(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 


このたび,平成25-27年度国立がん研究センターがん研究開発費「がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究」班の成果物として,「がん患者に対するアピアランスケアの手引き」を金原出版より出版することになりました。

手術・抗がん剤・放射線といった,侵襲的ながん治療は,さまざまな皮膚症状や脱毛,形態の変化などの外見変化を生じさせ,患者のQOLを下げる大きな要因になっています。しかし,それらの症状は,長い間,「命と引き換えにやむを得ないもの」と考えられ,その予防法や治療法は注視されることがなく,evidence-based medicine(EBM)の流れから置き去りにされたままになってきました。加えて,外見の症状への対処法は,患者の生活において,スキンケアや化粧,ヘアケアなどの日常整容行為とも密接な関係にあるにもかかわらず,科学的に検証されることはありませんでした。これは,がん患者の外見の問題が,医学のみならず,看護学,薬学,香粧品学,心理学などの狭間に位置し,多分野の連携なしに適切な解答を導き得なかったことに由来すると思われます。

本手引きは,診療ガイドラインの作成手引きの手法を用いて作成しました。研究班には,各分野の専門家が集い,レビューやコンセンサス会議による検証を重ねたことは,学際的で画期的な試みといえます。また,文献検索においても,特定非営利活動法人日本医学図書館協会診療ガイドライン作成支援事業の皆様に全面的な協力を得ました。また,全体の運営に際しては,各種ガイドラインの作成に精通している2名の先生のアドバイスをいただきました。さらに,草案作成後は,日本皮膚科学会・日本がん看護学会・日本放射線腫瘍学会・日本香粧品学会から推薦された8名の外部評価委員の先生方からも評価,校閲をいただき,最終的な改訂を加えて今回の公開に至りました。

しかし,この作業は,アピアランスケアの分野がEBMから遠く隔たったところにあるということを示す結果となりました。50項目のCQのうち,推奨グレードBは5項目しかありませんでした。日常整容編においては,がん患者を対象にしたエビデンスといえるものはありません。エビデンスが不足する場合には,グループディスカッションや班会議を重ねて検討し,現時点において最も妥当と考えられる,専門家としての意見を付記しました。そのため,今後発表される研究成果により,本手引きの内容は変更される可能性が十分にあります。本来,そのような項目はCQから削除すべきかもしれません。しかし,多分野の専門家と患者代表を交えて検討することにより,一般の教科書とは異なる提言をすることにしました。というのも,この提言が,新たな議論を生むたたき台となり,結果的にアピアランスケアが発展することが期待されるからです。

本手引きが,治療による外見変化に悩むがん患者にかかわる多くの方々に活用され,医療者が行う治療行為や患者指導,情報提供において,より良いアピアランス支援の方法を選択するための1つの基準を示す一助になれば幸いです。

2016年6月
国立がん研究センター中央病院
アピアランス支援センター
野澤 桂子
 
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