(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅰ.治療編
化学療法
CQ7 |
化学療法による手足症候群に対する予防としてビタミンB6内服は有用か | |
推奨グレード C2 |
化学療法による手足症候群に対する予防として,ビタミンB6を内服することは基本的に勧められない。 |
●背景・目的
化学療法による手足症候群(HFS)は手掌・足底発赤知覚不全症候群や手掌・足底紅斑,肢端紅斑,手足皮膚反応とも呼ばれ,手掌や足底に疼痛および皮膚変化をもたらす副作用である。症状が進行すると腫れ,水疱,落屑,潰瘍を伴う場合もある。これらのHFSの発現機序は明らかになっておらず,有効な治療法はまだない。そのなかで,HFSの予防法としてビタミンB6(ピリドキシン)内服の有効性を検討した報告があるため,これについて検討した。
●解説
HFSを起こす可能性のある抗がん剤としては,5-FU,ドキソルビシン,ドセタキセルなどが知られている。抗がん剤のなかでもカペシタビンは高頻度にHFSを起こすことが知られており,その出現頻度は45~68%との報告がある1)2)。ドキソルビシン塩酸塩リポソーム(注射剤)についても,78.3%との報告がある3)。
HFSの発現機序は明らかになっておらず,有効な治療法はまだない。そのため日常臨床では保湿薬の塗布,感染予防のための創部ケア等が中心に行われているのが現状である。その一方で,HFSはピリドキシン不足によって発症する肢端疼痛症に類似しているため,カペシタビンによるHFSに対して,経験的にピリドキシンが用いられてきた背景がある4)。その他,5-FUやドセタキセル,エトポシドやドキソルビシンによるHFSの予防や治療としてピリドキシン100~300mg/日の内服が報告されている。
Beveridgeらは,5-FU持続静注を受ける26人の患者に対し,ピリドキシン50mgを1日2回内服する群とプラセボ群で比較したところ,ピリドキシン群においてHFSの症状軽減効果が高かったと報告している5)。
その一方でKangらは,化学療法歴のない消化器がんの患者でカペシタビンを含む治療を行う389例の患者を対象に,ピリドキシン群(ピリドキシン100mgを1日2回内服)195例とプラセボ群194例にランダムに割り付け,二重盲検試験を行っている6)。Grade 2もしくはGrade 3のHFSが出現するまで観察を続け,プラセボ群でGrade 2,3のHFSが出現した患者に対しては,さらにその時点でピリドキシン群とプラセボ群に割り付け,HFSの改善効果をみた。ともに3サイクル,Grade 2以上のHFSの発現率はプラセボ群で30.6%(50/180例),ピリドキシン群で31.7%(57/180例)であった。主要評価項目であるGrade 2以上のHFSが出現するまでのカペシタビンの累積投与量は両群で有意差を認めなかった(HR=0.95;p=0.788)。また,副次評価項目として,プラセボ群に割り付けられた患者でGrade 2以上のHFSが出現した44例の患者を再度プラセボ群21例とピリドキシン群23例に割り付け,HFSの改善効果をみているが,結果として,次のサイクルまでにHFSの改善がみられた患者はプラセボ群で42.9%(9/21例),ピリドキシン群で47.9%(11/23例)と,有意差を認めなかった(HR=1.12;p=0.94)。
同様に,Gruenigenらはドキソルビシン塩酸塩リポソーム(注射剤)(PLD)(40mg/㎡,4週サイクル)の投与を受ける再発卵巣がん,乳がん,子宮内膜がん患者34例を対象に,ピリドキシン群(ピリドキシン100mgを1日2回内服)18例とプラセボ群16例にランダムに割り付け,二重盲検試験を行っている7)。この試験におけるHFSの発現率は,ピリドキシン群で53%(8/15例),プラセボ群で50%(6/15例)と有意差を認めず(p=0.857),Grade 2,3のHFSの発現率についてもピリドキシン群で40%(6/15例),プラセボ群で29%(4/14例)と有意差を認めなかった(p=0.70)。
その他,HFSの予防に関する報告ではないが,Wiernikらはhexamethylmelamineとシスプラチンの併用療法を受ける卵巣がん患者に対し,hexamethylmelamineによる神経毒性の軽減目的でピリドキシン300mg/㎡/日の投与を行ったところ,ピリドキシン投与なし群と比べて神経毒性を軽減したが,抗腫瘍効果の持続期間を短縮させたと報告しており8),抗腫瘍効果減弱の可能性も否定できず,ピリドキシンの予防使用は勧められない。
以上より,化学療法によるHFSに対する予防としてのピリドキシンの効果は前向きのランダム化二重盲検試験の結果でプラセボ群との間に有意差が認められておらず,エビデンスとして確立されていない。そのため,化学療法による手足症候群に対する予防としてビタミンB6の内服は基本的に勧められない。
