(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅰ.治療編
化学療法
CQ1 |
脱毛の予防や重症度の軽減に頭皮冷却は有用か | |
推奨グレード C1a |
化学療法中に頭皮冷却を行うことにより,化学療法中および終了時の脱毛の程度が軽減するかについて日本人を対象とした明確なエビデンスはないが,頭皮冷却を行うことは勧められる。ただし,わが国では現在,頭皮冷却は保険適用外であり,実施可能施設も極めて限定されている。 |
●背景・目的
がんにおける化学療法では抗がん剤の種類により高頻度に脱毛を引き起こす。化学療法施行中にクーリングキャップによる頭皮冷却を行ったときの脱毛予防に対する有用性を検証した。
●解説
がん化学療法により,しばしば脱毛を引き起こすことが知られており,脱毛予防のための対策が研究されてきた。その中で頭皮冷却は最も研究が行われており,小規模のランダム化比較試験が3件(いずれも計40名以下),前向き非ランダム化比較試験は9件(そのうち1件は同一試験のため8件),および1件のメタアナリシスが報告されていた。なお,頭皮冷却法とは,クーリングキャップを装着し頭皮を冷やすことにより血流を減らし,毛根への抗がん剤の作用を少なくすることで脱毛を抑制するものである。冷却には保冷剤や冷却水を循環させる方法などがある。
ランダム化比較試験のうち1件は,乳がん患者を対象に化学療法としてエピルビシン75mg/㎡とドセタキセル75mg/㎡を3週間毎に計6回行うものである1)。各群15例(計30例)に割り付けられ,介入群は冷却による苦痛からの脱落が9名に認められた。化学療法がすべて終了した時点でエキスパート2名による客観的評価では有意差は認められなかった。他の2件はドキソルビシンを含むレジメンによる脱毛を予防できるか検討したものである2)3)。結論として介入群では高度の脱毛をきたす割合が低く,クーリングによる脱落も少なかった。
一方,非ランダム化比較試験では,脱毛に対する患者の価値観を配慮し,患者希望によりクーリングキャップを使用する群と使用を拒否した群に分けて検討を行っている4)~11)。抗がん剤は主にアンスラサイクリンであったが,いずれの研究でも使用群で脱毛の割合が低く,冷却による苦痛からの脱落も少なかった。
メタアナリシスでは,3件のランダム化比較試験と7件の非ランダム化比較試験を分析しており,頭皮冷却は化学療法による脱毛のリスクを有意に低下させるとしている12)。化学療法レジメン,クーリング装置,設定温度,クーリング時間,評価法の違いなどがあり,これらの標準化は課題であるが,化学療法中の頭皮冷却は,今後,脱毛予防において十分期待される方法である。米国では,2015年12月,米国食品医薬品局(FDA)により,乳がん化学療法を受ける女性の脱毛症(alopecia)を予防するための頭部冷却装置(商品名DigniCap)が初めて承認されている。
ただし,わが国では現在保険適用外の自由診療として行われており,実施可能施設が極めて少ない。また,日本人の頭部形状に合わせた頭皮冷却装置が現在臨床試験中である。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"cancer", "chemotherapy", "alopecia", "cooling cap", "scalp cooling", "scalp hypothermia"等のキーワードを用いて検索した。J-STAGEおよび医中誌Webにて,“化学療法”,“脱毛”,“頭皮”,“冷却”等のキーワードを用いて検索した。頭皮冷却の有無で比較している試験を選択し,アブストラクトのないものは除外した。
参考文献 | |
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1) | Macduff C, Mackenzie T, Hutcheon A, Melville L, Archibald H. The effectiveness of scalp cooling in preventing alopecia for patients receiving epirubicin and docetaxel. Eur J Cancer Care (Engl). 2003; 12(2): 154-61.(レベルⅡ) |
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3) | Satterwhite B, Zimm S. The use of scalp hypothermia in the prevention of doxorubicin-induced hair loss. Cancer. 1984; 54(1): 34-7.(レベルⅡ) |
4) | Kargar M, Sarvestani RS, Khojasteh HN, Heidari MT. Efficacy of penguin cap as scalp cooling system for prevention of alopecia in patients undergoing chemotherapy. J Adv Nurs. 2011; 67(11): 2473-7.(レベルⅣa) |
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10) | Villani C, Inghirami P, Pietrangeli D, Tomao S, Pucci G. Prevention by hypothermic cap of antiblastic induced-alopecia. Eur J Gynaecol Oncol. 1986; 7(1): 15-7.(レベルⅣa) |
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12) | Shin H, Jo SJ, Kim do H, Kwon O, Myung SK. Efficacy of interventions for prevention of chemotherapy-induced alopecia: a systematic review and meta-analysis. Int J Cancer. 2015; 136(5): E442-54.(レベルⅠ) |