性がある。

創傷予防用の高すべり性スキンケアパッドには保険適用はないが,皮膚の欠損があり皮膚欠損用創傷被覆材を使用した場合には製品の定める保険適用となる場合もある。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"Hand Foot Syndrome", "Hand Foot Skin Reaction", "Bandages", "dressing"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“手足症候群”,“手足皮膚反応”,“創傷被覆材”,“ドレッシング”等のキーワードを用いて検索した。さらに"Chemotherapy", "Multikinase Inhibitor", "Dermatologic Symptom", "Sorafenib", "Sunitinib", "Regorafenib", "Pazopanib", "Imatinib", "Axitinib",“化学療法”,“マルチキナーゼ阻害薬”,“ソラフェニブ”,“スニチニブ”,“レゴラフェニブ”,“パゾパニブ”,“イマチニブ”,“アキシチニブ”のキーワードで広く収集した。

参考文献
1)Nakano K, Komatsu K, Kubo T, et al. Hand-foot skin reaction is associated with the clinical outcome in patients with metastatic renal cell carcinoma treated with sorafenib. Jpn J Clin Oncol. 2013; 43(10): 1023-9.(レベルⅣb)
2)篠原信雄.腎細胞がんに対するsorafenib どのような患者に用いるのか? エビデンスと実地臨床の評価,副作用対策.腫瘍内科.2014; 13(3): 346-53.(レベルⅥ)
3)Shinohara N, Nonomura N, Eto M, et al. A randomized multicenter phaseⅡ trial on the efficacy of a hydrocolloid dressing containing ceramide with a low-friction external surface for hand-foot skin reaction caused by sorafenib in patients with renal cell carcinoma. Ann Oncol. 2014; 25(2): 472-6.(レベルⅡ)
 
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