医療用内服ピリドキシン製剤の保険適用は,ビタミンB6欠乏症の予防および治療(薬物投与によるものを含む),ならびにビタミンB6の欠乏または代謝障害が関与すると推定される急・慢性湿疹,脂漏性湿疹,接触皮膚炎に限定されている。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"Antineoplastic Agents", "hand-foot syndrome", "pyridoxine"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“抗腫瘍剤”,“手足症候群”,“ビタミンB6”等のキーワードを用いて検索した。
参考文献 | |
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1) | Abushullaih S, Saad ED, Munsell M, Hoff PM. Incidence and severity of hand-foot syndrome in colorectal cancer patients treated with capecitabine: a single-institution experience. Cancer Invest. 2002; 20(1): 3-10.(レベルⅣb) |
2) | Heo YS, Chang HM, Kim TW, et al. Hand-foot syndrome in patients treated with capecitabine-containing combination chemotherapy. J Clin Pharmacol. 2004; 44(10): 1166-72.(レベルⅣb) |
3) | Katsumata N, Fujiwara Y, Kamura T, et al. PhaseⅡ clinical trial of pegylated liposomal doxorubicin (JNS002) in Japanese patients with mullerian carcinoma (epithelial ovarian carcinoma, primary carcinoma of fallopian tube, peritoneal carcinoma) having a therapeutic history of platinum-based chemotherapy: a PhaseⅡ Study of the Japanese Gynecologic Oncology Group. Jpn J Clin Oncol. 2008; 38(11): 777-85.(レベルⅣa) |
4) | Fabian CJ, Molina R, Slavik M, Dahlberg S, Giri S, Stephens R. Pyridoxine therapy for palmar-plantar erythrodysesthesia associated with continuous 5-fluorouracil infusion. Invest New Drugs. 1990; 8(1): 57-63.(レベルⅣa) |
5) | Beveridge RA, Kales AN, Binder RA, Miller JA, Virts SG. Pyridoxine (B6) and amelioration of hand/foot syndrome. Proc Am Soc Clin Oncol. 1990; 9: 102a (abstr 393).(レベルⅡ) |
6) | Kang YK, Lee SS, Yoon DH, et al. Pyridoxine is not effective to prevent hand-foot syndrome associated with capecitabine therapy: results of a randomized, double-blind, placebo-controlled study. J Clin Oncol. 2010; 28(24): 3824-9.(レベルⅡ) |
7) | von Gruenigen V, Frasure H, Fusco N, et al. A double-blind, randomized trial of pyridoxine versus placebo for the prevention of pegylated liposomal doxorubicin-related hand-foot syndrome in gynecologic oncology patients. Cancer. 2010; 116(20): 4735-43.(レベルⅡ) |
8) | Wiernik PH, Yeap B, Vogl SE, et al. Hexamethylmelamine and low or moderate dose cisplatin with or without pyridoxine for treatment of advanced ovarian carcinoma: a study of the Eastern Cooperative Oncology Group. Cancer Invest. 1992; 10(1): 1-9.(レベルⅡ) |